いよいよ発売された『Voigtlander HELIAR 40mm F2.8 Aspherical L』はその名の通り「Lマウント」のレンズなのですが、このLは所謂「Lマウントアライアンス」と言うライカ・パナソニック・シグマによるフルサイズミラーレス一眼の統一規格マウント、のことではありません。そうです、レンジファインダーカメラの黎明期を盛り上げた「L39 スクリューマウント」のLなのです。この令和の時代に最新レンズが発売されるなんて、一体だれが予想したでしょうか。
『Voigtlander HELIAR 40mm F2.8 Aspherical L』はヘリアタイプのレンズを踏襲した3群5枚の伝統的な構成になっていますが、最新の光学設計と非球面レンズの採用により開放からシャープで破綻のない描写を味わうことが出来ます。また、レンズ自体のビルドクオリティも素晴らしく、特に滑らかなフォーカシングレバーは撮影をしていない時でも思わず触っていたくなるほど。非常にコンパクトで操作性に優れるところから、スナップ撮影との相性は最高と言えるでしょう。今回は、前段の引っかけにワクワクしたことを皮切りにLマウントの『SIGMA fp』と本レンズをマウントアダプターで組み合わせて撮影を行いましたので、是非ご覧ください。
とにかく良く出来たレンズです。わずか110gという手のひらサイズですが絞りリングやフォーカシングレバーを操作するたびに撮影欲が湧いてくるようです。そんなふうにクルクルとしていたところ、鳥の群れが頭上を飛び去って行くではないですか。慌てて無限遠付近にピントを合わせてシャッターを切った一枚がこちらです。
破綻のない優秀な画作りが魅力的です。ピントの合った部分はくっきりと写っていやな色滲みなどもなく、開放から積極的に使っていきたくなります。
今回の組み合わせは実に軽快。機材の総重量はおよそ500gと、ペットボトルを持ち運ぶのとほとんど変わらない身軽さです。そのため、目に入ってくる様々な景色にカメラを向けて東奔西走、一日の終わりに歩いた歩数を見たら30000歩を超えていて自分でも驚きました。40mmは非常になじみやすく、デフォルメのない画角だと感じました。
撮影に出た日は空にところどころ雲がかかり、なかなか好ましい光を掴むのが難しかったです。しかし、写し出されるしっとりとした描写は現場の湿度までが写っているようで、階調表現の良さも含めてさすがヘリアーと唸ってしまいます。
高架下に列をなして停泊していた屋形船。整然とした静けさに惹かれて一枚シャッターを切りました。その場での確認はしておらず、後に撮影画像を確認してその立体感に驚かされました。船舶の造形をソリッドな線で描き出してくれ、なんとも好ましい描写です。
海。夕刻。これだけでなんともセンチメンタルな気分になります。この日の撮影を振り返りながら、日が沈んでいく時間を味わってみました。まばらな人影の中で、逆に言えば何かを感じたくてここに集まっている人に勝手に感情移入をしながら。
初めてカメラにレンズ装着した時、そのビジュアルの良さに図らずも興奮を覚えました。箱型でミニマルな印象の『SIGMA fp』に『Voigtlander HELIAR 40mm F2.8 Aspherical L』がちょこんと咲いている様は、問答無用でカメラ好き・ガジェット好きの心をくすぐる佇まいです。そのうえで、撮れば撮るほどに魅力が伝わる描写もニクい。一見優等生のような端正な写りを見せてくれたかと思えば、時折ハッとさせられるような妖しさを纏った写真に出逢わせてくれる。すっかりと魅せられてしまった現代のヘリアー、まずはその手のひらに乗せてみて頂きたいと思います。
Photo by MAP CAMERA Staff