『Leica (ライカ) S3』。ライカがプロフェッショナルの現場に対応すべく展開している中判デジタル一眼レフシステムの最上位機種です。一度Kasyapa for Leicaにて掲載をいたしましたが、今回は第二弾として「S」シリーズの他のレンズ3本を組み合わせたフォトプレビューをご紹介させていただきます。ミドルフォーマットが写し出す「S」シリーズの素晴らしい描写をぜひご覧ください。
手花水を真上から撮影。絞りは開放、ピントは中央の花の前面で、平面的に撮ったにも関わらず地面から「生えてくる」ような生々しい立体感。花の発色の瑞々しさも素晴らしいの一言です。
スーパーエルマー S24mm F3.5 ASPH.
まず1本目は『スーパーエルマー S24mm F3.5 ASPH.』は35mm判換算約19mm相当の画角を得られる超広角レンズで、10群12枚の構成。超広角でありながら、歪曲収差をきわめて良好に補正しています。真っ白な壁に斜めに切れ込む影のバランスが絶妙で全体的に撮り入れました。歪みの無い直線、歪曲収差の補正がとても優れていることが分かります。
都市部ならでは光と影のコラボレーション。毎分毎秒で変わる都市の景色は飽きる暇もありません。筆者が広角レンズに求める解像水準をはるかに上回る画面奥のビル。看板文字は当たり前のように、ビルの細かいディテールまでしっかり解像できています。
歴史を感じさせる扉。こちらもぜひ拡大して当レンズの解像をご覧ください。ざらりとした木目の質感が見事に描写されています。
おとぎ話に出てきそうな小屋がある森の中での一枚。三脚を使用して撮影しましたが、ミドルフォーマットらしい圧巻の画を見せてくれました。『LEICA S3』には手振れ補正がないため、シャッタースピードには十分余裕を持たせながら撮影しましたが、今回使った3本の内もっとも使いやすいのは当レンズでした。パッと撮って出てくる解像の良さ、超広角レンズとしてとても優れた1本だと思います。
エルマリート S45mm F2.8 ASPH. CS
次にご紹介するのは35mm判換算約36mm相当の画角を得られる準広角レンズ『エルマリート S45mm F2.8 ASPH. CS』。9群12枚の構成で、その内6枚に特殊レンズを使用している贅沢な仕様のレンズです。
35mくらいの画角だと私たちの視野にも近く、直感的なスナップに向いています。とっさに撮影したカットですがAFも正確に捉えてくれました。
室内だったため開放絞りで撮影したのですが、拡大して見ると刺繍模様が鮮明に像されており、ライカSシステムの凄みを感じさせてくれます。
解像しつつもナチュラルな柔らかさが存在するのがライカのレンズの素晴らしいところ。この「S」シリーズにおいてもそのライカレンズらしさがしっかりと感じられます。今回は他の2本の個性がとても強く、あまり使用頻度が上がらなかったレンズですが一番使いやすく画質も引けを取りません。最初の1本としておすすめしたいレンズです。
アポエルマー S180mm F3.5 CS
現行のライカSシステムの中で、最も望遠なのが『アポエルマー S180mm F3.5』。35mm判換算で約144mm相当の焦点距離と、開放F値が3.5とミドルフォーマットの望遠レンズとしては明るいレンズです。手振れを防ぐためには焦点距離以上のシャッタースピードでの撮影が基本ですが、スナップやフィールド撮影においてはこのレンズはさらに早めに切るように心がけることが必要になります。実は初日に1/400秒や1/750秒くらいあれば大丈夫だろうと臨んだのですが、撮影画像をPCで確認してみると散々な結果であることが判明。そのため二日目の撮影では1/2000秒をベースに撮影を行いましたが、これにより手振れのない画の凄みを感じることが出来ました。なかなか気軽に使用できるレンズはありませんが、その描写力は圧巻の一言です。
まるでモデルのようなポーズでこちらを見つめるフラミンゴ。佇み具合があまりに画になっていたため夢中でシャッターを切りました。口元についた水滴の立体感、目元の皺の解像感。写真ながらビシビシと伝わってくるフラミンゴの目力といい、しっかりと写ったこのレンズの真価に凄まじいものを感じた1枚です。
秋の木々で彩られた水面の美しさと鴨が画になった1枚。シャッタースピードを高速にしていたおかげで水面の波紋が美しく残りました。少し薄暗い状況下だったためISO感度が高くなりましたが、鴨の羽毛が潰れることなく描写されていることに驚きです。ISO感度耐性を信じ、ブレを抑えることを第一に考えたのが功を奏した結果となりました。
グラスの冷たい触感が伝わるように少しホワイトバランスを青めに調整しました。なんとも甘美な、ガラスの艶やかさが伝わる写りです。
本来は避けるべきハレーションも、ここまで美しく現れてはアート表現の一つと言っても良いのではないでしょうか。被写体のバラの輪郭線や葉脈までくっきりと解像されていて文句の付け所がありません。全く雑音を感じさせないボケの美しさにもうっとりします。
夕陽に照らされる客船を中望遠らしくクローズアップしてみました。陰になっていくトーンが自然で、細部に至るまで滲みのないシャープな解像です。
豊満なグレートーンが画面いっぱいを埋め尽し、ミドルフォーマットが持つ情報量の多さがわかる1枚。夕陽を受けシルエットになった歩行者と、長く伸びる影の「黒」の質が違うことがわかります。
「S」だけの世界
ライカSシステムを触るのは今回が初めてだったのですが、丸みを帯びた大柄なボディは想像以上に使いやすく、人間工学に基づいて設計されたドイツプロダクトの素晴らしさを『Leica (ライカ) S3』から感じました。特に背面モニターのシンプルな四つのボタン操作は、一度感覚を掴んでしまうとスイスイ操作できてしまう優れもの。これはライカ製品全般に言えることでもありますが、シンプルな操作系が撮影に集中させてくれるのです。実際使用してみるとスタジオ撮影向けという感じは受けますが、シャッタースピードを稼ぎながら撮影すればスナップも楽しめるカメラであるということを実証できたのはないかと思います。そしてミドルフォーマットの凄みを感じると共に「S」レンズの描写力の高さ実感することが出来ました。文章から気持ちが漏れていますが、特に『アポエルマー S180mm F3.5』の凄みに惚れ惚れしてしまいました。様々な中判デジタルカメラはありますが、ライカの描写を味わえるのはこの「S」シリーズのみ。一つのライカの頂。もしこの世界に飛び込むことができるなら是非体感していただきたい世界です。
Photo by MAP CAMERA Staff