【SIGMA】fpLはシネマカメラの夢を見るか? ファームウェア Ver.2.00『フォーカスリング制御編』
SIGMAからfpLのファームウェアアップデートの発表が1月27日にありました。
内容を覗くと、スチルユーザーの方には馴染みの少ない単語がチラホラ。
『フォーカスリング制御』・『フォルスカラー』など・・・。
一体全体なにが変わったのか、パッと見るだけでは判断しづらい内容かもしれません。
しかし、動画ユーザーから見ると、素晴らしい内容のアップデートであり、まさにfpLがまた一歩シネマカメラに近づいた瞬間でした。
それでは具体的にアップデート内容を確認してみたいと思います。
今回は注目機能である『フォーカスリング制御』と『フォルスカラー』について特集したいと思います。
注意
早速アップデートしよう!!とはやる気持ちを抑えつつ、Blackmagic Design Video Assist 12Gシリーズをお使いのお客様にお知らせがあります。
以下、SIGMA公式HPより引用
【Blackmagic Design Video Assist 12Gシリーズをお使いのお客様へ】
SIGMA fp Lのファームウェアを Ver.2.00にアップデートすると、Blackmagic Design Video Assist 12Gシリーズ上で、HDMI出力を利用したBlackmagic RAW収録が正しく行えなくなる事がございます。Blackmagic Design Pty Ltd が2022年2月上旬に公開を予定しているVideo Assist 12Gシリーズ向けのファームウェアにアップデートされるまで、SIGMA fp LのファームウェアをVer.2.00へアップデートすることはお控えいただくよう、お願い申し上げます。
fpLでBlackmagic RAW収録をしているユーザー様には今しばらくの辛抱をお願いいたします。
なお、SIGMA fpのユーザー様におきましても、本機能のアップデートに関しては4月公開予定となっております。
しばしお待ちくださいませ。
それでは改めまして、アップデート内容の詳細を確認していきましょう。
『フォーカスリング制御』
今回のfpLのアップデートよりも先、1月20日にLマウント用交換レンズファームウェアアップデートのお知らせがSIGMAから発表されました。
カメラの「フォーカスリング制御」機能に対応し、MF操作を行った際のフォーカスの動きを、「リニア」「ノンリニア」のいずれかの方式から選択できるようになりました。
対象となるレンズは以下の通りです。
SIGMA 16mm F1.4 DC DN | Contemporary Lマウント用
SIGMA 30mm F1.4 DC DN | Contemporary Lマウント用
SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN | Art Lマウント用
SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN | Contemporary Lマウント用
SIGMA 24mm F2 DG DN | Contemporary Lマウント用
SIGMA 24mm F3.5 DG DN | Contemporary Lマウント用
SIGMA 35mm F1.4 DG DN | Art Lマウント用
SIGMA 35mm F2 DG DN | Contemporary Lマウント用
SIGMA 45mm F2.8 DG DN | Contemporary Lマウント用
SIGMA 65mm F2 DG DN | Contemporary Lマウント用
以上のレンズにおいてフォーカスリング制御から『リニア・ノンリニア』が選択できるようになりました。
では、フォーカスのリニア・ノンリニアとはどういった機能なのでしょうか。
現在のミラーレスカメラ用レンズでは通称『バイ・ワイヤ方式』と呼ばれるフォーカス制御方式が採用されていることがほとんどです。今回のSIGMAのアップデートでは『ノンリニア』と呼ばれる方式です。
自動車のアクセルやブレーキの制御方式でもこの概念が使われます。従来は機械的・物理的に入力情報を伝達していたものを『電気で伝達する』ことを『バイ・ワイヤ方式』と呼びます。
カメラレンズに置き換えると、フォーカスリングの回転速度に応じて、ピントの移動量が変化することをバイ・ワイヤ(ノンリニア)方式とし、フォーカスリングの回転角度に応じて、ピントが一定量変化することをメカ(リニア)方式とします。
まとめ
・『ノンリニアフォーカス』→フォーカスリングの回転速度に応じて、ピントの移動量が変化する。
・『リニアフォーカス』 →フォーカスリングの回転角度に応じて、一定量でピントが変化する。
そもそもこの機能はマニュアルフォーカスを使用することが前提の機能です。
