【極私的カメラうんちく】第42回:内蔵露出計の今昔
露出計はシャッター速度や絞りを決定するための重要な「事前情報」を撮影者に与えてくれる重要なツールである。特にフィルムカメラはその事前情報無しには写真を撮ることが出来ない。その意味でカメラの永い歴史の中で「露出計の内蔵」は必然だったといえる。
最初にあった露出計はもちろん単体露出計である。今でこそ「カメラ内蔵ではない」という意味で「単体」と付けるが、露出計がカメラに内蔵される以前は当然「単体」が当たり前だった。
単体露出計には現在でも無電源で作動するものと、電源を必要とするものの二種類があるが、無電源で作動するものの方がはるかに歴史が古い。無電源で作動する測光素子には有名なところでセレン光電池があるが、これは名前の通り一種の太陽電池である。光が当たると起電する性質を利用しその起電圧を明るさとして表示していることになる。1950年代までの露出計は殆どこのセレン光電池で作られている。今でもスタジオデラックスというセコニック製の単体露出計に採用されているが、電源を必要としない一方で、暗いところでの応答性があまり良くないデメリットがある。
一方で電源を使用する測光素子はセレン光電池の後発であり、その初期(1960年代)においてCdS(硫化カドミウム)や、1970年代以降はSPD(シリコンフォトダイオード)、GPD(ガリウム砒素リンフォトダイオード)などがある。これらの素子全てに共通するのは光が当たるとセレンのように起電するのではなく、素子の電気抵抗が変化することである。光の量によって抵抗値が変化し、それがメーターやLEDに反映しているのである。そのためSPDやGPDは電気抵抗を測定するための電源が不可欠だが、露出計の精度や感度としてはセレンに比べると格段に高い特長を持つ。また小型化に有利な上、受光量と抵抗値の変化が比例関係に近く、カメラに内蔵する測定器としては理想的な特性を持っている。
ちなみにデジタルカメラの撮像素子としておなじみのCCDやCMOSも測光素子として使用することが可能であり、大抵のコンパクトデジタルカメラは一つの撮像素子で撮影と測光を行っている。
露出計はいきなりカメラに内蔵されたわけではなく、内蔵されるまでの間には「外部メーター」などと呼ばれる外付け露出計の時代があった。外部連動の露出計はレンジファインダー型のカメラが全盛だった1950年代に多く作られているが、大抵の外部連動露出計はセレン光電池式だった。その連動のしくみは予めカメラのシャッターダイヤルに切り欠きや突起を作っておき、それを露出計側の切り欠きと噛み合わせて、カメラのシャッターダイヤルと露出計の文字盤が同時に回転するようになっている。文字盤には絞りの数値が書き込まれており、シャッターダイヤルを高速側に廻せばメーターの文字盤も指針に振れが大きい方へ移動する。そして指針が示した文字盤の絞り値を手動で選択すれば適正露出が得られるしくみだった。
また外部連動露出計の中にはニコンF用の外部連動露出計である「ニコンメーターF」のようにシャッターダイヤルの他に「絞り環」とも連動することができたものもあった。旧いFマウントのニッコールレンズに見られる有名なニコンの「蟹爪」は、この時ニコンメーターFにレンズの絞り環を連動させるために設けられたものである。
その後、初めて一眼レフに内蔵された露出計は、まるで外付けの連動露出計がそのままカメラに内蔵されたようなものだった。測光用の受光部がカメラの前面についており、大抵はシャッター速度ダイヤルに連動した文字盤上の指針が、相対的な絞り値を表示するだけだった。この方式は、その後の一眼レフで一般化した撮影レンズを通った光を測定するTTL方式と比較して「外部測光方式」などと呼ばれたが、非常に短命に終わっている。画角の異なる交換レンズを駆使する一眼レフにとって、受光角度が決まっている外部測光方式よりもTTL方式の方が遥かに有利だったためである。そして一眼レフに内蔵される露出計は1960年代にTTL方式にとって替わられ、ようやくここから現在へと続くTTL露出計内蔵一眼レフの時代が始まるのである。
ここまでカメラの露出計内蔵の話を続けてきたが、興味深いのはこれまでカメラに内蔵されてきた露出計は全て「反射式」であったところである。
おそらくは単体露出計に倣ったものだろうが、外部連動露出計の時代には受光部を乳白版で覆って、入射式露出計としても使用できるアクセサリーも見受けられたが、TTL露出計が内蔵される時代になってからは、いつの間にかそのようなアクセサリーも見られなくなった。
TTL方式が主流となった後も、一眼レフの内蔵露出計は常に進化を続けてきた。特に、反射式露出計の弱点を克服すべく、フィルム一眼レフの時代に開発された多分割測光はその象徴である。そして現在のデジタル一眼レフでは、さらに高度なアルゴリズムを駆使した露出決定までが可能になっている。単体露出計の小型化と内蔵を夢見ていた頃のカメラからすれば、現在の内蔵露出計はもはや別次元の領域に入っていると言える。