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写真家 赤城耕一氏が語る『LEICA M』

2013年04月15日

ライカM(Type240)を戦力に加えてから、はや3週間ほどが経過した。あらためて説明する必要もないだろう話題のライカ最新のデジタルレンジファインダーカメラである。すでに仕事でもプライベートでも活躍してもらっている。ここではそれまでのライカM9と比較して、なにがどう進化したのだろうか。機能的な面と合わせ、ファーストレビューをお届けする。

実際にライカMを手にしてみるとM9よりも重量は増しているが、さほど気にならないと思う。比較的大型のレンズを装着してもバランスはよいし、一眼レフやミラーレス機ともホールディングは異なるからまったく異なる存在感がある。基本的な使い勝手はM9とさほど変化はないので慣れた人なら取り説いらずでも使うことができるはずだ。

M9と同様に絞り優先AE搭載なので、AEでそのまま使用するユーザーは多いと思う。使用頻度の高い露出補正は前面のフォーカスボタンを押しながら背面ダイヤルを回す方式であるが、これは最良の方法とは言い難い。もっともAEとマニュアルはレバーで瞬時に切り替えることが可能なので、私は露光補正が必要と判断したら、潔くマニュアルに切り替えて撮影している。このほうが圧倒的に撮影スピードは速くなるだろう。なおAEロックはシャッターボタンの半押しで行う方式である。もともと測光範囲はスポット性が強いものだから、AE撮影に割り切って使う場合はAEロックを意識して使うほうが便利かもしれない。

LEICA M

朱色の水門の再現性がいい。コントラストの高い条件だが、階調再現性も問題なく、印象的な写真になった。

-ズマリットM35ミリF2.5 絞りf9.5 500分の1秒 ISO200 AWB-

ライカMのセンサーは35ミリフルサイズCMOSセンサーを搭載している。CMOSの採用はM型ライカ初である。画素数は約2400万。ベース感度はISO200である。拡張時の最高感度はISO6400。最低感度はISO100。カラーモードが新設され、ヴィヴィッドとスムース、モノクロでは6種のコントラストフィルターを選択でき、2種の調色も選択可能である。

画質に対する第一印象は見事であり舌を巻いた。ローパスレスということもあり、画質はたいへん鮮鋭であり、かつダイナミックレンジが広い印象をうける。微細な光のニュアンスを積み上げてゆく感じだ。レンズの性能もそのまま出てくる。M9のCCDの再現性とも違う、独自のクリアな再現性は画質的には現代的な感覚ではないか。もちろん画質や色調は好みもあるだろうから、気に入らない人は個人で好みに合わせて各種パラメーターを設定しなおすか、パソコンで調整してくださいということなのだろう。

高感度の領域はM9に比べればはるかに強くなっている。ISO3200ではノイズが目立ってくるが実用域。ISO1600程度に抑えておけば、まず不満はなかろう。ただし、ノイズに対する考え方も国産カメラと異なり、超高感度域ではRAW設定して、ノイズの扱いはご自身で納得できるようにどうぞお願いします、と言っているかのようだ。今回はエルマリートM24ミリF2.8 ASPH. 、現行のズマリットM35ミリF2.5、M4、M5現役時代に登場しているズミクロン50ミリF2の3本のオーソドックスなレンズを主に使用してみた。

LEICA M

遠景の風景も緻密に描写される。ややシャドー域が多い条件だが階調の繋がりのよさがわかる。

-ズマリットM35ミリF2.5 絞りf9.5 500分の1秒 ISO200 AWB-

フレームはLEDの照射を利用しているため、電源をオンにしないと出現しない。スリープ状態では、シャッターボタンを半押しすると出現する。フレームの色は白と赤色が選択できることも特徴のひとつ。

採光式と異なり暗い場所でもフレームは鮮明に浮かび上がり、あのM型ライカ特有の「被写体に貼り付いてみえる」という感覚も健在である。もちろんパララックスも自動補正される。なお、付属のボディキャップの取り付け位置よって、内蔵フレームの28/90、35/135、50/75ミリの表示フレームの種類を変えることができる。この方法はかなりユニークだけど、撮影前にわざわざボディキャップを使用し、レンズを選択する人は少ないだろう。

