ライカより新レンズとして登場した「Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6」というレンズに世界中のライカファンが驚いたことでしょう。なぜならそのレンズは1955 年から1963年まで当時ウェッツラーにあったライツ社の工場で製造されたスクリューマウント方式のレンズ、通称『赤ズマロン』と同名・同スペックであり、デザインも同一だったからです。しかし、よくその鏡筒を見ると、デザインは旧モデルを踏襲しつつも細部の寸法や形は異なっており、新たに再設計されたものだと気付くはずです。今までにもライカからは『過去のレンズを模したデザイン』の限定レンズが発売されてきましたが、この『Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6』はレンズ構成も当時と同じ作りになっている復刻レンズ。なぜ“新たに”ヴィンテージレンズを作り直し、蘇らせたのか。今回は開発責任者であるライカカメラ社のステファン・ダニエル氏に特別インタビューを行いました。ぜひご覧ください。 |
本レンズのお話を最初に伺った際には、正直に言って非常に驚きました。なぜなら近年のカメラ・レンズ製品の多くは、高精細・高画質というベクトルに向かって進化を遂げているように思え、それはライカ製品にも通じる部分が多いと思えたからです。2,000万画素を超える高精細なCMOSセンサーを搭載した『LEICA M(Typ240)』や、色収差を徹底的に補正した究極の標準レンズ『Leica (ライカ) アポズミクロン M50mm F2.0 ASPH.』などは、その最たる例だと思います。そうした風潮の中で、なぜ今、敢えて60年前のヴィンテージレンズを蘇らせるという判断に至ったのかをお聞かせください。
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撮影にヴィンテージレンズを求めるユーザーは多くいらっしゃいます。それはデジタルへのライカMシステムのユーザーも同様です。 ヴィンテージレンズには、現在の画像編集ソフトでは決して再現することのできない、特殊な効果があります。しかし、製造から長い月日が経ち、それらヴィンテージレンズの市場での数は減りつつあります。このような状況から我々はこのアイコン的なヴィンテージレンズを復刻する事にしました。
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つまり、世界中の根強いヴィンテージレンズ愛好家の方々の要望を叶えた。そんな逸品なわけですね。そのアイコン的な1955年製の「Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6」とは、一体どのような製品なのでしょうか。当時の世界では、どのようなシチュエーションで使用されていた製品だったのでしょうか。
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1950年代のことですから、現在とは環境が大きく異なります。当時、35mm判で28mmという画角のレンズは極端な広角レンズで、まだそれほど種類も多くありませんでした。かつての「Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6」は、そんな中でも広い画角が求められるシチュエーションとして、主に建築写真と風景写真の分野で使用されました。
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当時、35mmよりも広角側のライカレンズのバリエーションは非常に少なく、この『赤ズマロン』はそのような開発が難しい画角に現れたある種特異な存在でした。 1935年に生まれた28mmレンズの始祖とも言える「Hektor 28mm F6.3」から、大戦を挟んだとはいえ20年の年月を経て、ようやく半段明るくなったことからも、当時の広角レンズ設計の困難さがうかがえます。 |
当時としては異例の超広角として誕生したレンズだったのですね。そんなレンズが世の中にもたらした効果とは、いかなるものだったのでしょうか。
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このレンズは、当時としては、非常に高いコントラストと解像度を発揮し、その描写性能は今日でも評価されています。また、軽量でコンパクトな事から携帯性にも優れており、多くのライカユーザーに受け入れられました。
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28mmという画角をより身近にした転換点とも言えるかもしれませんね。そんな往年のズマロンと、今回の復刻モデル。2つのレンズの相違点としては、どのような点が挙げられますか。また、今回の復刻にあたり、往年のモデルをどこまで意識しましたか。
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今回は伝説的なキャラクターはそのままに、外観のデザインを他の現行Mレンズの様に現代風に変更しました。現行のMレンズと同様に6ビットコードを採用しており、また、レンズの指標のフォントなども現行のレンズと同様になっているなど、クラシカルながらもモダンにアップデートされています。 意識した点では、かつての画期的な機構をそのまま活かすことを考えました。まず第一にピントリングの回転角です。現代のレンズでは、∞から最短距離までのピントリングの回転角は、90度程ですが、「Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6」はその倍となる180度近く動きます。稼働域が広がることにより、とても精度の高いフォーカシングが可能となり、また、被写界深度スケールの幅が広くなり、非常に見やすくセットしやすいので、よりパンフォーカス的な使い方が可能となるのです。 第二に、当時好評であった無限ポジションのフォーカスロック機構も採用しています。固定できることでレンズの着脱が容易になるメリットを備えています。
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往年のユーザーと現代のユーザー、双方が求める機能がそろった、まさに夢のレンズと言えますね。ライカに憧れを持つ方であれば、その名前を聞いただけで心が躍る今回の復刻レンズですが、その計画は「いつ」「どこで」「誰が」「何をきっかけに」生まれたのでしょうか。
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きっかけは幾つかあります。ヴィンテージレンズによって撮影された美しい写真や、世界中のユーザーからの声、リクエストからも強く影響を受けています。そうしたいくつもの声が集まり、今回の復刻プロジェクトへとつながりました。開発が始まったのは2年程前のことです。
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ヴィンテージレンズの復活を渇望し、ライカ社へ要望を届けたユーザーの声が発端というのは、非常に嬉しいお話ですね。そんな復刻プロジェクトにあたり、最も困難であった点はいかなるものだったのでしょうか。
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オリジナルレンズのクラシックな外観をほぼそのままに、そして光学系を進化させないまま、ガラスの種類やコーティングを新しくする事、要するに昔のレンズをそのまま現代のレンズとして製品化する事は、今の技術者にとっては新しいチャレンジとなりました。
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60年前と同じ素材は使うことが出来ないですからね。ウェッツラーの技術者の方々のたゆまぬ努力の甲斐あって世に生まれた製品といえますね。そんな、この製品が最も本領を発揮できるシチュエーションと、個人的なお勧めのシチュエーションを、最も「Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6」を知り尽くしているステファン・ダニエル氏にお伺いしたいと思います。
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現代のデジタルMカメラでは、過去のフィルム時代では不可能に近かった、高感度のISOを用いた撮影が可能です。今回の「Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6」でも、現実的に使用可能な絞り域がとても広くなり、被写界深度を自由にコントロールした撮影が楽しめるようになりました。また、先にお話ししたとおり、ピントリングも素早く調整できますし、パンフォーカス的な使い方にも適しています。とても速写性に優れたレンズですので、ストリートフォトに常に携行いただくにはうってつけです。
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個人的にはこのレンズの復刻を皮切りに、今後さらなる往年の銘玉の復刻が続くのか非常に気になるところですが・・・、そのあたりについてはいかがですか。
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すみません、会社の方針で将来的な計画についてはお話できません。(笑)
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わかりました。それでは、今後どのような製品が生まれるのかは、あれこれ想像しながら次なるサプライズを待つことにしましょう。(笑) 最後に、ライカを愛する人々へメッセージをお願いします。
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この新しい「Leica (ライカ) ズマロン M28mm F5.6」は、素早い撮影、クラシカルな描写、自然なコントラスト、高い解像度を得る事ができる、コンパクトながらも中身の濃いヴィンテージレンズです。このレンズを使用していただく事によって、新しいMフォトグラフィーの魅力を堪能していただけるものと思っています。
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ありがとうございました。
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