Thypochから発売されているレンズシリーズ「Simera」。メーカー名のThypochは「あなたの時代」、シリーズ名のSimeraはギリシャ語で「今日」という意味がそれぞれあります。
金属製の鏡筒で質感が高く、手に持ってみると見た目よりもずっしりとしたレンズです。
このレンズの外観上最大の特徴は被写界深度スケール。往年の銘レンズを彷彿とさせるような表示で、アナログ式で被写界深度を指しています。
例えば画像の状態はF値を8に設定しており、無限遠から約3mまでが被写界深度に入っていることを意味します。
絞りリングを操作することで赤い点が出入りするのは、視覚的にも面白いです。
また絞り羽根は14枚で、どの絞り値でも円形絞りとなります。
今回使用したのは「Simera 28mm F1.4」のZマウント用。ボディはクラシカルな見た目で人気の「Nikon Zf」を組み合わせました。
外観は最初に見ていただいた通り非常によくマッチしています。今回使用したのはブラックですが、シルバーのレンズも似合いそうです。
ではこちらのレンズ、描写の方はどのようなものでしょうか。
まずはいわばレンズの素の姿、絞り開放で試してみました。
広角28mmでありながらF1.4と非常に明るく、独特の空気感が出ました。
続いて絞った際の描写の変化を見ていきます。大口径の広角レンズとしては開放から周辺減光も少なめな印象ですが、2段絞ってあげることで周辺部までよりシャープに写り、またボケの色づきも小さくなりました。
ハイライトからシャドウまで広い光を捉えられる印象です。またレンズの歪みもほとんど見られず、自由な構図づくりが可能です。
フィルター径は49mmと小さめですが開放でもピント面は非常にシャープで、洗濯機に書かれた小さな文字も判読できるほどです。
小さなサイズにも関わらず描写力も優れており、カメラにつけっぱなしにしておいてもよさそうです。
絞り開放で遠景を撮影しましたが、ピント面は変わらずシャープで周辺も解像しています。
続いては「FUJIFILM X-T5」に「Simera 28mm F1.4」と「Simera 35mm F1.4」のXマウント用2本を装着しました。
FUJIFILMはクラシカルなデザインのカメラが多く、今回使用したT一桁シリーズ以外でも、様々なボディと合わせて楽しむことができそうです。
まずは28mm F1.4から使用しました。
先ほど紹介したZマウント用と同じレンズですが、Z fのセンサーがフルサイズなのに対してX-T5はAPS-Cサイズなので、焦点距離は換算で1.5倍され、およそ42mmとなります。
標準域の50mmよりもわずかに広い画角は非常に汎用性が高いです。28mmという焦点距離はフルサイズとAPS-Cで”二度美味しい”焦点域です。
使用したフィルムシミュレーションはクラシックネガ。
カラーネガフィルムをイメージした色味で、落ち着いた色合いとコントラストが特徴です。
こちらはF5.6で撮影した写真ですが、ネガフィルムのような色からは想像もできないような写りの写真となりました。拡大するとリベットの一つまで判別できます。
4000万画素の高解像度センサーでも全く問題なく使用できます。
こちらは開放での撮影。F1.4と明るいため、APS‐Cセンサーでも大きなボケを得ることができます。主題を強調させるような表現もお手の物です。
逆光耐性を見たかったので、太陽を画面内に入れてみました。こちらは角度を調節してゴーストが最も大きくなった瞬間を撮影しています。
コントラストの低下は最小限で、陰になった部分もしっかりと写っています。
マニュアルフォーカスで動き回る鳩を狙ってみました。餌を集めているようでせわしなく動き回っていましたが、ほどよいトルク感のフォーカスリングは素早くピントを合わせることができ、MFでも問題なく撮影できました。
最後に、レンズをSimera 35mm F1.4に付け替えました。
焦点距離は換算で約53mmと、今度は50mmよりもわずかに飛び出ています。
28mmと35mmは焦点距離が近すぎて使い分けが難しいのではないか、と最初は思っていましたが、実際に使ってみると明確に35mmを使っているときのほうが、より切り取るような構図を無意識に狙っていると感じました。
こちらのレンズも28mm同様、開放から高い解像度を有しています。前ボケ・後ボケもなめらかです。
被写界深度スケールを基に、F8でスナップ撮影を楽しんでみました。こちらは2枚ともノーファインダーでの撮影です。カメラを首から提げるような形で撮影しているのですが、上からカメラを見ると被写界深度が視覚的に見やすく表示されており、実用性と共に撮影時のテンションも高めてくれます。
Thypochはシネレンズを中心に製造を行うメーカー。いずれのレンズも、映画のように、日常のワンシーンを華やかに切り取るような楽しみのあるレンズだと感じました。
クラシカルで質感の高い外観、使っていて楽しさを感じることのできる操作性、そして画質と、どこを取っても素晴らしいレンズとなっています。
見た目も撮れる写真もどちらも妥協したくない、という方にオススメしたいレンズです。
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