フォーカシングはライカM3時代から続く二重像合致式(上下像合致も可能)距離計を使用する。おそらく基本光学系はM2時代からのさほど大きな変更はないと思う。とてもクラシカルな方式だが、一眼レフがAFやEVF搭載のため光学ファインダー性能が劣化する方向にあるのと異なり、今なお最高の性能を確保しているところが凄い。このあたりがライカのライカたる所以といえるが、実際には大口径の超広角レンズなどを開放F値近辺で使用する場合、AF一眼レフの位相差AFに勝る場合もあるからクラシカルな方式でもまったく侮れない性能である。逆に長焦点系のレンズは精度的には弱くなる。後に説明するが、これはライカMにあるライブビュー機能、あるいはEVF2を使用すれば解決する。

LEICA M

コンクリートの質感、草むらの細かな再現性なども見事である。中判フィルムカメラ以上の再現性があるのは間違いない。

-ズマリットM35ミリF2.5 絞りf9.5 1000分の1秒 ISO400 AWB-

LEICA M

道ばたの片隅の光景。ディテール描写がよいこともライカMの特徴。黒の中の黒、白の再現性もよい。緻密な写真になった。

-ズマリットM35ミリF2.5 絞りf9.5 500分の1秒 ISO200 AWB-

LEICA M

歪曲収差の少ないM用交換レンズゆえに建築物撮影でも違和感のない描写をする。明暗差の大きい条件だけど、階調の再現性で立体感が出た。

-ズマリットM35ミリF2.5 絞りf11 500分の1秒 ISO200 AWB-

ライカMでの最大の特徴は従来の光学ファインダーと距離計のピント合わせに加えてライブビューやEVFを使用しての撮影を可能にしていること。EVFはライカX2と共通の「EVF2」を使用。EVFやライブビューの使用は旧来のライカユーザーからは賛否両論あるようだが、私は高く評価している。

なぜならば、厳密にフレーミングしたい時にはEVFやライブビューはたいへん役立つし、長焦点レンズやアダプターを使用してのライカRレンズを使うことができるからだ。クローズアップレンズや接写リングを使用すればマクロ撮影も可能にしている。もちろん撮影画像の拡大はいずれの時でも可能だから、きわめて精度の高いピント合わせが可能になる。私はいっそのこと全てのライカM交換レンズは距離計連動範囲外になっても最短撮影距離を一眼レフの交換レンズなみに短くするべきでではないかと思うのだがどうだろうか。連動範囲外ではライブビューやEVF2を使えばよいのだ。

それにしても広角系レンズを使用してのスナップショットでは従来どおりの光学ファインダーを使い、他の撮影ではライブビューやEVFを使うという使い分けができるのは、ライカ歴30年以上になる私にとってもかなり新鮮で感動的な出来事でもある。使用感覚的には一台のカメラでレンジファインダーカメラと一眼レフやミラーレス機として使い分けている感覚と同じであると言ってよい。ライブビュー、EVFではともに遅延表示があるのはやむをえないが、これも光学ファインダーと適宜に使い分ければ問題はなかろう。なおライカMでは動画撮影も可能である。

また、コマ速度は最高3コマ/秒だから、高性能の一眼レフやミラーレス機と比較対象とはならないが、撮影自体はリズミカルでたいへん心地よく使える。シャッター音が静かなこともこの理由としてあると思うが、M9とも異なる動作音である。

