【マップカメラ情報】マップカメラ限定 赤城耕一監修×kajunオリジナルカメラバッグができるまで 第3回
『撮る人』だと分からせない存在感
結局のところ、赤城耕一さんがみつめる《人とライカの関係》に答えも終わりもないのだ。今回のバッグ製作を通じて、あらためてそれを痛感した。
氏と出会ってまだ六年ほどだが、ライカについてお話をうかがうたびにじぶんの浅見を恥じることになる。奥底の知れない氏の写真機に向けられた愛情に変わりはなく、デジタル時代にあっても軸はブレない。
カメラバッグの仕様が決まり、その最終試作品の使用感をたずねると、赤城さんはこう言った。
「(本質的には)バッグはない方がいいんだよ。手ぶらで行く」
身一つで撮る。街へ踏み込み、被写体を見つけ、瞬間を捉えることだけに集中する。スナップにとっての理想的スタイルに、大仰なカメラバッグはいらない。
「ただフィルムとか(持ち歩く必要があるから)ね。だからカメラマンベストというのもあるわけだし。いかにもなカメラバッグを持ち歩くと『撮る人』だって分からせちゃう」
撮影者は存在を消し、街に同化するのが良い。だが必要最低限のモノは携行せねばならない。では、今回企画したトートバッグタイプはどうなのか?
「違和感あるかと思ったが、何の問題もなく街に溶け込める」
赤城さんはそう言い切った。
スナップの流儀、ライカの美学
今回カメラバッグのテスト地として、東京・下北沢駅周辺の再開発対象区域に足を踏み入れた。
「なくなる、というね。二度と撮れないところに反応する」と赤城さん。先日もカメラ誌のレンズテストで荻窪駅前の名物焼き鳥屋を撮影したという。昭和の風情を色濃く留めながらこの夏に移転し、惜しまれつつ失われた場所だ。
ライカM4のシャッターが静粛に作動していく。そのかたわらにあるのは、今回の試作バッグ。それが普通の鞄ではないことに、街の誰もきっと気がつかないに違いない。外はトートバッグ、中はカメラバッグというコンセプトのゆえだ。
しかし大人が持ち歩くバッグとしては、気づかれないだけではまだ足りないとも言える。
「ライカは存在感がおしゃれだから、バッグがいかにもお仕事、というのは粋じゃない」
デザイン、そして良質さという点にまで密やかなこだわりを貫き、愛機にふさわしい風貌をそなえることを大事にしたい。
スナップの流儀とライカの美学──赤城さんはそのどちらにも重きを置き、今回のカメラバッグを良しとする。
愛機の良き伴侶として
あらためて思うが、カメラは消耗品ではない、という立場を僕は選択する。では何か? 人生の相棒である。
しかし時代の流れは必ずしもそうではないだろう。赤城さんが著書『銀塩カメラ至上主義!』で説いた序文にはこうある。「ここで例に挙げたデジタルカメラは、数年以内には確実に存在せず、その後は、おそらく誰もが一切話題にしなくなるということだ。」
M9の登場の年となった今年、まさにそれは真実である。だがこうも言える。己がこれと決めた愛機が古びることはない。
マップカメラ限定発売となる今回のオリジナルカメラバッグもまた、消耗品ではありえない。それは愛機の伴侶であり続けるために誕生したモノだ。
これからも大切な愛機と関係し続けたいというあなたにこそ、街へ連れ立って出かけてほしいカメラバッグである。
(企画・執筆/白井明大 撮影/當麻妙)
赤城耕一監修×kajunオリジナルカメラバッグのショッピングは<三角矢印>こちら
赤城耕一
写真家。1961年、東京生まれ。エディトリアル、コマーシャル等の分野で活躍する傍ら、カメラメカニズムについての論考を写真雑誌に多数発表。全国の写真愛好家から絶大な支持を集める。主な著書に『銀塩カメラ至上主義!』(平凡社)、『使うM型ライカ』(双葉社)、『ドイツカメラへの旅』(東京書籍)、『定番カメラの名品レンズ』(小学館)ほか多数
kajun/華順
革作家。上質かつ丁寧な造りと、使いやすさに配慮した独自のデザインで、女性や若者を中心に人気。ものづくり作家としてのライフスタイルでも注目されるなど、暮らしと表現が一体となっている生き方に憧れを抱くファンも多い。毎年秋に東京・恵比寿のギャラリーEkocaで個展を開催(*今年は10/10-10/15)、活動のベースとしている