SONY G Masterレンズ インタビュー【Part 3】
次は2本目のGMレンズである『FE 85mm F1.4GM』についてのお話を伺いたいと思います。私が一番最初にレンズを見た感想は「ずいぶん大きいレンズだな」と思ったのですが。やはりそれは光学性能を優先に作られた為なのでしょうか?
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そうですね、『FE 85mm F1.4GM』は使っているエレメントは、ほぼほぼ『FE 24-70mm F2.8 GM』と同じものを使用しているのですが、85mmはポートレート撮影で使用する単焦点レンズなので、より解像感とぼけ味の両立という点にこだわって作られています。今までは「美しいぼけ味」を重視すると特に開放では解像感の低い画になってしまうのが一般的でした。しかし『FE 85mm F1.4GM』を作る時、GMレンズのコンセプトに則って解像力は絶対妥協しない、その上でぼけ味も一切妥協しないことに決めました。
通常レンズを開発する時は光学設計側と機械設計側が一緒になって「どうやろうか」とお互いの技術やコストなどのバランスを話合いながら開発を行うのですが、この『FE 85mm F1.4GM』は光学設計側の好きなように最高の物を作ってくれ、という風になったと聞いています。その結果「大きいレンズ」と思われるかもしれませんが、その分一切妥協のない光学系に仕上がっています。
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そうなると駆動系など組み込むのが大変だったのではないですか?前に機械的な仕様の為に光学系を変更する事も多々あるとレンズ開発担当の方から聞いた事があります。
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はい、『FE 85mm F1.4GM』は機構の為に光学系を変更できませんから、既存のリングドライブSSMを『FE 85mm F1.4GM』の為に改良するなど機械設計側としては並々ならぬ苦労があったようです。
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85mmというとミノルタα時代から濃厚でなめらかなボケ味が魅力で「ポートレート最強レンズ」と言われるほど評価が高かったかと思います。その分『FE 85mm F1.4GM』に課せられたハードルは高かったのではないですか?私の知人にも「ミノルタ85mmを使うためにα99を購入した」という強者が居るくらいですから。
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そうですね、ミノルタの85mmであったり、Aマウントのプラナー85mmであったり、熱狂的なファンの方がいる知名度と評価の高いレンズがありましたから、その後から作る『FE 85mm F1.4GM』のプレッシャーというのは大きかったですね。そのため「Aマウントのプラナー85mmのぼけ味よりも上を行こう」と目標を立てて作られました。
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なるほど、目標は『プラナー T*85mm F1.4 ZA (SAL85F14Z)』を超えるぼけ味だったんですね。確かにこのレンズも素晴らしい描写の85mmと評価がものすごく高いレンズです。そうなると開発には昔からレンズ設計に関わってきた大ベテランの方が担当されたのでしょうか?
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実は最初の開発段階からミノルタαの85mmに関わった方や、ミノルタレンズの思想をよくわかっているベテランの設計者が『FE 85mm F1.4GM』をどういうレンズにしようかという風に話し合いながら作り始めました。そういうミノルタ時代からの経験則と可視化できる機械的なシミュレーションを合わせながらプラナーを超えるぼけ味を徹底的に追求して開発されています。
これはソニー・ミノルタだからこそ出来た事だと思っていまして、全く関係のない方が「もっと良いレンズを」と作ったのではなく、実際にミノルタレンズやプラナーの開発に関わった人たちと一緒になって「それらを超える最高のレンズを作ろう」という思いで完成したのが『FE 85mm F1.4GM』だという事なんです。
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なんかとてもロマンのある話で感動しました。ミノルタ時代からのαファンの方が聞いたら泣いてしまうかもしれませんね。(笑)
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さらに『FE 85mm F1.4GM』も製造工程で一つ一つ収差をチェックをして出荷しているのですが、難しいのはレンズの描写、特にぼけ味というのは人それぞれ好みが分かれるかと思うんですよ。そこでミノルタ時代から良いとされていたぼけ味とはなんだっけ?という原点に立ち還りまして、昔ミノルタ85mmの品質管理をしていた担当も加わって「美しいぼけ味」という点に徹底的にこだわっています。
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そうなると『FE 85mm F1.4GM』には多くのミノルタ関係者が携わって完成できたレンズなんですね。
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はい、やはり今まで培ってきたミノルタの歴史や経験の重みを感じていますし、今回はそれを超えないとGMレンズとして出せないよね、というのがありましたから。
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続いては『FE 85mm F1.4GM』の技術的なお話を伺いたいのですが、先ほどお話の中で『プラナー T*85mm F1.4 ZA (SAL85F14Z)を超えるぼけ味』というワードが出てきました。それを実現させるために何か苦労された事や工夫された事などありましたか?
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『FE 85mm F1.4GM』はズバリ言うとポートレートレンズです。先にも話しましたが解像力だけでもダメですし、ぼけ味だけ重視してもダメでして、その相反する2つを両立させるためには非球面レンズが必要不可欠でした。しかし、従来の非球面レンズを使用すると玉ボケや点光源ぼけの内部に『輪線ぼけ』が発生してしまい、背景ボケの滑らかさが非常に重要なポートレートレンズとしては、画質が損なわれてしまう懸念があったのです。可能なら非球面レンズは使用したくない気持ちもあったのですが、新開発の超高度非球面XAレンズを採用した事で、美しいぼけ味を保ったまま解像感を得る事が出来たのです。
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そうなると、『FE 24-70mm F2.8 GM』と同様にGMレンズのキーデバイスはXAレンズという事になるのでしょうか?
