

今回はソニーより発売されたレンズ一体型コンパクトデジタルカメラ『 SONY Cyber-shot RX1R III 』をご紹介いたします。約9年と5カ月。もう後継機は出ないのではないかと思っていた方も多いのではないでしょうか。発売することが分かったとき、私もひそかに心躍りました。「RX1R II」の 4360万画素から、約6100万画素のフルサイズ裏面照射型Exmor R(TM)cmOSイメージセンサーとBIONZ XR(TM)画像処理エンジンに進化。レンズは「ZEISS(R) ゾナーT* 35mm F2」を引き継いでおり、35mm、50mm、70mm相当の3段階の画角を選べるステップクロップ撮影機能とクリエイティブルックに「FL2」「FL3」という新しいルックが搭載されました。オートフォーカス性能も確実に進化。最新のAIプロセッシングユニットによる被写体認識AFと広範囲、高密度のAFで幅広い被写体を認識できるようになりました。ボディ外装と内部シャーシ構造に軽量かつ剛性の高いマグネシウム合金を用いながらも質量約498gで、本体上面に凹凸のないフラットな小型軽量ボディを実現。大容量のバッテリーパックNP-FW50に対応したことで、撮影枚数も最大300枚と大幅にアップしました。今回はステップクロップ撮影機能もたっぷり使って撮影を行ってきました。ぜひご覧ください。

最短撮影距離は通常モード時で約24cm、マクロモード時には約14cmまでの近接撮影が可能です。このカットではマクロモードの最短撮影距離、さらにステップクロップ撮影を使ったテレ70mmで撮影をしました。70mmでSサイズ(約1500万画素)になりますが、ミツバチの産毛や足についている花粉、ひまわりの花の細部までシャープに捉えられており、ボケもクセがなく自然な描写です。また新しく追加されたクリエイティブルックの「FL3」は向日葵のイエローやオレンジの色味が撮影者にとってのイメージによく合い、すぐにお気に入りのルックになりました。

色とりどりのガラス製の風鈴が光を透過して輝いている様子をクリエイティブルック「FL2」で切り取りました。『RX1R III』ではポップアップ式だったファインダーが固定式になり、アイカップが付属されています。個人的にはこのアイカップの視認性が良く気に入りましたが、付けていることでやや出っ張りが生じます。気になる方はアイカップを外すことで従来のスタイルで撮影することも可能です。

ふと思いついて風鈴の内側の世界を、70mmのステップクロップ撮影で切り取りました。ガラスに閉じ込められた気泡が作り出す、ざらりとした独特の質感までも見事に写し出しています。この「ステップクロップ」機能はC1ボタンに割り当てておくと、ファインダーを覗いたままテンポ良く画角を変えられるので、非常に便利でつい多用してしまいました。
また『RX1R III』のモニターは固定式になりましたが、約230万ドットの高精細タッチパネルに進化したことで、撮影の自由度はむしろ向上した印象です。手を伸ばすようなハイアングルや、ファインダーが覗きにくい姿勢でも、タッチ操作で快適に撮影することが出来ます。

この緻密な木彫りも70mmステップクロップで撮影していますが、そうと言われなければわからないほど、シャープに描き出してくれました。70mm(ステップクロップ撮影)で撮影しているのですが、そうと言われなければ気付けないと思うほど、よく写っています。搭載されている「ZEISS(R) ゾナーT* 35mm F2」は、約10年前に登場した初代から受け継がれたレンズです。当時からその描写力には定評がありましたが、ユーザーからレンズを変えないでほしい、という要望があったということ。9年半の時を経て、改めてこのレンズへの評価が正しかったことを改めて証明してくれたように感じます。

カフェでの一枚。ここでは50mmステップクロップを使い、最短撮影距離で撮影しましたがラテアートの繊細な泡の質感を捉えてくれました。このように、席を立たずに35mm、50mm、70mmと画角を調整できるのは、テーブルフォトにおいて大きな強みです。
バッテリー「NP-FW50」に変更され、撮影可能枚数が向上されただけでなく、USB給電にも対応しているため、モバイルバッテリーがあれば充電しながらの撮影も可能です。おかげで、予備バッテリーはない状況でも、一日中撮影することが出来ました。

ロースターの銀色のハンドルに少し奥側にピントを合わせましたが、ガラスや木材とは異なる、ザラっとした表面の金属の光沢感や質感を忠実に再現してくれました。

花手水に水が注がれ、波紋が広がっている瞬間を捉えました。濡れて色を深めた花や葉っぱの瑞々しさ、手水鉢のざらりとした質感など様々な要素に目が惹かれました。どんな被写体を撮っても、撮影者が「こう写ってほしい」と思った通りに写ってくれるので信頼感がどんどんと増していきました。

分厚い雲に隠れた太陽、強い光が雲の輪郭を鮮明に浮かび上がらせます。暗い雲の塊と射し込んでくる光との間のコントラストを見事に再現してくれました。「クリエイティブスタイル」の時代だった「RX1」シリーズとしては初となるクリエイティブルック。クリエイティブルックによって青空の印象がガラッと変わりますが、今回はその中で「FL」をチョイスしました。空の写真を撮るだけでも色んな可能性を見つけることができます。

アンティークチェアの布地の模様、そしてレースの細やかな刺繍までを驚くほどの解像感で捉えています。光の当たる部分から影へのなだらかな階調表現も実に見事です。少しのピントズレも起きないように、ここではマニュアルフォーカスを使用しました。適度な重みのあるピントリングは操作性が良く、スムーズにピントの山を掴むことができます。背景ボケも非常に滑らか、惚れ惚れしてしまう写りでした。


逆光でのフレアやゴーストは出てきますが、それもこのレンズの持ち味として認められているということでしょう。実際に光をオーバーに取り入れたときの柔らかいフレアは個人的に表現の一手として使いたくなる描写です。ゴーストに関しても入射角で調整が可能です。このカットではあえて多めに取り入れてみました。


手前のススキの穂にピントを合わせ、絞り込んで撮影しました。シルエットになったススキの立体感を保ちつつ、遠くの空に浮かぶ雲の輪郭までシャープに捉えることができています。夕日が柔らく滲む美しいアクセントにもなこの滲みもまた、「ZEISS(R) ゾナーT* 35mm F2」の持ち味でしょう。


霧の中を歩く人物にピントを合わせました。これだけ光が滲む濃い霧の中では、オートフォーカスが被写体を見失っても不思議ではありませんが、迷いなく捉えてくれました。厳しい条件下でも信頼できるAF性能です。また、同時に高感度性能も見てみました。手持ちでシャッタースピードを確保するため高感度で撮影しましたが、暗部に浮かぶ霧というノイズが目立ちやすい被写体にも関わらず、幻想的な光景をクリアに写してくれました。このカットもステップクロップ撮影のカットだというのも驚きです。本当にオールマイティーに撮ることの出来るカメラだと思いました。

進化と深化
約9年半の時を経て登場した『SONY Cyber-shot RX1R III』。最新技術を惜しみなく投入する一方で、その核となるレンズは受け継がれたという情報を聞いたとき、正直、最初は驚きました。しかしそれは「RX1」というカメラがすでにそれだけの大きな信頼を得たカメラだったということ。単なる技術の「進化」だけでなく、ユーザーの声に応える「深化」を遂げた『SONY Cyber-shot RX1R III』。再び多くのフォトグラファーに愛される未来は、想像に難くありません。ポケットサイズのボディに凝縮された、無限の可能性。ぜひ、ご自身の眼で確かめてみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff