『X-Pro3』で魅せるモノクロームの世界 : Voigtlander ULTRON 35mm F2 Aspherical Vintage Line
2020年12月04日
異なるメーカーのボディとレンズの組み合わせから起きる「化学反応」を愉しむマウントアダプター。 今回はXFマウントの風雲児『FUJIFILM X-Pro3』に、クラシックライクなスタイリングに最新の光学性能を組み合わせた『Voigtlander ULTRON 35mm F2 Aspherical Vintage Line』を組み合わせました。さらに数カット撮影した中で、『FUJIFILM X-Pro3』のフィルムシミュレーション「ACROS」をあてた時のフィーリングに運命的な感覚を覚えたため、今回はモノクローム写真のみをご覧いただきます。お楽しみ頂ければ、幸いです。
スナップ撮影に出かけるときは、あまり明確な目的は設けません。漠然と「この辺りがいいのかな」という場所へ赴き、ひたすら歩きます。待っている被写体よりも、探し出した被写体を収められた時の喜びは非常に大きなものです。この日最初に見つけたのは駐車されたバイクのミラーに閉じ込められた太陽。枠から出たいと輝きを増す姿を、絞り気味に一枚。
東京にはたくさんの人が住んでいて、そしてひとところに集まる習性を持っているようです。人が多ければ多いほどその個性は埋没し、円や線で構成された記号にしか見えなくなってくる。そうやって身を守っていくのが集合の美学なんだと思います。
写真に絵画的なエッセンスを盛り込む。歴史に名を馳せる偉大な写真家の中には、絵画に精通し自分でも作品を描く人もいたのだとか。筆者には筆を操る技術は毛頭無いので、道中で見つけた額縁の中に風景を描いてみることにしました。彩度を取り上げられた空が、実に美しく見えます。
思わぬときめきを、大事にしたいものです。たった一つの丸電球で照らされた路地の向こうでは、強烈なハイライトの中で作業を行っている方がいらっしゃいます。路地明けから差し込む幾ばくかの明かりに、すがり付くような影の中にも、文字が、扉が、生活が浮かび上がっています。
目を覆いたくなるような色味の奔流は、モノクローム越しに見ても溢れ出るかのように感じます。まだ、明かりの灯らない昼間の時間。
撮影後のカラー写真をモノクロが合いそうと思いつき、色を抜くことがデジタル時代では容易になりました。フィルム時代では、カラーで見える世界を脳内で変換しながらモノクロフィルムで撮影していた事を考えると、「モノクロで見える世界をモノクロで写し取る」というミラーレス機にのみ許されたこの行為が、とても自由で尊いものに思えたのです。明るいか、暗いかだけで描かれた写真は、時にカラー写真より雄弁に色彩を語ります。『Voigtlander ULTRON 35mm F2 Aspherical Vintage Line』の固く、実直な写りが見せるモノクロームの世界。是非、一度旅して頂きたいものです。
Photo by MAP CAMERA Staff