702:『Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-mount』
2021年07月15日
18世紀から続くカメラメーカーの名門Voigtlander(フォクトレンダー)。近年はフルサイズミラーレス用のEマウント製品も意欲的に出してきた同社ですが、なんと新たにAPS-C専用レンズを登場させてきました。そのマウントは人気の「FUJIFILM Xマウント」。クラシカルなルックスと高性能を併せ持ち、写真を撮ることの楽しさを詰め込んだXシリーズは、まさにマニュアルレンズを作り続けているフォクトレンダーにぴったりのマウントと言ってもいいかもしれません。今回のKasyapaは、発表されたばかりの新製品『Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-Mount』をご紹介いたします。
レンズ構成はほぼ左右対称に配置された6群8枚のダブルガウス型で、全レンズに球面レンズを採用しているトラディショナルな仕様。F1.2の明るさも相まって、おそらく開放付近の描写は解像よりボケ味に振った味付けなのだろうと推測できます。 我が家の愛犬をモデルに、カチカチッと小気味よい絞りリングをF1.2まで回し込み近距離でファインダーを覗くと、そこには想像以上の世界が広がっていました。ピント面には「高解像」と呼べるほどのシャープさは無いものの、しっとりとした細い線で像を結び、アウトフォーカスはそのまま溶けてしまうのではないかと思えるほど滑らかで深いボケ味が包み込みます。
爽やかな青いタイルと水のカット。滝のように上から水が流れ落ち、水面に泡が出来ては消えていました。柔らかな描写ではありながら、コントラストは高めのクリアな写り。冒頭から絞り開放での写真をご紹介していますが「現代の技術でオールドレンズを作ったら、このようなレンズになるのでは」と思わせる絶妙な味付けです。
カウンターに佇んでいたレトロなエスプレッソマシン。この雰囲気をより写真に演出するため、フィルムシミュレーションは「クラシックネガ」を選びました。この『Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-Mount』との相性もとても良い色です。
昼食で訪れたレストランにて。グリルされた鶏肉と夏野菜が盛られたグリーンカレーを注文しました。周辺にかけてジワリと滲むボケ味はなんともクラシカルな写り味。程よく解像してくれるピント面も相まって、まるでフィルムカメラで撮影したような写真に仕上がりました。
この柔らかな描写はモノクロ写真との相性も抜群です。壁にチョークで書かれた数字は、おそらく修復する箇所を数値で示したもの。その様が「数独」のようで、面白いパターンだと思いシャッターを切りました。白い文字にふわりと乗るハロがなんとも美しい描写です。
久々に見た青空をフィルムシミュレーション「ASTIA」でより印象深い色に。雨続きの曇り空に慣れてしまっていたのか、空の青がとても心に響きます。梅雨明けが心から待ち遠しいと感じた瞬間でした。
歴史と風格を感じさせるアンティーク家具。光量が少ない条件ならば、開放でも滲みは少なくスッキリとした印象に。
薄暗くなってきた夕方の時間帯。海沿いには夕まずめを狙って釣り人がポツリポツリと集まってきました。その様子を何気なくスナップした一枚なのですが「クラシックネガ」が昔の写真のように演出をしてくれています。
より、Xを深く楽しめるNOKTON。
撮影では主に『X-Pro3』を使用したのですが、『Voigtlander NOKTON 35mm F1.2 X-Mount』との組み合わせは本当に最高の一言でした。ご存知の通りコシナが制作するVoigtlanderレンズは全てマニュアルフォーカスレンズ。背面液晶が見えない『X-Pro3』と使用するとデジタルカメラなのに、とことんマニュアル操作を駆使して撮影を楽しむことができます。
たまに“じゃじゃ馬”な面を出す本レンズで撮影しながら、以前『NOKTON Classic 35mm F1.4』を設計したコシナ・佐藤氏にお話を伺った際におっしゃっていた「球面収差をあえて残した、現代では珍しい設計のレンズ。絞りによる写りの違いを楽しんでほしい」という言葉を思い出しました。
このレンズも球面収差の特徴が大きく出ているレンズではありますが、それをどうするかは使い手次第。「いいレンズ」の基準がMTFの数値だけではないことを改めて教えてくれます。撮影と写真を楽しめる素晴らしい一本でした。
Photo by MAP CAMERA Staff