Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4
次々と新レンズが発表されているカールツァイスのMilvusシリーズ。Milvusシリーズには既に『Carl Zeiss Milvus 35mm F2』が存在していますが、今回ご紹介するのは更に明るい『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』です。
F2と比べて重さも値段も段違いのこちらのレンズ。なんとカールツァイスの最高級ラインである『Otus』に匹敵する色収差改善を実現しているとのこと。同じディスタゴンタイプではあるものの、使われているレンズの枚数も大きく異なり、更には 特殊ガラスが5枚も使われているという贅沢っぷり。Otusの名前が出てきた時点で既に期待値は120%でしたが、本レンズのことを知れば知るほど完成度の高さに驚くばかりです。
冒頭の写真は、最近発売したばかりの大注目の新製品『Nikon D850』に本レンズを取り付けて撮影をしたもの。開放からしっかりと解像し、更には最短撮影距離が30cmと短いので、中望遠レンズに負けずとも劣らない大きなボケ味を生み出します。
D850の見やすいファインダーと新機能であるピーキング機能のおかげで、マニュアルフォーカスでも撮影はサクサク。D850のように高画質を誇るカメラにこそ使っていただきたいレンズなので、この相性の良さには思わず笑みがこぼれてしまいました。
地面に隙間なく生えていた草花を撮影した1枚。真俯瞰で撮影したため上に生えていた草木の影が落ちていますが、細かい陰影表現が見事です。きらきらと太陽の光に照らされて光り輝く葉っぱが美しいですね。
ガラスに反射した木漏れ日がお気に入りの1枚。秋の始まりを感じさせる涼しい風と、木々の擦れる優しい音が、この写真を見るとよみがえってきます。
冒頭の写真よりも更に被写体に寄ってみました。ツァイスらしいコントラストの高いクリアな描写と、大きなボケがとても美しいです。本レンズは風景・スナップ撮影はもちろんのこと、物撮りやポートレートでも大いに活躍してくれることでしょう。
Milvusシリーズのピントリングの操作感の素晴らしさには感動せざるを得ません。細かいピント調整を容易とする絶妙なトルク感もさることながら、ラバーが巻かれているおかげで手が滑ることもありません。安定感も抜群です。
仲良く吊るされていたひょうたん達。陰影のグラデーション表現が見事です。
数多い『35mm F1.4』の中でも、最高峰の描写性能。
『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』を使用してみて「こんなに良く写る35mmF1.4は他に見たことがない」というのが率直な感想です。このスペックのレンズは各メーカーとも最新の光学技術を用いて作られた力作ばかりなのですが、今まで使用してきたレンズの中で一番上がりの印象がいいと思えたのがこの『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』でした。
もちろんこれは私個人の主観が入った意見ではあります。じゃあいいレンズって何?という根本的な疑問で考えると、まず光学性能です。
この『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』は、これからのより高画素なセンサーに対応出来る優れた解像性能。歪曲収差などの歪み。レトロフォーカスタイプの弱点とも言える口径色、そして大口径レンズに起こりやすい境界線に現れるフリンジ。 逆光耐性。それらを全て高次元でクリアされています。
そしてツァイスレンズの特徴であり、レンズの味と言えるコントラストと発色の濃さ。これも“ツァイスらしさ”をしっかり感じる濃い味です。
最後は『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』としてのトータルバランス。ただ解像力が高いだけ、ボケ味が綺麗なだけではいいレンズとは言えません。今まで述べた数値的な性能に加えて、写真にした時に感じる立体感や質感表現、このレンズの持つ特有の空気感など、独自の個性も本レンズは持ち合わせています。
続いてはボディを『Canon 5DsR』へスイッチ。前半はD850でしたので、必然と『Nikon 4575万画素 vs Canon 5060万画素』のような感じになりましたね。しかもレンズが同じ『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』ですから、最高の比較対決な気がします。
さて、まずは35mmの画角を生かしたスナップから。情景を写すのに適した画角ではありますが、スナップカメラとしてはカメラもレンズもちょっと大きいです。たまたま訪れた神社は秋祭りの準備をしていました。少しだけ絞ったF2.8で撮影したのですが、おかげでいい空気感が出たと思います。
きらびやかな装飾がされたお神輿を撮影した一枚。ピント面の解像力、なだらかなボケ味、立体感など絶妙なバランスの描写です。
続いては開放F1.4で。解像力はもちろん高いのですが、なんでしょう、この写真を見てじわじわと感じる描写の味は。結ってある組紐が浮かび上がって見えるような、とても立体的に見える写りです。
「なんだ、結構歪むな」と思った方、大丈夫です。実は屋根が少しカーブしているのです。緻密な描写を見たくてF8まで絞り撮影したのですが、まぁよく写る写る。周辺まで驚くほどの解像性能です。
木陰に白い曼珠沙華が咲いていました。F1.4でほぼ最短撮影し、モノクロームで仕上げてみました。
先代に当たるClassicシリーズの『Distagon 35mm F1.4 ZE』は近接時の描写が柔らかいなという印象でしたが(あれはあれで好みの描写です)、『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』はマクロレンズのようなメリハリのある描写です。準広角と言える35mmながらボケ味も深く、距離と絞りによって写真のイメージが大きく変わるレンズです。
硬質なイメージ撮るならF5.6位まで絞ると写真全体にカッチリ感が増します。石段のざらりとした感じが伝わって来る一枚です。
歩道橋の上からのスナップ。ものすごい解像力なのですが、表現は少しウエットな印象です。光沢のある被写体、この写真で言えばクルマのボディなどを撮影すると浮き出るような立体感が生まれます。
被写体のディティール、そして階調を豊かに表現してくれるレンズです。しかも5060万画素センサーにもかかわらず、解像性能にはまだまだ余裕が感じられる所がスゴイ。現在のデジタルカメラより先を見据えた設計のレンズだと感じました。
サイズも重量も、高性能の証なのだと納得してしまう実力。
とても35mm単焦点に見えない大きさ、そして手にした時にズシリと感じるガラスと金属の塊感。初めて触った時は思わず“苦笑”がこぼれたレンズだったのですが、今は「なるほど」とその全てに納得させられてしまいます。個人的には最高峰である『Otus』の名がなぜ付けられなかったのか疑問に思うくらい素晴らしい描写でした。これはいいレンズです。
この『Carl Zeiss Milvus 35mm F1.4』は、ツァイスが目標としているであろう「絶対的な描写性能」が体現されている一本だと思います。勝手に「コンタレックス思想の再来」と思っているのですが、超解像性能+高コントラストによる“生々しい描写”を本レンズから感じました。ツァイスレンズに興味のあるけど使用した事がないユーザーに是非おすすめしたい1本ですね。純正にはない、濃密でツァイスレンズらしい描写は写真そのものを変えてくれるはずです。
Photo by MAP CAMERA Staff