『Angenieux』、アンジェニューと読む総合光学メーカーがフランスに存在する。現在も同社は存続しているが、映画用レンズで一世を風靡した由緒ある老舗レンズメーカーの1つだ。その『Angenieux』が1950年頃に生産したのがこの『Angenieux Retrofocus 28mm/f3.5』。レトロフォーカスタイプというフランジバックを大きく稼いだ広角レンズを初めて設計した同社、このレンズはライカマウントやM42マウント、エキザクタマウント等数多くのカメラボディ向けに供給された銘玉の1つである。一眼レフにも採用できるレンズのため、ライカマウントでは望遠レンズの様な全長が目立つが、軽合金を黒く染めた外装と細かなローレットの刻みがフランスらしい優美さを感じさせる1本だ。
ヴィンテージのレンズであるため個体差が大きいが、その描写傾向は総じてローコントラストかつ柔らかなもの。ピント面から柔らかくベールをまとう様に滲む前ボケが美しい、独特な個性を持つレンズだ、
撮影時はあいにくの曇天に見舞われたが、このレンズにはむしろ合った天候かもしれない。空の雲のトーンも重みがあり、暗部にもしっかりと諧調が残っているためアンダー目に振った写真でも黒が抜けてしまわない。滲みは周辺に残るが、線が太く感じる事も無く しっとりとした描写には好感が持てる。
ツリーの細かい枝葉を見ると、元データでもしっかりと解像している事が分かる。繊細な描写力を持ちつつ、どうも独特な描写を持つ。コントラストもヌケの良さも無いが、好きな人にはたまらない実に個性的なレンズだ。
モノクロームとの相性も抜群だ。フィルムでは解像力をしっかりと拾う高性能なものと合わせると、滲みの中にある繊細な解像線までしっかりと捉えてくれる。
筆者も一眼レフ用の『Angenieux Retrofocus 28mm/f3.5』レンズを所有しているが、ライカマウントの最大の長所はそのピント合わせにあると言えるだろう。コントラストが低く、ボケが浅く、解像線が僅かに滲むこのレンズのピントを一眼レフのスクリーン上で捉えるのは至難の業。近接撮影こそ難しいが、レンジファインダーでのピント合わせはこうした際に大きなアドバンテージを発揮する。
改造品も存在するが、オリジナルのライカマウントは数の少ないレンズである。レンズ自体も柔らかくコーティングも傷つきやすく、綺麗な状態で残っているものは更に少ない。ちなみに今回試写を行ったレンズは初期型、後期型ではローレットの刻みが大きく、メッキも輝きのあるものになる。シネレンズの流れを汲むその独特な描写に魅せられてしまうと……ライカレンズの世界は広い。ぜひ自分に合った1本を見つけて頂きたいと思う。
Photo by MAP CAMERA Staff
Leicalens-Report.