写真家:斎藤巧一郎 『日常 x ライカ』
2021年02月01日
7年前、長崎に居を移した。家族の事情もあるが、そこは日本の写真発祥の地で、いつも祭りやイベントで被写体に事欠かないから。
お盆は盛大な精霊流し、秋の大祭くんち、春は旧正月に街中にたくさんのランタンを灯す。そんな長崎人は普段からお祭り気質で、人々は日常でも着飾って繁華街に出かけ美食を楽しんだり、文化的なものにも大いに興味がある。
ところが新型コロナ感染症が長崎でも猛威をふるい、楽しみな祭りや催しは中止され、多くの人が足を運ぶ繁華街に賑わいはなくなった。
昨年の秋は、祭りの龍が舞うこともなく、今年の新春にはランタンも灯さない。その寂しさに昨年の写真を振り返り見返すと、豪勢な山車を担ぎ、多くの人々が喝采を送っている。その中に私はライカを構え、祭りの高揚を覚え、夢中でシャッターを押していたことを思い出す。
そんな昂る気持ちを的確に捉えてくれるのはライカSL2だ。シャープで再現性が素晴らしいSLレンズ、早いオートフォーカスと近接能力も高く、撮影者の感情、思いを表現してくれる。表現してくれるどころか、イメージしている撮影結果よりも、もっと素晴らしいものになっていてハッとするのだ。
それはライカ Mでも、Qでもそうだ。ライカで撮影に臨んだ事がある方なら分かる、あの感覚。高価なカメラだからそう思ってしまっている?というわけではない。ライカの生み出す写真は叙情的なのだ。
正確に写すことがカメラとして正しいと思うが、ライカは正確に捉えてはいるけれど、私よりも感情的な解釈していると思う時がある。レンズはやわらかさ、硬さを私が思うよりも伝え、カメラの絵作りは温かさ冷たさを私が思うよりも表現している。
私の意を汲み取りつつ、その場面をライカが解釈をしているようにも思えるのだ。そんなカメラが面白く無いわけがない。ライカは写真の上に心を載せた表現で、撮影を後押ししてくれる。
秋の祭り“長崎くんち”は、町ごとの演目で、演目にたずさわる人々は4ヶ月仕事も休んで練習を重ねる。見る側も気合が入る。高い席料でも一等席には、くんちばかと言われるほどの追っかけも多い。私も豪華な山車や着物を揃えて演じる人々を、ライカなら相応だと撮るにも気合い十分だ。
新春の長崎は旧正月には中国式のお祭りで、街中にランタンを飾る。灯りをともせば寒い夜もライカを手に出かけたくなるものだ。
高感度特性も良好なライカSL2は、夜の撮影では躊躇なく高感度の設定に。高感度ノイズはフィルムのような粒状で、粒子が浮いているような感じがすると私は積極的に多用している。そういう絵作りが、ライカカメラが生み出す「思っている以上になって現れる」ことの一つだろう。
ライカを手にするようになって30年になる。フィルムでも明らかに他と違う写りだった。濃厚なカラー、豊富な諧調。レンズがそれをもたらしていた。デジタルになって、そのライカテイストは画像処理エンジンの技術者によっても引き継がれている。デジタル的な味付けがライカらしいだけではない。
SLレンズシリーズは圧倒的な高画質で、35mmアポズミクロンの解像感はすさまじい。利便性の高いズームシリーズもパーフェクトな画質で、その辺の単焦点レンズを寄せ付けない。近接も可能で、お気に入りのライカRのマクロレンズは全く出番がなくなった程。
ライカのプロダクトはどれも妥協がなく大きさも価格もすごいが、その分の画質、価値が見合う。定評のあるライカMに比べ、ライカSLは新しいライカを体現するチャレンジングなもの。それが今までのライカには無い面白さだ。早いオートフォーカスや近接撮影など、自由自在に思うままに撮ることが出来る。
長くフィルムカメラのライカRを使っている。そのRレンズもライカSL2で最新のレンズと併用している。最新のレンズは素晴らしい再現してくれるが、ライカRレンズはクラシカルな再現で、もちろんライカならではの味わいのある写り。
じっくり撮るならマニュアルフォーカスもいい。ピントを合わせるポイントは作画の意識を最大に伝えるポイント。ふわりと柔らかく、それでいて芯がある写り。レンズ選びは絵を描く筆選びのようで、細い線、太い線を描き分ける個性のあるレンズが欲しいもの。長い伝統のライカは共通した味わいがありつつ、それぞれに表現の異なる個性があって、その選択もライカを使う楽しさである。
私は多くの人が関わる撮影現場や、海外、国内の旅先に被写体を見つけている。それが私の日常ではあるのだが、普段の身の回りにも被写体が溢れていることを、こういう時だからこそ再発見する。
窓からの光に猫の毛は艶やかで、それをライカが再現してくれるだけで幸せな気持ちにもなる。
絶景と言われるような場所のダイナミックな光景ではないが、暮らしの中でもライカが素敵な光景に見せてくれる場面がある。いつもの店が閉まっていても残念でもなく、路面電車のルーティーンな道すがらもライカが想像以上の光景に仕上げてくれる。
今いちど、ライカが見せてくれる感覚と自分のイメージを擦り合わせ、勘を研ぎすませライカで日常を丁寧に撮っていくことにしたい。