国内外で多くのクリエイターから支持されているSONYの「Eマウントシステム」。近年では写真だけでなく映像制作に対するニーズの高まりを受け、新たに映像制作向けの商品群「Cinema Line」(シネマライン)を発表したことも記憶に新しい。今回のインタビューでは、同社のシネマカメラ「VENICE」の開発を通じて得られた知見を元に作られ、いま多くのクリエイターから支持されている独自のルック「S-Cinetone」について、特徴や魅力など、SONYの担当者に詳しくお話を伺った。
S-Cinetoneについて
――開発の背景について教えてください。
志水 氏:
ハイエンドCineAltaカメラ「VENICE」の導入に向けてフィルムの色を徹底的にベンチマークして、シネマ業界のプロフェッショナルに受け入れられる画作りを追求しました。その代表的なルックとしてs709をVENICEとともに開発しました。シネマの世界では、撮影後のポストプロダクションの工程においてカラーコレクション(以降カラコレと表記)やカラーグレーディング(以降カラグレと表記)をして作品を仕上げていきますが、その色再現の起点となるルックになります。
一方で、プロジェクトによっては時間やコストの観点からカラコレやカラグレを行うことが難しいケースも存在します。そういったプロジェクトにおいても、VENICEで好評いただいているルックのエッセンスを活かしたコンテンツ制作をたくさんのクリエイターの方々に行っていただきたく、VENICEの画作りのエッセンスを踏襲しつつ、カラグレをしなくてもノイズとのバランスが良く、使いやすい画作りのルックとしてS-Cinetoneを開発・導入しました。
S-Cinetoneは、Video(Rec.709)よりもより自然に、ハイライトを抑えた肌色の色再現が特長です。
映像業界ではスキントーンやフィルムのようなルックがとても重要視されますがVENICEに搭載されているs709はスキントーンの立体感や、本来であればシネマトーンを意識しすぎてソフトになりがちな描写に対しても「しっかりとした解像感がある」とたくさんの方々に好評いただいています。
このルックのエッセンスを活かしたS-Cinetoneが身近に使えるというのはとてもすごいことだと思いますので、S-Cinetoneを使ってカッコいい作品をたくさん作っていただければ嬉しいですね。
S-Cinetoneの特徴(設計思想)について
――ハイライト・ミッドトーン・シャドウの特徴について教えてください。
志水 氏:
S-Cinetoneは従来のビデオと比較して、以下のような全体的な特長をもっています。
ハイライト:コントラストが低いため、ハイライトの見た目は柔らかくより自然なトーンに
シャドウ:コントラストが高いため、暗めに撮影すると、より彩度が高くなりリッチな色合いに
・黒レベルとシャドウ特性
S-Cinetoneの黒レベルは1.5%のビデオレベルです。従来のビデオよりも少し低いです。 この特性があるため、黒レベルが調整され被写体の最も暗いシャドウ部分がつぶれてしまう可能性があります。しかし、黒レベルを3%などに設定することで黒が持ち上がってきますので、うまく調整していただけると良いかもしれません。
・色の再現性
人の肌を描写する際に使われる中間色の表現力が豊かで、色再現性はよりソフトで自然なトーンです。ただし、トーンカーブに特長があり、露出や輝度レベルに応じて色の再現が変化します。例えば、露出を少し暗めにすると色がより豊かに再現される傾向にあります。
・ダイナミックレンジ
S-Cinetoneのダイナミックレンジは460%です。S-Log3のダイナミックレンジ1300%と比べてしまうと低いですが、ダイナミックレンジとノイズレベルのバランスがとれた高品質な映像が撮影できます。
――Log撮影時のように推奨する露出基準はありますか?
志水 氏:
S-Cinetoneには特に推奨する露光基準はありませんが、露光や輝度レベルで色の再現が変化します。暗めに撮影すると、よりリッチな色合いの雰囲気になり、明るめに撮影すると、より軽い色合いの雰囲気になります。ホワイトカードを目安にすると、表現したい見た目に応じて78%~88%の間で露出を決めてあげると良いかもしれません。典型的なスキントーンは55%~75%の間で変化しますが、スキントーンは63%、白の露出は81%くらいで合わせるとS-Cineoneで個人的に好きな色合いになるのでオススメです。
――従来のピクチャープロファイル(Cine1、2 など)との比較・違いなどはありますか?
