【Leica】初心者がM9とズミクロン M35mm F2 (6枚玉)を味わう
収差はあってはならない。解像力は高くなくてはならない。
AFは一瞬で確実に被写体を捉えなければならない。
そんな機材に対する固定観念で大洪水した筆者を、「写真」という趣味に連れ戻してくれたカメラ・レンズをご紹介いたします。
その名はLeica M9。
Kodak製のCCDセンサーを採用したそのカメラは、Kodakフィルムの様に鮮やかな色彩を再現する、フルサイズセンサー搭載レンジファインダーデジタルカメラです。発売は2009年、今から11年前の事でした。
発売当時話題となったのは、そのカラー展開。
「スチールグレー」と言われる、それまで限定モデルでしか採用例がなかった色を通常モデルで発売したのです。
今までの系譜とは一味違う、独特な立ち位置でデビューしたLeica M9。
このカメラを使うことは、普段フルサイズミラーレスカメラばかり使用している筆者にとってとても新鮮な体験でした。
今回M9と組み合わせたレンズは通称6枚玉と呼ばれる、ズミクロン M35mm F2です。発売は1976年。
レンズが4群6枚で構成されるために「6枚玉」と呼ばれます。
西田敏行主演の映画「陽はまた昇る」にあったように、日本ビクターが民生用VTR「VHS」を発売した年でもあります。
ビデオテープはすっかり姿を消してしまいましたが、このレンズはまだまだ現役。
ミラーレス機にアダプターを装着すれば、様々なメーカーのカメラで使用する事もできます。
さて、その写りは…。
比翼連理
カメラ所以の“色”と、レンズ所以の“甘さ”が見事に調和しています。
まるでとびっきりのロイヤルミルクティーの様な「芳醇な甘さ」を感じさせるこの写りは、ライカの中でもこの組み合わせだけのもの。
彩度が高い云々、ゴーストが云々…というような言葉ではとても伝えきれません。
23万ドットのカメラの背面ディスプレイで見える画ですら、感動を覚えました。
こういった斜めからの光に対しては、虹色のシャワーの様なゴーストが出ます。
曇り空でも虹が架けられるレンズなんて、初めて出会いました。
それにしても、相変わらずぬくもりの感じられる絵作りには舌を巻きます。
まるで、水彩で幾重にも重ね塗りをしたような「丁寧な絵」。
画面周辺部にかけて滲みを増しながらも、しっかりと磨かれたボディの艶が余すことなく伝わります。
解像度を高め、球面収差・色収差を抑えることでしか立体感は生まれないと考えていたのですが、そんなことはありませんでした。
きっと、凄まじい時間をかけてチューニングされた画像エンジンなのでしょう。
電車の先頭と夕日が重なった瞬間にシャッターを切りました。
「写る範囲より外が見える」レンジファインダーの特性は、こんなシーンに役立つのだと身をもって知りました。
動きもののフレームインタイミングを計る際、非常にやりやすく感じます。
更に撮ったら撮ったで、信じられないくらい美しい光と影の描写に酔いしれます。
シャッターを押しただけで、夕日がこんな風に撮れたことはありません。もはやライカの魔法とでも呼びたくなります。
新しい世界に出会ってしまった筆者は、もうライカの魅力から逃れられそうにありません。