Leicaで初めてのデジタルMボディである「M8」に搭載されたCCDセンサー。
センサーサイズはAPS-Hと、フルサイズより少し小さめ。
赤外線の影響を受けて色が被ってしまいやすいという特徴もありますが、私はすっかりこのセンサーが描く色に魅了されてしまいました。
今となっては修理もなかなか難しく、コンディションの良いものを手に入れるのは至難の技ですが、チャンスがあればぜひ試してみてください。
今回はサブタイトルの通り、日没までの1時間で夕焼けを追います。
構成する被写体はせいぜい、波と太陽と向こう岸の伊豆半島くらいなもの。
それでも見せる表情は刻一刻と変わっていきます。
【16時25分】
ご覧の通り今日の天気は朝から曇天でしたが、天気図と気圧と、あとは勘を信じて夕陽を見に来ました。
実は勘が8割でしたが、この後ちゃんと雲は切れます。
【16時27分】
辺りにもカメラを構える人がちらほらと。
ここの砂浜は波が優しく、海に近いほど歩きやすいので波打ち際ギリギリにも足跡が増えます。
ランニングシューズ、スニーカー、鳩の足跡、犬の足跡。
【16時36分】
時折雲が動き、一時的に直視できないほど眩しい日が射し始めます。
海岸線に作られた不思議な砂の波模様、その上で光を反射させては帰っていく海の端っこ。
日没まではあと50分を切りました。
この時あたりからぐっと気温が下がるのを感じた気がします。
【16時55分】
空の色が変わってきました。
夕焼けが赤いのは、斜めに差す日光が直上に居たころよりも厚い空気の層を透過するから。
波長の短い青い色はもう届きません。
【17時06分】
心地良い夕焼けと、画の色とは裏腹に急降下を続ける気温。
肉眼ではこんなに赤く見えていなかったでしょうが、脳はこんな感じだったと言っています。
いわゆる記憶色と呼ばれている色に近い写真ができあがりました。
いつも不思議な色の写真を量産してくれるこのカメラ、Leica M8.2ですが、
思いもよらぬところで唯一無二の写真を写すのでお出掛けには欠かせない1台となりました。
長い時間一緒に居ることで、愛着でも慣れでもなく、自分にとって真に美しい写真を作れるようになったのです。
きっと。
【17時13分】
気に入った写真には、言葉を添えるのすら躊躇われることもしばしば。
もともと言葉で生きていたと言っても良い人生なので複雑な気持ちですが、ここは譲ってあげることにします。
2月14日の日没は、この場所だと17時22分だそうです。
もうあと10分を切りました。
しかしこの10分が、これまでの50分と同じくらいの価値を持つ時間なのです。
本日使用した機材はLeica M8.2 + Elmar 35mm F3.5 でした。
カメラの方はもちろん、日々このレンズの素晴らしさも各所に布教していますが、その甲斐あってか大変な人気レンズになりました。
少し、いやだいぶと自意識が過剰でしょうか、でもそれくらい嬉しいことです。
それでは、日没までのカウントダウンにお付き合いください。
【17時17分】
力強く、白く、輝いていた太陽のその本体も少し赤みを帯びて見えます。
もやもやとしてその輪郭が隠れていた伊豆半島がようやく姿を現しました。
思っていたよりも高いところに稜線が見えるので、実際の日没とされる時刻よりも少し早いお別れとなりそうです。
「熱された鉄球が…じわじわ氷を溶かして落ちていっている様な」
咄嗟に思いついたのはあまり風情の無い言い回し。
【17時20分】
地平線というか、空と陸の境界にあたる線の右の方には、見紛うはずもない富士山。
その下、浮かんでいるのは江ノ島です。
よくよく目を凝らしてみると、展望灯台の江の島シーキャンドルが写っていることも見えるはず。
今立っている砂浜は海抜0メートル、靴が濡れました。
シーキャンドルの天辺は、海抜およそ120メートル。
今まさに太陽が沈もうとしているのは、丁度神奈川県と静岡県の県境およそ870メートル。
そして富士山の山頂、3776メートル。
いっぺんに視野に入ると贅沢な気分。
【17時21分】
手元の時計では目安より1分早く太陽が見えなくなりました。
辺りの明るさはみるみるうちに暗くなり、気温もさらに下がります。
ついでに言えばISO感度も160じゃ足りないので、320、640と増えていきました。
我々のような写真を撮る人間からすると、普通より一つ多く太陽の恩恵を受けているようです。
・・・
ここ数日は、ぴょこぴょこ羽毛が飛び出てくるような上着の出番が減ってきました。
撮影からたった半月の時間が経っただけなのですが。
寒気を出すバルブは閉じ始め、暖気を出すバルブが追い付いていない感じ。
冬の凍える空気が充満していた時間が終わり、春の暖かな陽気…とまではいかない、体感温度が真空みたいな数日。
この数日間だけ吸い込むことのできる空気があります。
ならば、やることは決まりきっていて。
つまりはシャッターを押すことに、違いはないのです。
3月3日、日没まであと1時間を切りました。
それでは、また次回。