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その通りです。解像力とぼけ味という点では『FE 24-70mm F2.8 GM』も同じでしたが、特に『FE 85mm F1.4GM』はXAレンズを採用したからこそ目標とする性能のレンズを完成する事が出来たと言えます。
また、こうした大口径レンズをご使用の方の中には感じられている方も多いと思いますが、大口径レンズに色収差はつきものです。それはAマウントのプラナー85mmも例外ではありません。これは大口径の中望遠レンズでは多く見られる事だったのですが、『FE 85mm F1.4GM』にはEDガラスを3枚使用する事でその課題をクリアしています。 85mm F1.4を使ってポートレート撮影する時は少し絞って撮るのがセオリーかと思うのですが、『FE 85mm F1.4GM』は是非開放で使用していただきたいレンズです。開放から色収差を抑えつつ、しっかりと芯のある解像力を持っていますし、なにより美しいぼけ味を一番堪能出来ますから、積極的にF1.4を使っていただきたいレンズですね。
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なるほど、『FE 85mm F1.4GM』は開放での描写が一番おすすめという事ですね。確かに85mmって被写界深度が浅いというのもありますし、フォーカス部をキリッとさせる為に無意識に少し絞って撮っていたような気がします。その他に『FE 85mm F1.4GM』へ独自に投入した技術などありますか?
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そうですね、アクチュエータになるのですが、今までAマウントレンズでしか使っていないリングドライブSSMをEマウントとして初めて採用しています。
このリングドライブSSMになった経緯ですが、まず『FE 85mm F1.4GM』は光学性能最優先で作られたレンズが故にフォーカスレンズが大きくなってしまった事があります。これはF1.4の大口径レンズだから仕方がない事ではあるのですが、GMレンズとしてはF1.4の浅い被写界深度でも正確なAF精度を出さなくてはなりません。そうなるとEマウントレンズで最重量クラスのフォーカスレンズを動かしつつミクロンオーダーで正確な停止精度も求められるので、「さぁ、どうしよう」という風になったのです。 そこで今までソニーが使用してきた多くのアクチュエータの中で一番パワーのあるリングドライブSSMが向いているという判断になったんです。しかし、そのリングドライブSSMは今までAマウント用ということで位相差AFをメインに想定して作られたものだった為、コントラストAFの細かな動きへの対応は不十分でした。 そのため、今回『FE 85mm F1.4 GM』で採用しているリングドライブSSMは、Eマウント用として制御システムも新たに開発し、シチュエーションや撮影状況を変えながら何度も撮影テストを繰り返して、メカと制御の両方から精度を追い込んで作られたものになります。
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そんなに重いフォーカスレンズが入っているとは思いませんでした。そのリングドライブSSMおかげなんでしょうね、AFは静かで早いですし、絞り開放でもピントも合わせも正確ですね。しかし開放での撮影は被写界深度が浅い分、撮影には慣れが必要かもしれないですね。
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もし85mm F1.4の開放で瞳にちゃんとピントを合わせながら撮影しようと思ったら相当難しいと思うんですね。なのでプロカメラマンはMFで正確にピントを合わせて撮っていると思います。
『FE 85mm F1.4GM』ではそれをAFで実現させようという風になったんです。それを最大限に活かせるのが『瞳AF』という機能になります。
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瞳AFは今までのソニー製カメラにも入っていた機能ですよね。
<瞳AF試し中> おお!これはすごい!AF-Cで瞳AFをONにすると、ずっとピントを合わせ続けますね!しかも首を振ったり横を向いても感知して合わせてくれます!
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ぜひこれは使っていただきたい機能です。おっしゃったようにAF-Cにするとずっと瞳にピントを追いかけてくれるのが分かるかと思います。35mm F1.4ディスタゴンの時もそうだったのですが、開放で使うのが難しくて手に余ると言われるお客様も多かったんです。しかし『FE 85mm F1.4 GM』は開放での描写にも力を入れており、また、ぼけの柔らかさや美しさが一番際立つ開放でもっと積極的に使っていただきたいという思いがありまして、誰でも正確に瞳にピントを合わせられるように完成度を追い込んで作り込みました。
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これは使わないともったいない機能ですね。カメラの機能でこんなに感動したのは久しぶりです。(笑)
あとボディの手振れ補正もいい効果を出していますね。(この時はα7RIIを使用)
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最新のAF技術を投入しているレンズではありますが、『FE 85mm F1.4GM』はMFの操作性もすごいんです。ピントリングを回した時のダイレクト感にもかなりこだわりを持って作られていまして、タイムラグであったり抜ける感じが無いのはもちろん、ピントリングのトルク感に至るまで「まるでMFレンズのように」と思えるように作ったと設計側が話しています。
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実際に試してみると、すごくよくできていますね!今までの電子的に繋がっているフォーカスリングって、トルク感は悪くないにせよ、反応が鈍くてMFレンズの感覚と大分ずれたものが多かったんです。ところが『FE 85mm F1.4GM』は指の微妙な力加減にも反応してくれる。これはMFを多用する方には嬉しいですよ。
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実際にMFでの使用時にEVFのメリットも大きいと考えています。『FE 85mm F1.4GM』のように被写界深度が浅いレンズだとちょっとした動きでもピント位置がズレてしまいますよね。光学ファインダーだとピントがズレているのに気づかず、そのまま撮影してしまう事もあるかと思いますが、EVFですと撮れる画をそのまま確認する事が出来ますし、拡大表示やピーキング機能を使用すればピントの正確な位置を常に確認しながら撮影できます。
AFを使用した時の精度とMFで使用した時のダイレクト感の両方操作性を兼ね備えつつ、描写も開放から一切妥協をしていない撮影意欲を満たすレンズとなっています。
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