【マップカメラコレクション】写真機の回廊 ~ FUJI GW680III ~
「硬派」などという言葉、聴かなくなって久しい。では、皆「軟派」になったのだろうか?と、辺りを見回しても筋金入りの軟派もとんと見かけない。 | |
観光地などでの記念写真を撮影している本当の「プロフェッショナル」からの要望を受けて、ライカを巨大化したかのようなレンズ交換式中判レンジファインダー「フジカG690」が発売されたのは1968年のこと。直線を基調としたブラックボディに、65・100・180mmの交換レンズが用意されていた。 ユーザーの意見を積極的に取り入れながら変更・改良を重ね、6×7フォーマットの追加などを経てフジカGシリーズは発展。精細な大画面でありながら取り回が良いことから、集合写真カメラマン以外にドキュメンタリー写真の分野や山岳写真家などにも広く受け入れられたようだ。 |
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今回取り上げる機種は、シリーズ最終モデルとなったGW680III。レンズ固定式となってからのシリーズ3代目で92年の発売。 外観は丸みを帯びたそれと悟られない面持ちとなったが、中身は操作性・使い勝手の小変更のみで無駄を一切省いた無骨さはそのままだ。 この3型から6×7を廃止し、新たに印刷サイズに無駄が無く、ポートレートにも使いやすい6×8の新フォーマットを追加。こういった小回りは、フイルムメーカーならではのものだろう。 6×9と6×8それぞれ広角65mm5.6付き(GSW)と90mm3.5付き(GW)の計4台が、ラインナップの選択肢となっていた。 絞り・シャッター速度は、レンズ先端の窓で一括して確認できる。双方の操作リングはやや幅が狭く半分がカバーに覆われているため、指掛りはお世辞にも良好とは言えない。
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ただ、観光地の記念写真などでスローから1/500までのシャッター操作を行き来することは皆無な訳で、それよりも不用意にリングが動いて設定が変わってしまうことを嫌ったのであろう。その幅の狭さを逆手にとって、ライトバリュー式のようにシャッター・絞りを連動させての変更も可能だ。 カメラ底部には10回のレリーズで1つ進むカウンターがあり、メンテナンスの指標とすることが出来る。前面シャッターボタンや、フイルムカウンター切り替えにもロックが付き誤動作を防止。外装がプラスチックになっても、レンズ保護を兼ねる引き出し式レンズフードは金属製だ。 こういった細部のこだわりからも、道具としての信頼度をいかに高めるかというメーカーの思想が見えてくる。 |
機械式のレンズシャッター音はスプリングの残響も重なりやや大きく、マミヤ7などの電子式のそれとは全く別物だが、「撮った」という事象が明快に伝わるメリットというのも存在するだろう。 ただしシャッターショックも大きいので、手ブレには十分注意が必要だ。ごく僅かであっても、ブレがあると折角のラージフォーマットの臨場効果は半減である。 |
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シャッターストロークもやや深いが、上部にレリーズのネジ穴があるのでアタッチメントを装着するなどして簡単に調整は可能だ。私も今回の撮影でアタッチメントを使用したが、未使用時との差は大きいので感触が気になるなら装着をお勧めする。 画面サイズが大きいため、巻き上げは1ストロークプラス再度「少しだけ」が必要となる。無理に1回巻き上げにするとレバーの動作角度が大きくなり、指掛りの問題が出るので選択としては妥当なところだろう。 ブライトフレームの見えは良好。虚像式距離計も像の分離は明瞭で、近距離撮影でも精度は十二分と感じられた。 6×7フォーマットの一眼レフには、ペンタックス67やマミヤのRB・RZ兄弟といった定番中の定番があるが、レンジファインダーは80年代半ばにマキナ67が生産を中止し、フジもこの3型から6×8へ移行。その空席となった場所を、見事に埋めたのが95年発売の名機マミヤ7だ。 私事であるが20台半ばの頃、フィールド撮影を4×5一辺倒で行っていた時期があった。 4×5である理由は精緻な写真の求心力の強さ。その一点。ただ、その一点のみで写真の質が決まるはずもなく、結局フットワークの軽さこそが自分に必要と思い知り中判レンジファインダーに移行することを決めた。 その際に大いに悩んだのが、このフジGW680・GSW680にすべきかマミヤ7にすべきかということであった。 結果的に、実画面比が4×5とほぼ同じということと、露出計の有無が決め手となりマミヤ7を手にしたのだが。
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かつて自分が「選ばなかった」カメラと、10年の時を経ての撮影行。モニター上で見やすいサイズに落とした画像では、その実力は到底伝え切れるものではない。 必要なものだけがあり、必要なものだけしかない。自分が写真を撮るという行為に、いったい何が必要なのだろうか。 「吾唯足知」そんな言葉を思い起こさせる写真機である。
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