一眼レフからレンジファインダー機に移行した人にとって、まず大きく違和感を感じるのは最短撮影距離が1m近く、全く寄れないという点でしょう。もちろん使っていくうちに慣れるもので、ある程度距離を持って被写体を見る事も身に付くものですが、テーブルの上のコーヒーカップ等、寄りたい時ももちろんあります。
ライカもその点は理解しており、かつてはM型ライカを一眼レフ化するVisoflexや近接撮影アダプターといったアイテムが存在していました。その最新の回答がこのマクロエルマー90mmとマクロアダプターです。マクロエルマー単体でも90mmとしては珍しい最短70cmの撮影が可能ですが、アダプターを使用すると50cmまでの近接撮影が可能となります。そんな最短で撮影したのがこのカット。開放F4.0とはいえ二重像でのピント合わせは気を使いますが、想像以上に合焦は難しく有りませんでした。
ライカMやビゾシステムなどでも、マクロ向けに設計されたエルマーはどれも銘レンズ揃いでしたが、このレンズもその系譜にいる1本の様です。シャープネスも十分にあり、全面で破綻を見いだせないとても優秀なレンズです。
葉脈まで解像する描写力を持ちながら、柔らかい描写はマクロレンズとしてはとても好ましいものです。前後のボケもとても美しく、安心して撮影にのぞめます。元より逆光にも強い様ですので、付属のフードを使用すれば完璧でしょう!
もちろん、通常の撮影でも十分にその実力を発揮してくれます。沈胴式のコンパクトさを生かして、撮影範囲を広げる一本として撮影鞄に忍ばせておくと、かなり活躍してくれそうです。
M9でこの画が撮れてしまうのですから、これは嬉しくなってしまいます。フレーミングも想像以上に正確で、アダプターの硬性感もしっかりとしたもの。手ぶれにはより慎重になりたい所ですが、最初に抱いていた”特殊用途”というイメージは完全に払拭されてしまいました。しかし…重ねてになりますが、ボケは本当に美しいですね。被写体を引き立たせる柔らかい描写はなんと言ってもありがたいです。
マクロアダプターを装着せずとも、90mmの焦点距離で70cmまで寄れるのは想像以上に使い勝手が良いものです。「もう少し寄りたい」に、この30cmは効きますよ。
これだけ日差しが強くても、神経質にならないこの描写は価値のあるものです。葉の立体感もしっかりと感じられ、この安定感は頼もしさすら感じさせます。
ボディとレンズの間にある、ファインダーと一体になった部分が「マクロアダプター」。通常撮影時には外していますが、近接撮影時には装着し、その前部にレンズを装着します。要は中間リングなのですが、距離計連動機構とパララックス補正を可能にしている所にライカの意地と底力が感じられます。外観を見ると、かなり「特殊」な感が有りますが、使ってみると手放せない。そんな1本であることは間違い有りません。ライカの使用範囲が確実に一回り広がる、そんなレンズに仕上がっています。
Photo by MAP CAMERA Staff