本日はフォクトレンダーから発売される 『Voigtlander APO-ULTRON 90mm F2 VM』をご紹介いたします。新設計の光学系で7群8枚のうちなんと6枚に異常部分分散ガラスを使用しています。さらに軸上色収差を限りなくゼロに近づけるアポクロマート設計と空気レンズを応用したゾナータイプのレンズ構成により、90mmの焦点距離を持ちながら全長63.3mmのコンパクトさを実現。光学式レンジファインダー使用時の撮影フレームのケラレも少ない仕様になっています。実際手にもってみると標準レンズとほぼ同サイズで、ファインダーを覗いたときのケラレは全く気になりません。金属製の専用フードは収納時にはリバース装着が可能、質量も340gと軽量で携行時もかさばらず便利です。1960年代のレンズを想起させるデザインでカラーはブラック/シルバーの二色展開になっています。「APO-ULTRON」銘としては富士フイルムのXマウント用レンズ「MACRO APO-ULTRON 35mm F2 X-mount」やニコンZマウント/APS-C用レンズの「MACRO APO-ULTRON D35mm F2」に続く登場となります。どちらも素晴らしいレンズだったので期待に胸高ります。今回は『Leica M11-P』『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F3.5 VM Type II』の組み合わせで撮影してまいりました。ぜひご覧ください。
アポクロマート設計と聞くと、何より先に解像力が必要になる被写体を探してから「すごく写る!」と感動するまでが導入部分みたいなところがあります。というわけで鋭角な高層ビルを絞って撮影しました。改めて言う必要もありませんが、細い線の一本一本までしっかり写します。開放絞りの周辺減光もF2.8、F4とステップごとに劇的に改善されていくのも共通認識的なところがあります。このカットではF4に絞りましたが気になるような減光はほぼありません。ではここからまた改めてスタートです。
中望遠なので都市のワンシーンを切り取るようなスナップを撮影してみました。白い日よけの山なりになっている輪郭の浮き立つような写りにとても驚いた一枚です。ガラス、布、木箱、それぞれの質感がよく表現できていて素晴らしいです。
スカーフのふんわりとした柔らかな質感を見事なほど忠実に捉えてくれました。妙な言い方にはなりますが、シャープに写りすぎては逆に違和感が出てしまいます。そういう被写体も正確に表現してくれました。
金属の冷たい質感と鮮やかな赤の発色。メッシュ部分など椅子の細部までシャープに描いてくれました。被写体の質感に対する撮影者とレンズの見解にギャップがないというのは非常に魅力的です。ついつい、あらゆるものにシャッターを切ってしまいたくなります。
白いエッフェル塔のミニチュアが非常にシャープで、細部まで見事に捉えてくれました。ガラス瓶を通っていく光の美しい反射も非常に美しく、光の当たった被写体それぞれの立体感も素晴らしいです。黒と白のコントラスト、グレーゾーンもしっかり描き分けてくれるのでモノクロで撮るのもオススメです。
最短撮影距離は0.9m。ピント面が非常に浅くなったため少しだけ絞って撮影しました。焦点距離が長いため、最短撮影距離にこだわらずともボケを活かした撮影が可能です。立体感があって色味も非常にクリアです。
窓辺に射し込む光が生み出す柔らかく穏やかな雰囲気に惹かれた一枚。中望遠なので隣室から撮影しましたがその境にある壁がシルエットになり、程よいボケ感で没入感を与えてくれます。キリっと締まるピント面との調和が心地のいい写りです。個人的にはRAW現像でハイライト・シャドウを調整してもいいかなと思いましたが今回はあえて調整せずそのままにしておきました。非常に感性が豊かなレンズだと思います。
たとえば今自分が見ている視界を撮りたいと思ったら、感覚的には5歩から10歩ほど後ろに引いて撮るようになりました。訪問した人にとっさにピントを合わせたのですが素晴らしい立体感です。雲に陽が隠れていて、光が弱かったというのも要因の一つではありますが、年代を重ねた建築物の落ち着いた色合いも忠実に再現してくれています。ついつい構図を切り詰めてしまいたくなってしまうというか切り詰めてしまいがちな画角ですが、少し余白を持たせるくらいのほうがレンズの旨みを引き出すことが出来るかもしれません。本当にただの余談なのですが、同ポジションから改めて戸にピントを合わせた画も撮ってみたのですが、それもまた雰囲気があって良いのです。この距離感、オススメです。
ちょっと異色な一枚をご紹介いたします。背景の空はどんより暗いのに、撮影者の背中側は晴れていて日差しが遠くの木にまで届いています。そのおかげで背景の空に埋もれずに立体感のある画が撮れているのです。天候の妙、によるものではありますがキチンとその結果を反映させてくれるという点で信頼できるレンズだと思いました。ちなみにこの後に雨となりひと時、雹まで降りました。
雨が止み、雲が流れてゆきました。雨が降って空気が澄んだ影響もありますが非常にクリアな画を見せてくれました。ちなみに一つ上のF8のカットはJPEG撮って出し。このF11のカットはRAWデータをストレート現像しています。F11の光芒を見てみましたが沈みかけだったからなのかユニークな形状になりました。
改めてF8に絞って全景をパンフォーカスしてみましたが湖上の鴨の群れから奥の山脈のシルエットまでしっかり写っています。湖の奥のほうでは気温差によるものなのか濃霧が発生していたのですが、その様子も写してくれていました。
大口径かつコンパクトな中望遠レンズ
コーティングのカラーも美しく、吸い込まれるような大きな瞳にまず見惚れました。焦点距離の感覚に慣れるまでもう少し時間は欲しいところでしたが『Voigtlander APO-ULTRON 90mm F2 VM』でのスナップはとても楽しい時間でした。まず明るい時間帯からスタートしてコントラストと解像力の高さ、質感描写の優秀さに惹かれ、時間帯によって変わっていく光の質を的確・繊細に捉える品のある写りに感動しました。シャープな線に柔らかい光、両立させることが難しそうな表現をこなすことのできる非常に優れたレンズです。コンパクトでファインダーのケラレも少ないので、レンジファインダーで中望遠を撮ってみたかったという方にぜひ使ってみていただきたいレンズです。すでに中望遠レンズを持っているという方にもぜひ一度味わってみていただたい描写力。『Voigtlander APO-ULTRON 90mm F2 VM』、オススメの一本です。
Photo by MAP CAMERA Staff