昨今のカメラのオートフォーカス機能はとてつもない勢いで競い合い、その勢いは動画撮影においても同じです。
「オートフォーカス全盛の時代になぜSIGMAはマニュアルフォーカスでしか使えない機能を増やすのか。」
疑問を感じる方も少なくないと思います。
しかし、私はこのSIGMAのアップデートはひとつのメッセージであると勝手に考えています。
それは『SIGMA fp/fpLのすべてのユーザーに動画のピント送りの素晴らしさを体感してほしい』というメッセージであると。
(執筆者の勝手な解釈です。違ってたらSIGMA様ごめんなさい。)
なぜそのように考えるかと申しますと、動画におけるピント送りは表現技法の一種だと私は考えます。
よく見かけるシチュエーションで言えば、2人の人物が会話をするようなシーンで、画面の手前と奥に人物がいて、セリフを喋る人物の方にピントを合わせる。といったシチュエーションでしょうか。
オートフォーカスの機能に頼ることでも交互にピントを送ることは可能でしょう。
しかし、あくまで機械側のタイミングで送ることになるので、いくら正確であっても、人間の生理的なものとはすこしずれが生じることもあります。この芝居のここのタイミングで送りたい。気持ちがのった芝居をカメラで覗いている時にはそう感じることが多々あります。
そのような際にはマニュアルで送ることが自分のタイミングでダイレクトに操作できるので、より自分のやりたい表現に繋がりやすくなります。
では、実際にマニュアルフォーカスでピントを送る時に『リニア・ノンリニア』でどのように変わってくるのでしょうか。
前述のようにノンリニアの際は回転速度に応じて移動量が変化するので、回転角度が同じでも回す速度が早ければ移動量は多く、遅ければ移動量は少なくなります。回す速度を変えることで大きい変化と小さい変化の両立ができる点がノンリニア方式のメリットです。しかし、角度・速度の両方で移動量が変化してしまうので、移動量をあらかじめ予測することが難しくなります。特に同じ距離をいったりきたりする場合、正確に速度・角度を合わせることがノンリニアでは難しいので、同じように操作している気がしていても、ピント位置が微妙にずれてしまうことがあります。
そこで、求められるのが『回転角度に応じて、一定量でピントが変化する機能』
すなわち『リニア』となります。
リニアフォーカス設定時にはその回転角度を設定することができます。(レンズの種類によって設定できる角度は限られています。)角度を少なくするとピントの移動量が大きくなります。そのような場合フォーカシング精度を担保することが難しくなります。逆に角度を大きくとるとフォーカシング精度は向上しますが、ピント位置を大きく移動させたい場合は大きくフォーカスリングを回転させる必要があります。
ピントを送りたい主要な2点の被写体距離が遠いか近いかと、フォーカシング精度をどこまで求めるか。その2点をうまく都合して回転角度を決める必要があります。
被写体間の移動距離が短く、フォーカシング精度を高めたい場合には回転角度を多く。
被写体間の移動距離が長く、素早いピント送りが必要な場合には回転角度を少なく。
撮影者の表現意図に応じて回転角度を設定できることは既存のマニュアルレンズでは難しい機能です。電子制御できる利点を生かした今回のアップデートはより撮影者に寄りそうSIGMAのきめ細やかな配慮と言えるでしょう。
設定できる角度も細かく刻まれています。最大から始まり720°、690°、660°と30°ずつ調整ができ、最終的には90°までの角度設定があります。(レンズの種類によって設定できる角度は限られています。)
従来であればリニアなフォーカシングをしたい場合には、マニュアルフォーカスのみのレンズ、もしくはシネマレンズを選択するよりほかありませんでした。
必然的にレンズの選択肢が狭められてしまうので、ミラーレスレンズをメインに使用しているユーザーはマニュアルでのピント送りがしづらい状況にありました。
『マニュアルでピントを送りたいユーザーは最初からシネマレンズを使う』これが今までの考え方でした。
一部のユーザーでしかできなかったこと、その垣根を取り払い、全てのユーザーにマニュアルでのピント送りをしやすくした今回のアップデート。
シネマレンズの製造にも積極的なSIGMAならではの発想だと強く感じました。このアップデートにより、マニュアルでフォーカスを送り、自分の意図した画面作りができるようになるユーザーがさらに増えることとなるでしょう。
本当は『フォルスカラー』の機能にも触れる予定でしたが、『フォーカスリング制御』について語りだすと長くなりすぎてしまいましたので、次回に持ち越しとしたいと思います。
他のメーカーには無い機能を積極的に取り入れ、発売後にもアップデートを重ねて、新機能を投入するその姿勢には感服します。
今後も、fp/fpLの動画機能拡充に注目していきたいと思います。