

シグマがデジタルカメラの再構築を掲げて開発された「fp」
撮ることの真ん中を凝縮したfpシリーズは、世界最小・最軽量のフルサイズミラーレスカメラとして日常使いから本格的なシネマスタイルまでユーザー次第で無限の拡張性を持ったカメラとして多くのユーザーを虜にしてきました。そして2025年春、写真の本質である「撮ること」そのものの軸は一切ブラすことなく、革新性を突き詰めながらも写真の原点に立ち返り、デジタルカメラの新たな境地を提示する「BF」を発表しました。
「fp」が最小から最大までの可能性と拡張性をコンパクトに詰めたカメラとするならば、「BF」は限りなくシンプルに、純粋な撮影体験を体現するためのカメラです。ホットシューもEVFもメモリーカードスロットもなく記録は内蔵メモリー230GBのみ。天面にシャッターボタンとマイク穴、サイドにはそれぞれUSB-C端子とストラップホールが、背面にモニターとサムグリップ、感圧式のハプティックボタンおよびダイアルのみが配置されています。こうして各パーツを説明していくと、まるで賑やかなように聞こえますが、外観を実際に見てみれば極めてシンプル。カメラという存在が身近にあればあるほどに、そのシンプルさに驚いてしまうはず。
7時間をかけてアルミニウムインゴットから削り出される、継ぎ目のないユニボディ構造。BF本体の色に合わせて登場する9本のレンズはブラックだけでなくシルバーにも合わせたレンズが発売されます。ボディキャップさえもメタルボディキャップにこだわり、そのボディキャップを装着した状態は個人的に美しささえ感じてしまうほど。かつてないほど直感的な撮影体験ができる「BF」。同時に登場する3本のIシリーズのレンズとともに撮影に行ってまいりました。ぜひご覧ください。

この町では春になると桜が咲き誇る河岸川で舟遊が催されます。さっきまで漕いでいた船頭が周遊するのかと思いきや、少年たちが舟を漕いでいきました。いつか今舟を漕ぐ彼らが、大人になって未来の船頭になったりするのでしょうか。春の陽気とふわっとした未来への予感。「パウダーブルー」がこの景色を見たときの私の心情にピッタリとマッチしました。青い春を漕いでいく少年たちに沢山の幸がありますように。

『SIGMA BF』の有効画素数は約2460万画素。控えめな画素数のような印象があるかもしれませんが、外部ストレージに頼らず230GBの内蔵メモリーを採用した『SIGMA BF』ではベストな選択ではないかと思います。そして肝心の画質ですが、花の濡れた質感、艶、立体感は素晴らしく、花びらの厚みや葉の細やかな線までしっかり解像してくれました。花手水は室内にありますが、射し込んでくる自然光をうまく捉えてくれています。カラーモードは『BF』から新しく追加された「RICH」を使いました。赤・オレンジ・黄色など暖色系がはっきりと出ながら、グリーンの色味も鮮やか。ビビッドのポジションかと思いきや少しそれとも違う。色鮮やかでまさにリッチな色味でした。

新しく追加されたカラーモード「CALM」で撮影しました。「穏やかな,落ち着いた」という意味の通り、ハイライトが抑えられ全体のトーンがふわっと浮き上がるようにナチュラル系の仕上がりになります。

羅漢様も花見がしたいだろうと思い、背景に桜と赤塔を配置してみました。基本的に全て撮って出しの状態でご紹介していますが、このカットのみシャドウ部を引き上げました。Jpegのデータで持ち上げたのですが、苔の模様、石の質感までしっかりと見える精緻な描写に驚きました。

「fp」と同じくマルチアスペクトは[21:9]、[16:9]、[3:2]、[A Size]、[4:3]、[6×7]、[1:1]の7種から選ぶことが出来ます。

今回「fp」と比較して最も大きく進化したと感じるのは位相差検出方式+コントラスト検出方式によるオートフォーカス性能。水槽を泳ぐ魚や海辺を歩く小鳥、空を舞う鷹などパパっと被写体を見つけては合わせてくれました。ソフトウェアの進化によりフリッカーが出にくくなっているとのことでしたが、実際に撮ってみるとその進化を実感することが出来ました。

『BF』ではベース感度が静止画・動画ともにISO:320に設定され(動画Log撮影時:ISO:1250)、静止画時のシャッタースピードは「1/25600」まで設定できるようになりました。

まっさらな砂浜に一度きりの絵を描いては引いていく波の様子。ここにあった静寂と、その静けさを感じる筆者の心情をそのまま表現してくれました。万遍なくカラーモードを切り分けながら撮影したつもりだったのにピックアップするカットは「RICH」が多かったのが印象的です。実はこのカットも設定を見直すまでは「CALM」で撮ったものだとばかり思っていました。ブルーグレーと淡い夕日のピンクのグラデーションの彩度の心地よさ。新しいカラーモードも使えば使うほど新しい魅力に気づかされます。

夕焼けのグラデーションカラーをサンセットレッドで再現してみました。人のシルエットや雲の輪郭がとてもシャープで滲みのないクリアな写りです。モニターで画を確認する以上、どうしても数ミリのズレが生じてしまうことが多かったので水準器が大活躍しました。
かつてないほどの直感的な撮影体験
初めてBFを見た時、コンセプトはもちろん外観も、なんて尖った製品だろうと思いました。実際に持ち出してみると、カメラを支える手のひらのカメラの角は痛くならないように深めに凹ませていたり、ユーザーのことをしっかりと考えて造られていることに気づきます。全ての角面が滑らかな曲線になっていて、ツルツルととした手触りが良く、無意識にフォルムを撫でている。持っているだけで嬉しくなってしまうカメラ。カメラの性能が高いことは当たり前のような現代で、このようなコンセプトを持ったカメラが生み出されたこと、そしてこのカメラが生まれたことを多くのユーザーが歓迎したこと。カメラの可能性はまだまだ広がっていける予感に嬉しくなりました。カメラ史の1ページに刻まれることは間違いないと思いますし、そうであってほしいと願います。BFという製品名は岡倉天心の「茶の本」という著書から引用した「Beautiful Foolishness(美しい愚かさ)」の頭文字から取ったものだといいます。一杯の茶を楽しむように、日常の中の撮影の時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。
Photo by MAP CAMERA Staff