748: レンズを使いこなす愉しさを『Voigtlander NOKTON D35mm F1.2 (Z-Mount)』
2022年02月15日
世界中のXユーザーに衝撃を与えた『Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 X-mount』の登場からちょうど7ヶ月、本レンズを手にした時「そう来たか!」と思わず声に出してしまいました。 まさかこのマウント、このフォーマット専用でレンズを出してくるとは思わなかったというのが本音です。
今回のKasyapaはZfcユーザー待望の一本『Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON D35mm F1.2』のご紹介です。
まず本レンズの概要として申し上げなくてならないのは「ニコン Zマウント」であり、「DXフォーマット(APS-C用)」のレンズであるということ。現在ZマウントのAPS-C機と言えば『Nikon Z50』そして『Nikon Z fc』の2台がラインアップされており、昭和40年代の国産レンズを思わせるクラシカルなレンズデザインからすると、メインターゲットは人気機種である『Nikon Z fc』だろうと考えます。
レンズのベースとなっているのは先に話にも出た『Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON 35mm F1.2 X-mount』。Xマウントに続き本レンズの撮影を担当したのですが、絞り値によって描写と印象が大きく変わる愉しいレンズになっています。
レンズが手元に来たのが都内で2回目の大雪が懸念された日、そしてメインの撮影は3回目の大雪予報の翌日と、天気に翻弄された本レンズの撮影日。まず向かったのが大河ドラマの舞台でもある神奈川・鎌倉方面です。境内にある長い階段を登りきり、見事な神社建築の本宮を写真に収めます。
バブルボケのような表現になった開放F1.2での近接写真に対し、こちらはF2に絞って少し遠くの被写体を撮影した写真。F2くらいからスッと収差が落ち着き始め、ピント面のシャープネスも向上します。
スナップはより被写体に近づいて撮るものというのが筆者の信念。エサに集まるハトにぐいっと近づき、ハトに混ざりながら数枚シャッターを切ります。MFレンズの良いところは、シャッターのタイミングをカメラに委ねないことだと思っています。撮りたい気持ちの時にシャッターが切れる、これほど撮影していて気持ちのいいことはありません。
境内に仕切られた区画があり、奥の木に何か神々しい静けさを感じてシャッターを切った一枚。しっとりとした雰囲気を『Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON D35mm F1.2』が写し出してくれました。
海を見たくなり、向かった海岸には多くのユリカモメが飛んでいました。絞りをF4.5に変更して飛ぶ姿をスナップしていきます。少し絞っただけでもクリアな描写とキレのある解像感が伝わってくる一枚です。
帰り際にようやく太陽の光が差してくれました。キラキラと光る海面を渡るパドルサーフィンの姿。美しい夕暮れ時です。
自宅に帰り、窓際に飾ってある花を撮影した一枚。撮影条件によって絞り開放・最短撮影距離では、かなり柔らかい印象の写りになる本レンズです。
フレアも滲みも全てが本レンズの味と呼べる描写です。同じ絞りでも光の条件によって表情が大きく変わるので、まずはレンズの癖を理解してイメージを組み立てるのが大切。開放付近ではオールドレンズを使っているような気持ちにさせてくれるレンズです。
レンズを使いこなす愉しさを
絞りを駆使してイメージを写真にする。当たり前の言葉のようですが、良く写り過ぎる昨今のレンズには無い、絞りで画作りそのものが変わる魅力を『Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON D35mm F1.2』は教えてくれます。開放F1.2ではAPS-C機とは思えないボケ味の深さと、オールドレンズを匂わせるような描写の味付け。それが絞りリングを回すたびに表情を変え、F5.6ではニコン機にふさわしいシャープで澄み切った描写へと変化していくのです。
そして何よりカメラにつけた時の格好良さ。往年のニッコールレンズを彷彿とさせるデザインと色使いに「ニクいことするな」と思わず微笑んでしまいました。現在も新作のFマウントレンズを作るコシナは『Nikon Z fc』を選ぶユーザーの趣向や気持ちを本当に分かって物作りをするメーカーだなと感じます。
いつもカメラに付けたくなる。写真を撮りたくなるレンズこそが真の銘玉。『Voigtlander (フォクトレンダー) NOKTON D35mm F1.2』はスペックシートだけでは分からない写真の愉しさを奥深さが伝わる一本でした。
Photo by MAP CAMERA Staff