【Leica】散歩するライカ ① M11にズミクロン M35mm F2(6枚玉)を添えて
妻と喧嘩をした。
きっかけはいつも通り些細なこと。
私の休みの日、朝から本当に久しぶりの快晴。とはいえ、いつも通り十分に惰眠をむさぼり、気がつけば午後の時間。
折角の秋晴れを逃してなるものか、カメラ片手に妻とお散歩を、と用意していると、
「え、出掛けるんですか? いろいろ片付けなきゃいけないことあるのに。お義母さんの誕生日だって近いんだし…」
「朝からどっか行こうって言ってたじゃないか。こんないい天気なんだし。」
「ちゃんとは言ってないじゃない、お誕生日すぐなのに…」
という会話がしばし、結局「じゃあ、1人で行ってくる!」と家を飛び出した私。
文章にしてしまうとこれだけのこと、実にくだらない。犬もそっぽを向くこと必至。
そんなわけで、久々の独り身に。
お供に持ち出したのは、Leica M11とSummicron M35mm F2(6枚玉)。
最新の6030万画素センサー搭載カメラと1969年発売のレンズの組み合わせが、湿った私の心を乾かしてくれるだろう。
明確に目的地を決めていたわけではないので、駅への道すがら何処に行くかあれこれ思案を。
いっそうんと遠くまで行って帰ってこない… なんて家出少年的な思考にもなりながら、結局向かったのは最寄駅から私鉄で数駅、大田区「洗足池公園」。
東急池上線「洗足池駅」を出ると道路を挟んですぐに池、というちょっと珍しい光景が広がるところ。
案内には「都内屈指の広さを有する淡水池。」なんて記述も見られるが、周囲およそ1.2キロメートルと普通に歩けば数分で周りきってしまう距離。
休憩所と隣接したボートハウスがあり、足漕ぎ型のボートが何艘か停泊していた。
さすがズミクロン、50年前のレンズとはいえシャープに像を結んでくれた。背景の木々の葉も細かに描写されている。
勿論、現行レンズの解像力には及ばないが、オールドレンズと一言で括ってしまうことのできない表現力を持っている。
穏やかな秋の午後、風もなく水面が鏡のよう。
ボートハウスの階上は展望台になっていて、池全体を見渡せるように。
浮かぶのはたった一艘のボート。まるで池を独り占めしているようで何とも羨ましい…
白地に反射する光は目に痛いくらいだったが、カメラは白飛びすることなくそれを描写してくれた。
妻と乗るなら黄色の屋根の方か、でもこんなに人がいないならちょっとふざけて昔懐かしスワンボートも捨てがたい。
…いやいや、喧嘩中だった。まぁ、向こうが喧嘩と捉えているかは微妙だが…
ボートハウスを離れて池の周囲をのんびり散策。本当、のんびり回らないとすぐ終わってしまうので、歩調もゆっくりと。
ところどころ黄色く色付いたイチョウの木の下に鳩が数羽、と思ったら暗い枝々の上にはあちらにもこちらにも… 鳥の苦手な妻ならば、きっと悲鳴を上げて逃げ出す光景。
そのうちの1羽に狙いをつけてシャッターを切る。暗すぎたので絞り優先オートで1段以上オーバーにして再度。
羽毛は勿論、妻の嫌いなうろこ状の足まで鮮鋭に。
枝の下部には、オールドレンズらしいそろばん玉状のボケが。
池のほとり、木陰を縫うようにカモの群れが横切っていく。意外と速く、置きピンで対応。
水面の僅かな波を出したくて、アンダーめのままで。モノトーンな感じの仕上がりに。
「池月橋」という三連の太鼓橋。
月に照らされたらさぞや美しいことだろうなどと考えながら… いや、ただただ撮影に夢中。
欄干の木目が精緻に表現されている。橋の奥行き感、背景の木々の立体感も出しながら、それでもガチガチにならない6枚玉の優しい表現力が好み。
手前か、いや少し奥に、それとも奥に向けて歩かせるか、人を配置しても面白かったかも…
橋の左手はこんな感じに。案内には「カワセミがいるかも」なんて書いてあったが、いたらさぞや絵になっただろうに。でも35mmでは無理か…
印象派の絵を思わせるような木漏れ日に俄然写欲が湧く。
橋を渡りきるとすぐ横に朱塗りの鳥居、小さな八幡神社がある。
日頃から神社・仏閣の朱はライカで撮影するためにあるのでは、と思っている。
テカリと同時にちょっとヌメっとした色の質感まで。この鳥居は塗りが新しいが、ちょっと古く色が褪せてきた時の渋味もライカレンズは忠実に表現してくれる。
暗くはなかったが、敢えて絞りを開け気味で。背景の木々に光の玉が。
絞り開放。背景の木が電飾を付けたようになった。眼の辺りにかかる蜘蛛の糸が光を受け輝く。
細かいところだが、光の当たった藁の部分が滲んだようになっている。
歴代ズミクロン35mmの中で、カッチリしすぎないところがオールドレンズファンに人気の高い点。
この神社内でも随分時間を費やしてしまった。
再び池に戻り、水面ギリギリまで寄れるところに。近づくと鯉が押し寄せてきた。
よく見るとカメも。でもエサがないと分かるとすぐに離れていく、なかなか現金なものである。
目が合った…
いい歳の男がひとり、池のほとりでひたすら鯉にレンズを向けている図はいかがなものか。持っているカメラがライカなら、少しは箔がつくのではなんて手前勝手なことを。
大分陽が落ちてきた。いつまでも鯉と戯れていても仕方ないので、もう少し池を巡ってみることに。
辺りが暗くなるのに合わせ、撮るものも暗く寂しい雰囲気を醸し出していく。
静かすぎる時間が経過。風も感じられなくなると、目の前に鏡が現われる。
そろそろ帰らないと本当の家出少年になってしまう…
池を離れ、駅に向かう途中に美味しそうなお好み焼き屋を発見。妻と来たら帰りにここに寄るか。
池の散策だけではすぐに終わってしまうので、ちょっと足を伸ばして戸越銀座の商店街を二人でひやかすのも楽しそう。
帰宅すると、夕飯の準備が出来ていた。
「いい写真撮れました?」
「まぁまぁかな… 飲む?」
「いただきます。」
今日の喧嘩はこれにて終了…