ドイツ・ライカ本社によるオーバーホールの現場レポート Part.1
2021年02月20日
LEICA Boutique MapCamera Shinjukuは2月20日をもちまして、8周年を迎えます。
今回は8周年記念イベントとして、ライカM3をはじめとする往年のフィルムのM型ライカを、ドイツ・ライカ本社でオーバーホールを行いました。その作業風景と、インタビューをご紹介いたします。
Part.1:写真とともに作業風景。
Part.2:担当した技術者のインタビュー
Part.3:オーバーホール品のBefore・After
まずオーバーホールをしてもらった場所はドイツ ウェッツラーにある、ライツパーク内にある作業場です。
修理を担当するセクションと聞いていたので、もっと作業場のようなイメージを持っていたのですが、想像以上に広く明るい空間に驚きました。そして清潔感が溢れています。
作業スペースの雰囲気も日本とは違う空間の使い方のような気がします。そして一人一人の空間が広いのです。これなら集中力も上がりそうです。
こちらの本社にあるカスタマーケアではドイツや日本だけでなく、世界中から送られてくるライカカメラ製品のメンテンナンスをしているとのこと。
修理する規模もインターナショナル。さすがはライカです。
初めはライカM2-Rのオーバーホール風景から
今回修理を担当されたJens Bettinger氏をご紹介いたします。
Jens氏は精密機械工学を3年間学び、力学と光学技術者の学位を取得。2012年からライカカメラAG社のカスタマーケアに勤務。フィルムとデジタルM型のライカの修理を担当し、世界各国のカスタマーケアの技術トレーナーも務めるほどの実力者です。
一人の技術者がフィルム機とデジタル機を担当されるというのは驚きです。
オーバーホールの手順としては下記の通り
①コンディションチェック(見積りが出るのはこのタイミング)
②分解
③組立・調整(この工程で部品を一点一点くみ上げながら、ギアの洗浄・グリスアップ、部品交換、光学系の清掃、必要な調整を行います)
④最終点検
いくつもの専用工具を用いながら慎重にネジを外しトップカバーを外していきます。
道具は機種毎に専用工具があり、ライカM3では50種類以上の専用工具を使い分けるそうです。
なかなか見ることができない内部機構が明らかになります。
こちらはシャッターなどの重要な機構が詰まっているメインボディを取り外しているところ。
ピント合わせの要とも言えるレンジファインダーの取り外し。ボディの底側にある隙間からドライバーを差し込みます。
こちらはシンクロソケットを取り外すシーン。完全機械式カメラだと、内部にこういった配線がないと思いがちですが、シンクロ関連の配線があります。
メインボディの分解。随分とすっきりしました。
シャッター幕に劣化があったため交換作業をします。
銀色の台は、幕を交換する際に、幕を軸となるローラーへ接着する際に使用する専用品です。
こちらが分解されたライカM2-R。なかなかお目にかかれない光景です。
分解されたパーツは必要に応じて清掃・グリスアップをし再利用され、再利用が難しい部品のみ交換されます。
こちらのライカM2-Rでは、シャッター幕、シャッターブレーキ機構、アイピースレンズ、裏蓋プロテクターが交換されました。
こちらは作業机。いくつもの工具が並んでいます。奥に見えるバーナーは固着したパーツを緩める際に使います。
技術者はフィルムもデジタルも同じですが、共通している工具はほぼないそうです。
続いてはライカM6のオーバーホール風景をご覧いただきます。
担当されたのはSiegbert Merz氏
精密機械工学を学び、2000年からライカカメラAG社のカスタマーケアに勤務。フィルムのM型ライカの修理を担当し、この道20年の熟練の技術者です。
オーバーホールには革を剥がす工程がつきもの。この革は劣化具合によって新しいものに交換されますが、基本的には交換になると思っておいた方が良さそうです。
オリジナルの革ではなくなってしまいますが、気分を一新し、リスタートしてみてはいかがでしょうか。
M型にとって最も重要な要素のひとつ、レンジファインダーユニットの取り外しです。
