【オールドレンズの沼地】番外編:『周八枚』とは、どんなレンズ?
ご無沙汰しております。帰ってきました、久しぶりの【オールドレンズの沼地】です。
今回は番外編として現行レンズをご紹介するのですが、上の写真を見て「知っている」方もいれば、「何だこれ!?」の方も居るかと思います。
あの有名なレンズにそっくりなのですが、「そっくり」という一言では言い表せられない1本なのです。
歴代のレンズそれぞれが個別の価値を持ち、愛好家を魅了する数々のライカレンズですが、その中に「8枚玉」と呼ばれている銘玉『ズミクロン M35mm F2 (第一世代)』があります。
オールドレンズ黄金期とも呼ばれている時代に手間と技術とコストをかけて作られた、まるで工芸品のような1本。6群8枚ダブルガウスタイプが写し出す細くて柔らかな線と、階調表現に秀でた美しい描写が特徴なのですが、その伝説の銘玉「8枚玉」がなんと「Light lens lab(ライトレンズラボ)」というブランドより完全再現されたのです。
この「Light lens lab(ライトレンズラボ)」は中国のメーカーなのですが、最近よく目にする新興レンズメーカーとはちょっと違います。
中国の投資家・周氏が発起人となり設立されたメーカーで、おそらくなのですが相当なライカマニアなのでしょう。「模した」「みたい」「オマージュ」とは次元の違う熱量で作られたレンズなのです。
まずオリジナルの『ズミクロン M35mm F2 (第一世代)』に使用されている硝材(光学ガラス)の種類や性質を研究し、当時の原材料に近いものを使用。そしてコーティングも同様に当時のものを再現している徹底ぶりです。
完全な「8枚玉」の描写を目指して作られており、周氏の名から『周八枚』と呼ばれるようになった本レンズは、なんと3年以上掛けて進めてきた復刻プロジェクトの集大成とのこと。
そしてその徹底ぶりは外装にも。銘板を見なければどちらがオリジナルなのか分からないほどの再現っぷりに加え、ライカマニアらしいこだわりも仕様に加えられています。
なんと8枚玉ズミクロン、ズマロンF2.8で採用されていた無限遠ストッパーも本レンズに再現。ちゃんとパチンッと小さな音を立ててロックされます。
実はこの機構、以前とあるレンズメーカーに再現できないのか聞いたことがあったのですが「コストと手間が掛かり過ぎて難しい」と言われたことがありました。それを再現してくるとは本当にスゴい。
ライカMレンズには赤色の脱着指標がありますが、この『周八枚』にはキラリと光る指標が。
なんと、ルビーなのです。(人工ルビー)
カメラにルビーを使っているといえば、耐久性のある部材としてレクタフレックスのスローガバナーの軸受やズミルックス35mm用フード「OLLUX 12522」のロック部分に使用されていたりしましたが、まさか指標に使ってくるとは…
さらにオリジナル外装はアルミ合金だったのに対し、本レンズでは素材を真鍮へ変更。耐久性とともにレンズ好きの所有欲を満たしてくれる仕様になっています。
それでは少し写真も撮ってきましたのでお見せしたいと思います。全てF2開放撮影です。
オリジナルの8枚玉を何本か撮影したことがあり、希少レンズとして知られる「ブラッククローム」で撮影した写真はKasyapa for Leicaに掲載してあります。
正直、個体差の多いレンズで、今まで触ってきた8枚玉はそれぞれ微妙に違ったというのが本音なのですが、その中でも「ブラッククローム」が一番ガラスの状態も良くいい写りをしていました。
その描写や雰囲気を思い出してみると、この『周八枚』の描写は非常に近いなと感じます。
特に線の細さ、シャドウ部の階調、周辺の少し妖しげな雰囲気など、実に「8枚玉」らしい。オリジナルに比べ全体的に抜けの良さは感じますが、何せ50〜60年前のレンズと比べての話。もしかしたら当時新品の『ズミクロン M35mm F2 (第一世代)』はこのような写りだったのかもしれません。
描写・外観共に忠実再現という言葉にふさわしい『周八枚』は、世界的に価格が高騰している『ズミクロン M35mm F2 (第一世代)』の描写を味わえる貴重な1本だと言えます。
当初は限定生産という話でしたが、追加生産されているようで憧れのブラックペイント仕様も手に入りやすいのが嬉しいところ。
そしてライカ自らが大々的に復刻するレンズとは違い、ガレージブランドが熱い想いで幻のレンズを復活させるというロマンに満ちた1本だなと感じました。
Light lens labはこのレンズの他にもエルカンやホロゴン、ノクティルックスのプロジェクトも進めているとか。これからどのようなレンズが登場してくのか非常に楽しみなメーカーです。