【FUJIFILM】GFX50Sの憧憬
デジタルカメラは、撮像用のセンサーをもって、光を記録する。
このセンサーにはその大きさだけとっても多くのな種類があり、
スマートフォンに搭載される豆粒大のものから、1億画素という驚異的な画素数を実現できる大きなものまでさまざまだ。
フィルムの時代であれば、フィルムサイズが大きいことが、画像の綿密な描写の助けになるということは何となく想像できた。
110よりも、ハーフよりも、APSよりも、135が、そして135よりも、120が、シノゴが、バイテンが、より綿密な描写を可能にする。
ではデジタルカメラにおいてはどうだろう。
FUJIFILM GFX 50S + GF 63mm F2.8 R WR
(SS:1/480 F2.8 ISO100)
デジタルカメラには、センサーそのもの大きさだけではなく、前述のような画素数の概念がある。
フィルムカメラでは、ある種粒状性が近い要素だっただろうか。
いま巷で目にするスマートフォンにさえ、高い画素数を謳ったモデルがあるようだ。
しかし、気を付けなければならないのは、画素数と高精細な描写というのはイコールではないということ。
数値が大きいと、何となくよく写りそうだ、と感じてしまうものだが、
実際にその描写性能の善し悪しというのは、デジタルカメラの、センサーやレンズユニットのシステマチックな所で大きく変わってきてしまう。
例えば、36x24mmのセンサーと、44x33mmのセンサーがあるとする。これら二つを、画素数がおなじ4000万画素だと仮定する。
この場合、比較して後者のほうが、1画素あたりの受光面積が多くなるため、高感度性能や、ダイナミックレンジ、階調などの要素において秀でる。
勿論、そのセンサーを有するカメラの、使用するレンズの光学性能も関わってくる。
また、半導体技術の目まぐるしい成長を鑑みると、後者が旧世代のものであった場合には、前者が性能において圧倒的に凌駕することもあり得る。
FUJIFILM GFX 50S + GF 110mm F2 R LM WR
(SS:1/2200 F2 ISO100)
しかも、高精細な描写が必ずしも万人に対して適切であるとは限らない。
中間調を省いた高コントラストの描写を好む場合もあれば、柔らかいレンズが好みの人もいるだろう。
そもそも、簡単な紙媒体に掲載する為72dpi程度まで縮小するであろう写真に対し、10MB以上にまで及ぶような重い画像で撮影する必要が無いかもしれない。
と、御託をクドクドと並べてはみたものの、やはり大きな撮像面には引き付けられる。これはロマンと言ってもよい。
中判の独特な被写界深度による絶妙な立体感は、一度味わうと虜になってしまうような魅力もある。
FUJIFILM GFX 50S + GF 110mm F2 R LM WR
(SS:1/340 F3.2 ISO100)
とはいえ、これは中判デジタルカメラに限った話ではないが、ポンっと買える代物でもない。
デジタルカメラのセンサーは半導体なので、面積が大きくなれば当然金額も高くなる。
6×4.5cmを完全に再現したものともなれば数百万という世界において、フィルム時代から中判を愛してきた人々の表情は険しいものだった。
フィルムというものが徐々に衰退していく中、移行すべき中判デジタルは価格のギャップを長い間埋めることができずにいたからだ。
だが、ある日その超えられない壁をついに超えたカメラが表れた。その名もPENTAX 645Dという。
PENTAXの中判フィルムカメラ645シリーズの血脈を受け継ぐ、満を持したデジタルカメラ。
センサーサイズこそ44x33mm CCDで、645判の大きさすべてを再現したものではなかったが、
数百万が当たり前の中判デジタルカメラの世界において、現実的な価格が多くの人に受け入れられたのだ。
さて、フィルム時代に中判カメラを発売し、各社ある中判カメラの競争で鎬を削っていたのは、PENTAXだけではない。
本稿で取り上げるFUJIFILMもまた、中判カメラでは名の知れた存在である。
そんなFUJIFILMが2017年に世に送り出したカメラこそ、FUJIFILM GFX50Sであった。
