「銘玉」。ひとえに素晴らしいレンズを指す言葉ですが、その価値基準には様々な種類があると思います。 写りが良い、解像が凄い、明るい、焦点距離が絶妙、希少価値が高い…等々、撮影者それぞれに思い思いの銘玉像があるかと思います。 本記事では、ペンタックスの歴史の中で間違いなく「銘玉」と呼ぶにふさわしい『PENTAX FA Limited』の名を冠する3本のレンズをご紹介いたします。 それぞれ「FA31mm F1.8 AL」「FA43mm F1.9」「FA77mm F1.8」の焦点距離の違う単焦点レンズは、元々は小型・軽量なフィルムカメラに似合うレンズで良い物を作ろうという着想から生まれました。そのコンパクトさからは想像の出来ない写りの「立体感」や「抜けの良さ」が大変評価され、今の時代にいたるまで人気を博し続けてきたレンズです。美しい見た目から「三姉妹」と形容される事もあるこの三本を、今回はより精細に楽しむべくフルサイズ6100万画素の『SONY α7RIV』に『K&F PK-NEX マウントアダプター』を用いて装着し、撮影を愉しんで参りました。
青空と海原。広大な風景はいつの日も見る者に安らぎを与えてくれます。『PENTAX FA43mm F1.9 Limited』が描く空はどこまでも清々しく、また深いディティールを保った雲がアクセントとなって鎮座しています。水平線から上空へ向かっての青のグラデーションも実に滑らかで好感が持てます。
9月も終わりに差し掛かろうという頃でしたが、この日はなかなかに強い日差しが注ぎ体力を奪われる場面もありました。しかし、太陽の恩恵を写真に取り込めるとそんな疲れもどこ吹く風。道路に面する生垣、葉の一つ一つが光を受けて輝いている所を見つけました。絞り開放で撮る事で美しい玉ボケを収めることが出来るはず。そんな思いを見事に具現化してくれた一枚です。
力強い眼に惹かれ、見上げるアングルを77mmの中望遠で撮影。少し絞ることで迫力のある顔の造りを細部まで描写しています。そして木目やわずかなひびの様子などが木造の質感を感じさせ、険しい表情の中にどこか優しさを感じさせます。
商店街、アーケードの何気ない一コマです。日常の空気を拾いたかったのであまり狙いすぎず撮ったのですが、出てきた画は素晴らしい奥行きで想像以上でした。やや暗所の中ですが看板の色彩が見事に描かれ、商店街のにぎわいを上手に表しています。
展望台に上るなら天気の良いときに遠くまで見通せると気持ちがいいですが、筆者は霧に包まれた都市風景が好物だったりします。 朝からあいにくの雨、という天気予報とは裏腹に高揚した気持ちのままこのカットを狙いに行きました。モノクロで撮る事で無機質さの中に哀愁めいたものを閉じ込めています。周辺減光が雰囲気づくりに一役買っています。
緻密に造られた瓦細工を歩きながら撮影しましたが、後に現像する際に瓦の立体感が素晴らしく思わず見入ってしまった一枚です。 また、屋根の下で影になった部分も黒潰れすることなく諧調豊かに描かれています。『PENTAX FA77mm F1.8 Limited』の真骨頂を垣間見た瞬間です。
交通量の多い通りを見ると、車の光線をレーザーのように入れたくなってしまいます。『PENTAX FA31mm F1.8 AL Limited』は実にシャープな写り。 道路に佇む木々や、奥へ広がるビル群まで。自然も人工物も切れ味鋭く切り撮ってくれるのです。
現在、普及している焦点距離とは一線を画す画角設計。最初は「不思議な数字で作られているな」と思っていましたが、実際にカメラを覗いてみた時に完全に腑に落ちました。31mmの広すぎない広角は風景を丁寧に切り撮り、その場の空気を感じさせてくれます。43mmは肉眼で見る世界にほど近い画角で、見たままの感動を脚色せずそのまま残してくれます。77mmは中望遠の美味しい部分を気軽に楽しめるたまらない一本でした。ただ単に「FA Limited」と一緒くたにまとめるのは勿体ない、それぞれに性格の違う気ままな「三姉妹」。ミラーレス用に大口径単焦点が発表されていく中で、小柄ながら「このレンズにしか取れない写真」を撮影者に与えてくれる『PENTAX FA Limited』シリーズは、やはり「銘玉」に相応しい気品と実力を持ったレンズなのです。
Photo by MAP CAMERA Staff