私が初めてデジタル一眼カメラを所有したのが約15年前。APS-Cサイズセンサー搭載の1020万画素機「Nikon D200」でした。
デジタル一眼カメラが一気に普及しはじめた頃であった一方、デジタルカメラは解像力が高すぎて、これまでのフィルムカメラ用レンズでは役不足だとも言われていました。
その後、デジタルカメラ専用レンズという肩書きがついたレンズが次々と登場。より高画素に対応した高性能レンズが多く発売されました。
新製品レンズばかり試していると、どのレンズも綺麗に写りすぎて、次第にレンズの違いが分かりにくく感じるようになってしまいます。
そんな中でも「このレンズは次元が違う」と感じたレンズがありました。『Carl Zeiss Otus 55mm F1.4』です。
シャープでクリアな描写は当然として、柔らかさと解像力のバランスが良く、階調の出方がすごく綺麗な画にひと目惚れ。
お値段も立派でしたが、標準単焦点レンズとは思えない10群12枚のレンズ構成に加え、色収差を極限まで抑えたアポクロマート仕様というスペックにワンランクもツーランクも上の性能を見た感じがしました。そして、いつかは手にしたいと心に決めた訳です。
しかし昨年、使用システムを一新。アダプターを介せば使えないわけではないものの、Otusへの夢が途絶えてしまいました。
それでもまだ未練が残る私は、Otusに近い描写のレンズを追い求めることに。
まず筆頭となるレンズが、卓越した描写力を持つ「ライカ アポズミクロン M 50mm F2 ASPH.」でした。ただ、Otus以上にお値段のはるレンズ。なかなか手を出すことができません。
そこに先日、「Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical VM 」発売のニュースが飛び込んできました。
Carl Zeissレンズの製造も手がけるCOSINA(Voigtlander)レンズ。Otusやアポズミクロンと同じく、アポクロマート設計に非球面レンズ採用というスペックを見れば見る程、期待値は高まります。
しかもお値段がライカの1/8以下というのだから驚きです。早速、デモレンズをお借りして撮影に挑戦しました。
緊急事態宣言下ですから、広くて密になりにくい場所を探し撮影しました。早速、目に飛び込んで来たのが見事な桜です。青い空のおかげで薄いピンクがとてもよく映えます。
伊豆の方では、早くも河津桜が見頃を迎えているようですが、こちらは秋から冬にかけて咲く品種のようです。下から見上げた際に影になるのを軽減するため、プラスに補正を入れてシャッターを切りましたが、鮮やかな色を再現してくれました。
ライカを使い始めてまだ1年目。まだ使ったレンズは所有している1本と、アダプターを介して使っているNikonレンズのみ。VoigtlanderのVMマウントは初めて使いましたが、適度な重さのピントリングなど使い勝手は上々。そしてなにより288gという軽さが嬉しいレンズです。
7年前にOtusの撮影で訪れた国立科学博物館に向かうも、入場が事前予約者に限られており断念。入口のSLだけを見て引き返します。
黒い鉄の塊である蒸気機関車。ピント位置を少しずつずらしながら数枚撮影しました。上の写真は、1番手前の手すりにピントを合わせたカット。この部分をよくみると、他と明らかに違う立体感が見てとれます。開放F2のレンズですが、ピント面はかなり薄く感じました。
周囲を高い木々で囲まれた場所で咲初めの梅を発見。補正なく撮影すると今度は寒々しい画を描き出しました。周辺減光も良いアクセントになっており、その場所の温度感まで上手く伝えてくれます。
上野東照宮にやってきました。
この豪華な社殿は徳川三代将軍家光公の時代、日光東照宮までお参りに行くことが出来ない人のために、日光に準じた豪華な社殿を建立したのが始まりとされています。
派手な社殿に目を奪われがちですが、私が驚いたのが空に薄らと残る飛行機雲。消えかかった淡い様子をしっかり捉えています。
境内には江戸時代に諸大名より奉納されたという石灯籠が多く並んでいます。落ち着いたトーンを上品に描くライカはこういった歴史あるものを雰囲気よく捉えてくれます。レンズをVoigtlanderに代えてもテイストが変わらないのは嬉しく思います。
樹齢600年以上と言われている御神木を見上げると、木漏れ日が綺麗だったのでシャッターを切りました。こういうシーンでは偽色が生じやすいものですが、さすがアポクロマートレンズ。輪郭部の色付きはほとんど見られません。
夏みかんが大きな実をつけていました。冬なのに夏みかん?と思い調べてみると、ほかのみかん同様秋に実をつけるものの、酸味が強く翌年の初夏まで完熟させる必要があることから夏みかんと呼ばれるようになったとの事。果実を美味しく味わうにはひと工夫必要ですが、本レンズはそのままで良い味が楽しめます。

本殿は金色殿とも呼ばれるほど、見事な金箔で覆われています。そしてこの質感描写も見事なものです。
牡丹園も開園中。寒い季節ですが意外と見頃の植物が多い事に驚きます。
木漏れ日のボケが綺麗な円形になっています。スペック通りF2.8とF5.6でも円形になる特殊形状の絞り羽根を確認できました。
歌川広重の名所江戸百景に描かれている清水観音堂の「月の松」。丸い窓枠のように不忍池の弁天堂を覗いてみました。
F8まで絞ったものの、意外と大きくボケた背景に驚きます。ボケは少し大きめに出るように感じます。
昨年、近接撮影時に不便を感じた際に接写リングを購入しました。丁度カバンの中に入れっぱなしになっていたので、これを装着。被写体まで40cm位でしょうか?近接撮影も試してみると、ボケがさらに強まってとても柔らかい画になりました。
軸上色収差をはじめとする各種の収差を徹底的に排除するとともに、解像力やコントラスト再現性に関しても究極の性能を追求したという本レンズ。
他のライカレンズと比較できるほどの経験値はまだ持っていませんが、その高性能さは十分に感じることができました。コシナが「フォクトレンダー史上最高の標準レンズ」の言うのも納得です。そして冒頭、1番驚いた価格。間違いなく最高のパフォーマンスを発揮しています。
本ブログを執筆中に「APO-LANTHAR 35mm F2 Aspherical VM 」のニュースも飛び込んできました。2本買ってもアポズミクロンの1/4以下。フードも2本で共用できるようです。
今愛用の「ズミクロン M35mm F2 ASPH」の立場まで危うくなってしまいそう。楽しい悩みがまた増えてしまいました。