ライカM6は露出インジケーターがファインダー内にあるため配線がびっしりと繋がっており、慎重な作業が要求されることは想像に難くありません。
メインボディの取り外し。歯車や基板などが露出し、精密機器であることを再認識させられます。
フィルムカウンターの辺りをよく見ると、この向きでカウンターの円盤を置くようにとガイドが刻まれている親切設計です。
メインボディの取り外し。ライカM6は電池を用いた露出計を内蔵していますが、基板がボディ正面まで続いています。
残念ながらライカM6TTLの基板は既に部品が払底しており、交換が必要な修理はできないそうです。
古いカメラの電子部品はそのまま手を触れないイメージがありましたが、しっかりと作業をしていて感動しました。
ハンダゴテとルーペを使いながら細心の注意を払って作業していきます。
そして分解されたライカM6の姿。目に自信のある方はライカM2-Rとの違いを探してみてはいかがでしょう。
このライカM6では、劣化していた測光センサー、ファインダーブロック、遮光関連部品、外装革が交換されました。
作業机。モニターにはM6の分解手順書が映し出されています。右上のウル・ライカででしょうか。ニクい演出です。
ここからは調整作業。
何かのレンズヘッドのような物が見えています。こちらは何のための器具でしょう。
正解は距離系調整のテスター。
マスターレンズと一体化しており、カメラをマウントさせ前方の線を見ながら調整をします。
なんとなく想像はしていましたが、目視で調整をしていきます。見やすい、見にくいといった主観的な比重が大きい部分だけに、人の目で調整しているというのは安心感があります。
ブルータワーとも呼ばれる露出計のテスター。計器がたくさん並んでいます。
こちらでもファインダー内の表示を見ながら作業を行っています。右側に並んでいるフィルムはDXコード読み取り用に使用されます。
続いてはこちら。左に並ぶ数字を見るとピンとくるでしょうか。
そう、シャッタースピードのテスターです。こちらの計器にはLeitzロゴがついています。よく見ると昔のベローズや三脚に使われていた様なハンマートーン仕上げで贅沢な仕様です。
作業は画竜点睛。最後にライカラベル(通称ライカバッヂ)を取り付けます。
こうしてオーバーホールを終えたライカ製品達はオーナーの待つ国々へ旅立って行くのです。
いったい何年振りの里帰りでしょうか。一台一台のライカに様々なストーリーがあるのでしょう。ライカを手にした際にはそういった歴史にも思いを馳せるのもロマンがあります。
最後に今回登場した各種調整用のテスターをご紹介いたします。
こちらが距離計調整用のスタンド。よく見るとライカM3,M6,M7,M8などの文字があります。
なんとライカM3~M10まで対応しているということです。(メインで使用されるのはライカM9まで)
実際のフィルム面に入る像を確認するため、点検用のスクリーンを装着し、ピントと距離計を調整していきます。目視での調整は熟練した技術の賜物です。
右からシンクロ同調、シャッタースピード、露出計調整テスターです。
なんとシャッタースピード用テスターはバルナック型にも対応しているとのこと!最新装置もあるそうですが、必要に応じこれらのテスターを使い調整しているそうです。
さて、いかがでしたでしょうか。
なかなか見ることができないオーバーホール、しかもドイツ・ライカ本社の作業を見て改めてライカ製品に対する信頼が増しました。発売から60年以上が経ったカメラでもメンテナンスができるというのは、使う立場としても、販売する立場としても、とてもありがたいことです。
今回のオーバーホールに携わっていただいたライカ本社の皆さま、本当にありがとうございました。
今回ご紹介したライカカメラAGにてオーバーホールされたカメラは2年間のメーカー修理保証をお付けして販売いたします。(保証書の日付より2年間有効)
これからもライカという大切なパートナー選びの一助となれますようスタッフ一同精進してまいります。
どうぞLEICA Boutique MapCamera Shinjukuをよろしくお願い申し上げます。