今回は『Voigtlander ULTRON 75mm F1.9 SC VM』をご紹介いたします。あえて非球面レンズは使用せず、球面収差を適度に残存させることでボケと解像のバランスを最適化させた約290gのコンパクト中望遠レンズです。ライブビュー機能を活用すれば0.5mまでピント合わせが可能でSC(シングルコーティング)とMC(マルチコーティング)の2種類があります。今回はSC(シングルコーティング)で撮影してきました。豊潤なボケ味を追求した中望遠レンズ、どんな写りを見せてくれるのか楽しみです。
ピントを深めに置いても被写体の立体感がありますし光と影のコントラストもしっかり出ています。少し絞っているとはいえ、とてもシャープな描写です。
ソファの輪郭をなぞる柔らかい光。シャープさもあって、そのうえで上品で優しい描写。このレンズを使いたいと思っている方にとっては理想的な写りではないでしょうか。
街中でのスナップでは中望遠らしい抜け感のある画が撮れます。85mmほど寄らず50mmよりジっと見つめたときの世界。とっさのシャッターチャンスで画角の整理がしやすい75mmはスナップをするときの最適な画角なのではないかと思います。
ドアの手すりの艶っぽさが色っぽくて気に入りました。撮る前はもっと柔らかい画になるかと思っていたのですが、ちゃんとシャープさもある画に。前後のボケ感もとても心地よいです。
手前のボケが奥への視線の誘導をしてくれます。被写体を引き立たたせる中望遠らしい写りです。
F4まで絞ると周辺までしっかりシャープに写ります。こういう画を撮るために使うレンズじゃないと言われたらそれまでかもしれませんが、「出来るけどやらない」と「出来ない」ではやはり違います。
シングルコーティングらしい描写。こういうシチュエーションでハイライトがキツくならないのが本当に素敵です。言うならばこの光が撮りたくて使うレンズです。ようこそ、光。
灯りがただ眩しいだけでなく溢れて滲むような優しい光になるのもこのレンズの良いところ。F1.9と明るいレンズのおかげで夜の撮影も楽しめます。
まるで絵の具で描いたような世界。しっかりフォーカスを合わせたのがこのカットで、あえてずらして撮ったのがトップの画です。どちらも個人的に好きな画で、ボカした画はマニュアルフォーカスだからこそ発見できた世界です。
豊潤なボケを楽しむ
やはりこれだけ気軽に立体感のある画が撮れるのは素直に楽しいの一言です。光の条件によって大きく表現が変わるのもこのレンズの面白さの1つで、弱い光では現代のレンズとは思えないフラットで優しい表現。強い光が差し込んだ時は暖かみをも感じる柔らかな光を表現できるレンズ。最新の光学性能をもったレンズで撮影していて、このレンズを使ったら最初は驚いてしまうかもしれません。私もSC(シングルコーティング)系のレンズを使うのは久しぶりだったので最初は戸惑いました。ただ得手不得手を体感しながら撮影していくほどに楽しくなってきます。ぜひ永く付き合っていただきたい一本です。
Photo by MAP CAMERA Staff