【極私的カメラうんちく】第33回:超音波モーター新時代
今年のPIE2007でオリンパスの超音波モーター搭載の交換レンズが発表され、またこの8月にはペンタックスから超音波モーター搭載の交換レンズが発売となり、これによって超音波モーターによるAF駆動方式が一眼レフメーカー各社からほぼ出揃った。各社呼び名は様々だが、おおむね同様の特徴を謳ったものである。
今でこそ、超音波モーターはAFレンズの理想的な駆動デバイスとして広く認知されているが、1988年に世界で初めてキヤノンが写真用レンズとして商品化した頃には使い道が全く見つからない新技術だった。その新技術にいち早く眼をつけ将来性を見極めたキヤノンの先見性には疑う余地が無いが、さらに評価すべきはEOSシステム自体が超音波モーターレンズに限らず、「レンズ内モーター」に予め完全に対応していたことにある。
少し旧い話になるが、1980年代の一眼レフAF化の時点で、キヤノン以外の全てのメーカーはボディ内モーター方式を採用した。当然のことだが、これらのメーカーは超音波モーター搭載レンズの発売前に、先ずカメラボディ側を「レンズ内モーター」に対応させなければならない。つまり超音波モーター搭載レンズの導入に先立って、まずレンズ内モーターに対応したカメラボディの開発/普及を済ませておく必要がある。実はこの事が超音波モーターレンズの少なからぬ「参入障壁」として横たわってきたことは事実である。
αシリーズはコニカミノルタ時代に超音波モーター搭載レンズ「SSM」を発売したが、その直前に発売されていた最高級AFフィルム一眼レフα-9が、超音波モーターレンズに「非対応」となってしまった。そこでコニカミノルタは、新品SSMレンズの購入者に限ってα-9の改造サービスを無料で行ったことがある。また、ニコンは超音波モーターレンズを導入する前準備として、ひとまず通常のモーターを内蔵した「AF-I」レンズを超望遠レンズのラインナップで発売し、その間に超音波モーター搭載レンズ「AF-S」レンズの開発とレンズ内モーターに対応したカメラボディの普及を急いだ経緯がある。これ以外にも、いったんボディ内モーター方式を採用したメーカーが、本格的にレンズ内モーター方式へ移行するのがいかに難しいかはここ十数年の歴史が証明しており、そこにはどうしても互換性においての例外が作られたり、あるいは二重投資が発生する。
さて、全てのレンズにAF駆動用のモーターが内蔵されてスタートしたキヤノンの「EFレンズ」だが、当初超音波モーターは一部の高級レンズにのみ搭載されていた。その主な理由は当時キヤノンが開発したUSMモジュールが、高級レンズ用の大型で高価なものしか無かったためである。
言うまでもなく、カメラ用超音波モーターの最大の特徴は、中央に光学系を内蔵するためリング状に形成されたステーターとローターであり、そのリングの直径はそのまま搭載するレンズの大きさに反映する。そのため本来であればレンズの設計に合わせたモジュールをその都度用意するのが理想的だが、量産効果による経済性を優先する場合には、予め規格化した幾つかの大きさの超音波モーターモジュールを用意するのが最も効率がよい。しかし当初は超音波モーターの小型化や経済性よりも「新技術」という「付加価値」に重点が置かれ、まずは大型高級レンズ専用のデバイスとして実用化したというわけである。実際、USMは当初大型のLレンズに多く用いられたため、「USM」の商標はしばらくの間は高級レンズの代名詞となっていた。そしてキヤノンで小型の普及レンズ用のUSMモジュールが一般化するのは1990年代のことであり、リングUSMの小型化と同時に普及型レンズ用に「マイクロUSM」が開発され、その後は小型化と低価格化にいっそうの拍車がかかっていった。
一方で、超音波モーターをとりまく環境も昨今大きく変化している。
従来から超音波モーターの大きな特長とされてきた高速、静粛性は、ボディ内モーター方式のここ十数年の改良によってその差は格段に縮まっている。またAFモードのままMF動作に移行できる「フルタイムマニュアルフォーカス機能」も近年ペンタックスがDAレンズに採用している「クイックシフト・フォーカス・システム」では、旧来の「ボディ内モーター方式」を採用したままで同等の性能を実現している。かつて超音波モーターだけが持っていた「特権」は、確実に薄れつつあることも事実なのである。
そのせいか、イマドキの超音波モーター導入のシナリオは少し様子が違う様である。先日ペンタックスから発売されたDA*レンズは、超音波モーターを内蔵しながらも同時にボディ内モーターによる駆動方式にも対応した、いわばハイブリッド方式である。これにより全ての自社製デジタル一眼レフについてAF対応を実現しており、これはAF速度よりもDA*レンズの高い光学性能を重視するユーザーにとってはとても好ましい仕様であることは言うまでも無く、また例外を極力作らないためのこれまでに無いメーカー姿勢として高く評価できるものである。
かつては茨の道を辿った超音波モーター導入のシナリオは、今や過去のものとなったのかも知れない。