FUJIFILM GFX 50S + GF 110mm F2 R LM WR
(SS:1/240 F8 ISO100)
前述のPENTAX 645D (あるいは後継の645Z)との最大の違いは、GFX50Sがミラーレスカメラであるところだろう。
ミラーレスカメラであるために、比較的軽量で、それまで数多発売してきた多くの自他社問わない中判レンズたちを、アダプター経由で楽しめることなども大きい。
その後も44x33mmセンサーを採用した中判デジタルカメラはいくつか発売されており、新品・中古で選択が可能だ。
かつてまさしく高嶺の花であった中判デジタルカメラという存在は、意外と近いところにある。
企業の試行錯誤と研鑽の結果、今日われわれは「頑張れば手が届く」中判デジタルカメラを享受することができる。これは素晴らしいことだ。
FUJIFILM GFX 50S + GF 63mm F2.8 R WR
(SS:1/120 F2.8 ISO100)
さて、そんな私個人が中判デジタルカメラに対して徒然と語りつつ、実写を何枚か上げてみた。
所感として際立って印象に残ったのは、非常に豊かなダイナミックレンジ、そして階調だ。
撮影はすべてRAWで行ったが、現像時には、シャドーの奥行に心底驚かされた。ハイライトについても、よく情報量が残っている。
FUJIFILM GFX 50S + GF 63mm F2.8 R WR
(SS:1/2000 F2.8 ISO100)
オートフォーカスの速さ、精度は、35mmフルサイズのデジタルカメラと比較すると、決して優れているものではない。
それも当然、撮像面が大きくなれば、その撮像面をカバーする大きなイメージサークルを有するレンズが必要になる。
結果、レンズが大型化すると、その筐体を動かすためのモーターにもトルクが必要となる。
GF 63mm F2.8 R WRはそういった意味では小型な部類だ。ハッセルブラッドのVシステムを使用していた私からすれば、AFがついているだけでもありがたい。
FUJIFILM GFX 50S + GF 63mm F2.8 R WR
(SS:1/340 F2.8 ISO100)
軽量なのも見逃せないポイントだ。
機材の重さは、フットワークに直に影響する。機材が重いというだけで、逃す撮影機会は枚挙に暇がない。
私はあまり頭で考えて撮影をするタイプではなく、直感で「あ、ここなんか良いな」とフレーミングをしがちなのだが、
私のような人間にとって、このカメラは心強い。
以前所持していた35mmデジタル一眼レフと、F2.8標準ズームの組み合わせよりも軽いのだ。
それで仕上がる写真がこれなのだから、その技術力には感嘆するほかない。
FUJIFILM GFX 50S + GF 63mm F2.8 R WR
(SS:1/2700 F2.8 ISO100)
かつてハッセルブラッドの6x6cmのフォーマットを使用していた際、お気に入りだった絶妙な被写界深度は、
44x33mmというセンサーサイズの中でも健在のようだった。
絶妙な被写界深度は、見る者に対し立体感を意識させる。
まるで目を凝らして対象を見ているかのような、没入できる絵作りだと感じる。
FUJIFILM GFX 50S + GF 63mm F2.8 R WR
(SS:1/20 F2.8 ISO100)
FUJIFILM GFX 50S + GF 110mm F2 R LM WR
(SS:1/80 F2 ISO100)
私だけがそうであるかわからないが、季節の移ろいは、中判カメラとともに記録したくなる。
コンパクトなカメラでサっと撮影するのも嫌いじゃないが、できれば丁寧に、歩みを止めて写真を記録したいことがある。
そういった意味で、このGFX 50Sはちょうどよい機種だ。
手間取って遅すぎることもなく、かといって忙しくて速すぎることもない。
このカメラと生活を共にすれば、きっと日々の生活を豊かに記録してくれるだろう。
FUJIFILM GFX 50S + GF 63mm F2.8 R WR
(SS:1/110 F4 ISO100)