ライカMのように高画素のデジタルカメラはレンズを選ぶと言われている。これはまったくそのとおりで、フルサイズCMOSセンサー、約2400万画素の性能を完全に引き出すには高性能のレンズが必要になるだろう。 ところがである。これも解釈の仕方であって、プロの、とくにアサインメントとなれば、どのような撮影条件下であったとしても、被写体を確実にシャープに捉えねばならないから、最新高性能レンズの使用は絶対的な要件となる。ところが街で撮影するようなスナップに関しては、とくに高性能のレンズを使う必然性を感じることは少ない。
ライカに限らず、フィルムカメラ時代からのレンズシステムをそのまま応用するデジタルカメラシステムのレンズを資産として捉えている人も少なからずいることだろう。個人的な意見を言わせてもらえば、過去発売された撮影用レンズにおいて、まったく“使い物にならない”ものは少ないと断言してよいと考えている。 ようはレンズの収差や欠点をマイナスのものではなく、ひとつの個性ととらえ、対処すればいいわけで、レンズのクセを掴んでおけば、被写体に応じて必ずや役に立つチャンスが到来するのではないかと思う。だからよほどのことがないかぎり、レンズは処分しないほうがいいと思うのである。今回はちょっと古めのライカレンズを選択して、ライカMがどのようなデジタル的解釈を下して写真を創り上げるのかをみてみることにした。
ライカM 絞りf8 AE AWB ISO200- |
ライカMではスーパーアンギュロン21ミリF4を使うと周辺の色カブリが顕著なので、後処理は欠かせない。このレンズは古い設計ではあるが、コントラストが高く、非常に鮮鋭な描写をするのが特徴。周辺域の像の形成もまずまずで、歪曲収差もさほど気にならない。周辺の色カブりは皆無ではなく、作例のように画面の両端が少しシアンがかるけれどスナップなどではそれほど気にならないと思う。この程度なら補正も容易だ。ただ、周辺光量の落ち込みはレトロフォーカスなのに大きめだ。
ライカMではライブビューやEVF2を使えば正確なフレーミングもできる。初期のタイプは最短撮影距離が0.4メートルと短かく希少な扱いである。
ライカM 絞りf8 AE AWB ISO400- |
まあ、通常は何ら問題にはならない描写であり、特別に際立ってシャープであるということもない。それでも階調の再現性が優れていること、光線状態や絞り値の選択によっては、かなりソリッドな描写をする。開放絞り近辺の画質とは異なるので、2面性があるということか。
そして本レンズの一番の人気の理由はルックスの良さであろうか。どのライカにも似合うけど、ライカMとも相性がよいのだ。
ライカM 絞りf1.2 AE +0.7補正 AWB ISO800- |
私の所有する個体はライカMとの距離計との相性が悪いのか、レンズ自体のクセなのかどうかはわからないが、そのまま撮影するとかなり後ピン気味になる。したがって、ここではEVFで使ってみたけど、きちんと合焦しても、開放時の描写は非球面の効果はないのではないかというほどハロが多く、ハイライトが滲んでぼわっとした写りである。そのかわり半絞り絞ったくらいでも像が立ち上がるように良くなるこの差異には驚く。
とにかく個体差が大きいレンズのようだ。全般的な性能では球面レンズしか使用していないノクティルックスM50ミリF1のほうが優れていると思う。
ライカM 絞りf1.5 AE AWB ISO400- <モデル:平山りえ> |
したがって、描写に関しては万人の人に満足できるものではないと思う。問題は像面の平坦性の悪さではないだろうか。開放時には画面中央部はかなりシャープな描写をしてコントラストも良好だけど、少し周辺になると像は流れ、画質が急落してしまうので驚いてしまうほど。ボケ味はたしかにクセが大きく、前景や背景を軟らかく効果的にボカしたい場合には向いていない。
後に登場するズミルックス50ミリF1.4との性能差異はけっこう大きいが、クセさえ掴めば、この特性をうまく効果的に活かす道はありそうだ。
ライカM 絞りf4 AE AWB ISO400- <モデル:Ruri> |
もちろんライカMなら、マニュアルでホワイトバランスをとれば問題はないのだが、完全にカラーバランスをノーマルにしても面白くない。また、逆光には少々弱いレンズで、曇天下、画面内に空を広く入れこむフレーミングをすると、ハレっぽくなる感がある。内面反射の影響かどうかはわからない。線は太めの描写だけど、被写体や条件によって、ハマる時にはハマるレンズである。
距離計のフォーカシングに関してはほぼ問題はないが、ライブビューかEVF2の使用するほうが合焦の歩留まりは当然高くなる。
赤城耕一氏による”LEICA M”レポート第1弾はこちら>>