LEICA M

雨上がりの快晴の朝。強烈な日差しが差し込む路地裏。明暗差の強い条件である。

ハイライト部分に露出を合わせているが、シャドーが完全には潰れない。

-エルマリートM24ミリF2.8 ASPH. 絞りf13 500分の1秒 ISO400 AWB-

LEICA M

下町の洋食屋さんのご主人。蛍光灯と外光のミックスという難条件だが、うまくまとまりをみせている。

ISO1600に設定して絞りを開き、安全速度でシャッターを切った。

-ズマリットM35ミリF2.5 絞りf2.8 AE(250分の1秒) ISO1600 AWB-

LEICA M

午後の洗濯物たち。コントラストの高い条件下であるが、色再現もよく鮮鋭な描写。コントラストが高いが、干してあるタオルの階調の再現もいい。

-ズマリットM35ミリF2.5 絞りf9.5 AE(500分の1秒) ISO200 AWB-

LEICA M

低気圧の通過した翌日。雲の形が珍しかったので、思わずシャッターを切った。

シャドーは完全に潰れることなく雲の再現も省略されないのがいい。レンズは70年代のズミクロン。

-ズミクロン50ミリF2 絞りf9.5 AE(2000分の1秒) ISO400 AWB-

LEICA M

70年代ズミクロン50ミリはキシキシとしたシャープネスは望めないのだが、ボケ味もよくて、描写が美しい。

数値よりも写真再現として、評価している。

-ズミクロン50ミリF2 絞りf3.5 AE(250分の1秒) ISO200 AWB-

LEICA M

新しいデジタルカメラは最初に明暗差の大きい条件で撮影して、メーターのクセや階調をみることにしているが

デフォルトでこれだけ再現しているのは大したものだ。露出はハイライト方向を基準としている。

-ズミクロン50ミリF2 絞りf8 AE(500分の1秒) ISO200 AWB-

LEICA M

人物での肌再現では軟らかめ、絞り込むと線が立つ感じになるズミクロン50ミリ。

石やガラス、コンクリートのような無機質のものでも、質感再現がよく命を与える感じ。

-ズミクロン50ミリF2 絞りf9.5 AE(500分の1秒) ISO200 AWB-

LEICA M

絞りの選択は難しかったけど、この時の背景描写がどうなるか見たかった。

時としてボケが汚くなることがあるズミクロン50ミリだが、この撮影条件での再現性は良好。

-ズミクロン50ミリF2 絞りf4.5 2000分の1秒 ISO200 AWB-

外観での注目点は、ブライトフレームの採光窓とフレームのセレクターレバーが省略されたことである。新設された前面のフォーカスボタン、上面右のシャッターボタンの脇にある動画用のMボタンの存在が目立つ。レンズ着脱ボタンのデザインなどの細かい変更点も多い。

全体のフォルムこそM型ライカそのものだが、まったく異なる路線のカメラにみえるのが不思議である。とくにライカのシンボルマーク、赤バッジが余計に目立つのは採光窓がないこともあるが、もっともこの存在はライカM4-P以降、ユーザーの好みが分かれているようである。

背面をみてみよう。ライカMではEVFの装着が可能なので、ホットシュー下にはそのためのジャックがある。また、ライブビュー撮影も可能なので専用のボタンも新設されている。液晶モニターは3.0型。再現性はよく、鮮鋭で見やすいのはいい。

ライカMは決して万能カメラではないし、高価である。もちろん高価だからといって高性能の一眼レフやミラーレス機と比較対象にはならない。旧来のM型ライカユーザーならば新しい機能を含め、すぐにその機能を生かし切ることができるだろう。 また逆にライカビギナーも、旧来のレンジファインダーの楽しみを知ることができると同時に 手持ちのミラーレスカメラとさほど変わらない方法で撮影できることが理解できるはず。M9までは言葉は 悪いがデジタルカメラならではという機能が少なく、フィルムの代わりにセンサーを入れてみましたという路線だったから、レンジファインダーカメラに不慣れな人だと拒否反応を示す人もいたからだ。

ところがライカMでは、ライブビューやEVF装着を可能としたことで、MFではあるけれど、旧来のレンジファインダーカメラの欠点を払拭することに成功している。

なるほど、考えてみれば、M型ライカは“ミラーレス”機の元祖的な存在ともいえるからだろう。つまり、機能はレトロでもデジタルとの整合性、親和性が非常に高かったのである。このことはまったく偶然なことだけど、ライカMの強みとなっているのは間違いないだろう。

ライカの生みの親、オスカー・バルナックは、はたしてライカMをみたらどう思うか感想を聞いてみたいところだ。

次回は歴史的なレンズや、古い広角レンズはどこまでライカMに使用することができるかを報告しようと考えている。

赤城耕一氏による”LEICA M”レポート第2弾はこちら>>

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