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「夏」撮りもどそう FILM編

創業祭特別企画 「夏」撮りもどそう FILM編。

少し寒いくらいエアコンの効いた空気、いつもと変わらぬホットコーヒーの匂い。
およそ季節など感じさせないこの部屋で夏の判断材料となるのは、微かにくぐもって聞こえるセミの鳴き声くらいでしょうか。
数年分のフィルムを衣装ケースから引っ張り出して、窓ガラス越しの空に透かします。

懐かしい写真、この日はたしか、

ふと、冷えたリビングを後にし、生ぬるい廊下に足を向け、サンダルをぱぱっとつっかけて、玄関の戸を一気に開け放てば。

心配などする必要はなく、今年もちゃんと夏は訪れています。
じわりとかいた汗、はっきり聞こえるセミの声、暖かく湿った空気の匂い。

今日は反転したあの日の風景で、夏を思い返してみます。

 


Mamiya C220 Professional + sekor 55mm F4.5 / FUJIFILM PROVIA 100F 120

二眼レフカメラのファインダースクリーンに映し出される情景は、デジタルカメラの液晶画面とは似て非なるもの。
デジタルカメラが「ライブ ビュー」、いわゆる実況中継なら、二眼レフファインダーのちょっとざらついた映像は、古い映画館のスクリーンのよう。
ひとり貸し切りのロードショーを堪能しながら、静かにシャッターを切り、お気に入りのシーンをフィルムに焼き付ける…
この夏は、そんな贅沢なひと時こそが私たちの心を癒してくれるのかもしれません…

 


CONTAX T2

ちょうど夏休みの時期に、肌を刺すような日差しから逃れようと入った公園で、
突然目の前から少年が水鉄砲を片手に駆けてきました。
すれ違う瞬間にカメラを構えずノーファインダーで切り撮った1枚です。
小さい頃は目の前のもの、自分の興味のあるものしか目に入らず、一心不乱に駆け抜けていたものです。
今も大して変わりませんが…。

 


CONTAX S2 + CONTAX Planar T*85mm F1.4 MMJ / Kodak Ektachrome E100 135

好奇心旺盛なアビシニアコロブスの子どもはシャッター音に反応してこちらを振り返ります。

私のフィルムカメラに連写機能はなく、フィルムの装填から露出、
巻き戻しまで自分で行う必要があるため、この1枚を撮るのにも時間と手間がかかります。

汗が首筋を伝うなか、自然と振り返ってくれるまで待つこと数分…この時ばかりは隣にいた普段は静かな弟も、「今!」と声をあげていました。
1枚にかけた時間と手間が、ファインダーの中の景色をフィルムだけでなく私の脳裏に焼き付けます。

シャッターを切った瞬間のこと、ファインダーの中の光、気温や湿度、音、匂い、
そのとき考えていたことや抱えていた悩みまでもフィルムを覗くと思い出す。
これが私の、フィルムを使う理由です。

 


Nikon F4+Nikon Ai AF Zoom Nikkor 35-70mm F2.8D/FUJIFILM SUPERIA X-TRA400

カメラ仲間と江ノ島の海で撮影した時の写真です。
OLYMPUSのフィルムカメラを持っていた二人を撮らせてもらいました。
みんなで浴衣を着て、撮ったり撮られたりの日でした。

この日の写真を見るたびに、「またこういう写真を撮りたい!」という気持ちになります。

 


Nikon FM10 + Nikkor-S Auto 35mm F2.8 / PERUTZ PRIMERA 100 135

北海道へ旅行した際、車窓からひまわり畑を見つけた時の一枚です。
大学在学中にフィルムカメラに触れ、自分で露出を決めて撮影する楽しみを覚えました。
36枚撮りのフィルムが旅行の記憶を補完しているようで大切にシャッターを切りました。
この写真を見返すと、北海道のカラッと暑い夏にひまわりが燦燦と輝く情景が今でも鮮明によみがえります。

 


Canon EOS 5 + SIGMA Art 30mm F1.4 DC HSM / FUJIFILM  FUJICOLOR 100 135

Canon EOS 5は父から譲り受けました。
とは言っても当時は、一緒に貰ったレンズの方ばかり最新のデジタルカメラにつけて使っていたのですが。

数年後一人暮らしを始め、今ではすっかりレンズとボディの時代が逆転。
1992年発売のこのカメラに、惚れ込む写りの現行レンズを付けています。

たまに帰省をすると、父がふた昔ほど前に撮影した写真を見せてくれます。
面白いことに、私が数年前に撮った写真と、幾日も違わぬような夏の景色でした。

今も昔も、この先もきっと、変わらぬ色をした夏が訪れています。

 


HASSELBLAD C 80mmF2.8 T* + 500C/M + A12 / FUJIFILM VELVIA 50 120 期限切れ(2005年)

数年前にグループで旅行に行った際に撮影した写真。
おひるねハウスでも有名な愛知県、佐久島。別名アートの島。その対岸にある真っ白な装いの「イーストハウス」もオススメスポット。
浜辺で遊び服がびしゃびしゃになりましたが真夏の日差しにすぐ乾いてしまうほど。そんな淡い記憶。

ちなみに期限が切れ12年経ったフィルムを使用したため面白い色味になっています。

 


MINOLTA TC-1 / Kodak High Definition 400 135 期限切れ

いつもは広すぎてうまく扱えない28mm。
海岸のような広い空間に一歩足を踏み入れると、不思議なくらいにこの広さが恋しくなりました。

日が暮れて暗くなってしまう前に、と枚数も気にせずシャッターを切りました。
しっかり色の乗るTC-1に期限切れフィルムという組み合わせ。普段とは一味違うTC-1の色合いです。

 


Canon FTb + FD 50mm F1.8 / Kodak ULTRAMAX 400 135

国内を旅していたときのものです。
とても暑い日の事でした。

夕方になりようやく気温も和らぎ、心地のよい風が吹いてきた時に撮った一枚です。
その時のゆるりとした気分が上手く乗っているかなと思います。

夏の夕陽は真っ赤に沈むイメージがありますが、時にこのように少し凪いだ夕焼けを見せてくれます。

すっかり冷めきったコーヒーを啜り、ヒグラシの声を聴くためにガラス戸を少し開け、考えること。

私たちは写真を見ずとも、夏の暑いこと、その空の青いことは知っています。
しかし、こうしてフィルムを透かした途端に蘇るものがあります。

ファインダースクリーンに映し出される情景。
肌を刺すような日差し。
気温や湿度、音、匂い。
懐かしい被写体。
旅の記憶。
使ったカメラのこと。
通したフィルムのこと。
眼前に広がる世界の広さ。
人差し指で押し込んだ、その一瞬の感情。

きっとこれらは、私たちの記憶の引き出しにいつまでも永く残り続ける大切な思い出です。
普段は閉じているその引き出しを開くのは、そう難しいことではありません。

そうです、数年分のフィルムを仕舞ってある、リビングの衣装ケースを開くだけ。

 


 

 

 

[ Category:Canon FUJIFILM Nikon | 掲載日時:20年08月13日 09時30分 ]

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