志水 氏:
従来のビデオとは異なり、フィルムや静止画に近い画作りになっています。ピクチャープロファイルのPP5やPP6にプリセットされているCine1、Cine2などの考え方とかけ離れている訳ではないのですが、全体のバランスや色再現など、今の時代のニーズを反映させたルックになっています。
――例えば、FX9 とFX3 のようにセンサーなどが異なるカメラ同士でも「S-Cinetone」のルックは統一されていますか?
志水 氏:
はい。共通の画作りをターゲットとして合わせこんでいます。
――『FS5 II』にも「人物描写を重視した画作り」ピクチャートーンが搭載されていますが、それとは異なりますか?
志水 氏:
『FS5 II』とは異なります。思想は同じですが、『FS5 II』のデフォルトルックよりさらに洗練されたものがS-Cinetoneとなります。
――S-Cinetoneを『FX6』のデフォルトルックに採用した理由・メリットとは何でしょう?
志水 氏:
S-CinetoneはFX9のデフォルトルックとして導入し、お客様より大変好評をいただいており『FX6』においても『FX9』同様にデフォルトルックとして採用しています。S-Cinetoneをデフォルトルックに採用していますが『FX6』においては、Cine EIモードにおけるS-Log3撮影のワークフローとカスタムモードにおけるプリセットルック(S-Cinetoneなど)をベースとした画作りのワークフローと、クリエイターのワークフローに合わせて選択できることが最適と考えました。ですので、限られた時間や予算内で映像のつくりこみを行い、ポストプロダクションの工程を最小限にし、ほぼ撮って出しの運用を行うシーンなどにおいてはリッチなコンテンツを追求することができます。
また従来のピクチャープロファイル等の機能は、カメラモデル毎にターゲットユーザーのワークフローに応じて決定しています。
――2021年12月2日に発表になったα7 IVにも「S-Cinetone」が搭載されましたね。一方でクリエイティブルックもありますが、どう違うのでしょうか?
志水 氏:
はい。α7 IVは次代の新基準をもち、高品質な写真と映像をどちらも撮影できるハイブリッドモデルとなります。冒頭にお話した通り、ルックのエッセンスを活かしたコンテンツ制作をたくさんのクリエイター、表現者の方々に行っていただきたく、α7 IVにもS-Cinetoneを搭載しました。
また一方でクリエイティブルックは、より簡単に質感や色味を思い通りの雰囲気に仕上げることができる機能です。ピクチャープロファイルもクリエイティブルックも静止画・動画撮影時共に使っていただけます。S-Cinetoneなどが選択できるピクチャープロファイルは主に動画用(ガンマと色域をベースとしたもの)、クリエイティブルックは主に静止画用(色合いや明るさ、コントラストなどの要素を組み合わせたもの)とイメージしていただければわかりやすいと思います。
あとはピクチャープロファイルは撮影後の後工程であるカラグレなどを前提としたもの、クリエイティブルックは撮って出しを前提としたものとワークフロー視点でみても違いが分かりやすくなると思います。
――「人物描写を重視」したルックと言われていますが、風景や料理などの人物以外の撮影ではどうでしょう?(おすすめのシーンなど)
志水 氏:
人の肌を描写する際に使われる中間色の表現力をアップさせ、色合いはよりソフトに、ハイライトの描写は被写体を美しく際立たせる自然なトーンとなっています。また、露出が少し暗い被写体を撮影すると、色がより豊かに再現される傾向にあるため、物撮りなども含まれるウエディングのシーンなどは重宝すると思います。
――撮って出しが重要視される、8bit 収録のカメラ(VLOGCAM など)にはLog よりも「S-Cinetone」搭載を望むユーザーも多いです。今後の搭載機種拡大の予定などについて教えてください。
志水 氏:
具体的な将来モデルの展開についてはお答えできませんが、お客様のご要望を聞きながら検討を行っていきたいと考えています。
この度は貴重なお話をお聞かせいただき誠にありがとうございました。
今後もマップカメラでは各メーカーやクリエイターの方に独自の取材を続けていきます。マップカメラ・StockShotをよろしくお願いいたします。