Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F3.5 VM Type I / Type II
2024年08月23日
今年2月に開催されたカメラの祭典「CP+2024」で参考展示され、脚光を浴びていたアポランター銘を冠した標準単焦点レンズ『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F3.5 VM Type I / Type II』をご紹介いたします。今回は「Type I / Type II」共に2種類の外装バリエーションを用意。「Type I ブラックペイント/クローム」「Type II シルバー」は真鍮素材を用いており重厚感のある仕上げ。「Type I マットブラックペイント」「Type II ブラックペイント」は一部にアルミ素材を採用することで軽量化が図られたモデルです。
どちらのタイプでも高い精度で加工調整された総金属製ヘリコイドユニットと適度なトルク感でスムースなフォーカシングを実現するべく高品質なピントグリースを採用。手にする度に道具として使用する歓びを味わえる仕上がりとなっています。そんな本製品の描写の魅力を『Leica M11-P』『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F3.5 VM Type II』の組み合わせで撮影してまいりましたのでPhoto Previewをご覧ください。
青空と白い雲、黄色いお花畑にカラフルなパラソルがとても印象的な写真。絞りをF11まで絞りこむことで周辺部分までカッチリとした解像感あふれる描写性能をみせてくれました。色のトーンも実に自然で派手過ぎず、ナチュラル過ぎずまさに理想的な発色です。
ライブビューもしくは外付けのEVFでの撮影を前提として「Type I」では最短撮影距離45cm、「Type II」ではなんと35cmまで寄ることが可能です。レンジファインダー用レンズとしては然ることながら、50mmの焦点距離のレンズで「Type II」の35cmまで被写体に寄れるのはとても際立ったスペックです。それでいて解像力も申し分なく、花びらの葉脈までしっかり写っていて、ボケもキレイ。下から見上げるように撮ったので右下のほうは周辺減光の影響が大きく出ていますが、実際には開放絞りでもそこまで目立つ減光があるわけではありません。距離計連動範囲の分岐点は、ピント操作中にクリック感で認識できる機構を搭載しているので、レンジファインダーを覗きながら撮影しているときも誤って寄ってしまうということもない親切設計です。
開放絞りから際立つシャープネスが魅力的なレンズではありますが、今回はF4に絞り撮影。木彫りの仏像のディティールをしっかりと捉えつつ、前ボケ 後ボケともに自然で癖のないボケ味となっていることに驚きます。
本レンズはExif情報にF値が記録されないので、開放以外で撮影した場合は撮影後にメモを残すようにしています。写真をみると思わず「絞り込んで撮影した1枚なのではないか」と思わせるほどの解像感ですが、そのメモを信じる限りこのカットは開放絞りでの撮影。このレンズがアポランターであるということを改めて実感させられた一枚となりました。
撮影をしていると、真っ赤な日産GT-Rが目にとまりました。「赤い被写体」というのはとても撮影が難しく、レンズやセンサーの特性によってはノッペリとしてしまい立体感がでなかったり色潰れしてしまうことも。本レンズとボディの組み合わせはさすがと言わんばかりの立体感、とヘッドライトの奥行きも感じさせる理想的な描写となりました。
奥のほうの座席にピントを合わせたときの立体感がどれだけ出るのかを見てみました。被写体に選んだのは奥から二列目左から二番目の椅子です。伝統的な標準レンズに用いられていたF3.5を採用した本レンズの程よい被写界深度とボケ感には「これで良いし、これが良い」とさせる確かな写りです。
モノクロでの撮影。被写界深度を考慮せずに言えば、ピント面においては絞る必要性を感じさせません。画面奥の建物の線や影の描写、日よけテントの色の描き分け、グレースケールの豊かな階調がこの一枚に詰まっています。
ふたたび最短撮影距離でのカット。もう素直な感想でしかありませんが、とにかく綺麗です。ガラスの光沢感もピント面の立体感もお見事。室内からガラス一枚隔てた向こうの玉ボケなので、撮り方次第ではまた違う形状になるはずです。撮る前はもっと歪な形になってしまっても仕方ないとも思っていたので良い意味で予想を裏切ってくれました。
日中であれば絞りF5.6~F8で周辺減光もなく、17時くらいの日が落ち始めてきた時間帯でもF11まで絞ると周辺まですっきり描写してくれる印象です。入道雲の裏で輝く太陽、そんなドラマチックなワンシーンを撮影いたしました。
雲の輪郭、湖面に淡く反射した光など撮影者がそのときに感じたものをしっかりと写してくれる。アポランターの名を冠するにふさわしい信頼の置けるレンズでした。
アポランターの一つの理想形
世界最古の光学メーカーとして知られるフォクトレンダーですが、長い歴史の中で特に高性能なレンズのみ名乗ることが許された「APO-LANTHAR(アポランター)」。その名に恥じることのない開放から優れた描写性能を誇る銘玉が今ここに誕生いたしました。ぜひボディとの相性や、好みに合わせたデザインや材質、カラーリングでお選びください。一度使ったら手放すことのできない素晴らしいレンズです。
Photo by MAP CAMERA Staff