

開放はF3.2でありながらソフトな描写。絞るほどに中心から周辺にシャープな領域が広がる広角レンズ『木下光学研究所 KISTAR 28mm F3.2 M』が登場しました。レンズ構成は4郡6枚で、今まで発売された「KISTAR」シリーズの中では最も広角な一本になっています。今回はマウントアダプターで「Nikon Z7II」に装着して撮影を行ってきました。KISTARらしい独特な滲みの表現をぜひご覧ください。

続いて同じシーンで少し絞ったカットです。開放絞りの前カットでは画面全体が柔らかなヴェールに包まれたような描写となり、特に周辺部から中央にかけて幻想的な雰囲気を生み出します。しかし少し絞り込むと、まず中央部の滲みが消えます。その後さらに絞るにつれて段階的に周辺部の収差が改善されていく仕様です。前のカットと見比べてみると、その変化の度合いがよくわかるかと思いますが、絞りによって伝えたい表現を変えることが出来るレンズになっています。

まるで夢の中を歩いているかのような、柔らかな光と繊細な描写。舗道に降り注ぐ木漏れ日はハイライトがにじむようにふんわりとぼやけ、幻想的な空気感を生み出しています。この日は実際にはかなりの暑さに見舞われた一日でしたが、撮影者の肉眼にはもちろんこのような景色は映っていません。まさに、このレンズの開放絞りでしか描き出せない世界。現実の風景とは異なる美しさに引き込まれるようにして、シャッターを切った一枚です。

物語の一節を添えたくなるような、優しく穏やかな仕上がりになりました。室内に差し込む柔らかな自然光と、窓の外から射し込むやや強い光との対比が、このレンズならではの描写力を際立たせています。室内に広がる淡い光が、影のトーンと静かに溶け合うような表現も見事です。

柔らかな光が差し込む木造の廊下。光と影の境界を曖昧にし、木の床や柱をふんわりと包み込んでいました。このレンズでしか得られない「滲むような描写」が、静かな情緒をさらに引き立てています。

F8まで絞り込むと、画面周辺部に至るまで非常にシャープな描写が得られます。風景撮影などで画面全体を均質に描写したいシーンでは、F8以上に絞り込むのがおすすめです。四隅まで徹底的に解像させたい場合は、F11に絞ることでさらに安定感のある描写になります。

最短撮影距離は0.5m。ヘリコイド付きのマウントアダプターで撮影すれば、さらに被写体へ近寄った撮影が可能です。開放絞りの近接撮影時でもピント面をしっかり感じられるところに、高い解像力を持ちながらあえて美しい滲みを活かすという、このレンズのこだわりが伝わる一枚です。

ステンドグラス越しの光が、階段をやさしく照らし出す一枚。ステンドグラスは原型がわからなくなるほど光に包まれていますが、その「光があふれ出す」ような描写に心惹かれました。現実離れしたこの独特の描写は、見れば見るほどクセになっていく魅力があります。

ピントは、奥の壁にある掛け軸に合わせました。室内の照明が独特のにじみ方をしており、非常に味わい深い雰囲気です。奥行きのある立体的な空間を描写しながらも、ピント面との境界が曖昧に溶けていくような感じが面白いです。

絞ったほうが間違いなくシャープになりますが、この滲んだ夕日はこのレンズでしか撮れないと思って、開放絞りのカットを選びました。「KISTAR 28mm F3.2 M」で撮った最後の締めくくりがこのカットであるということが、なんだか良いと思うのです。
開放絞りでの描写が非常に柔らかいというのは間違いありませんが、それだけではありません。実際にはピント面にしっかりとした解像力が宿っており、この「柔らかさの中に芯のある描写」こそが、本レンズならではの大きな魅力だと感じています。フィルターでは再現が難しい、独特の“滲み”と“柔らかさ”を併せ持った描写は、このレンズの真骨頂とも言えるものです。木下光学研究所のKISTARシリーズを振り返ると、開放絞りにおける描写には一癖も二癖もありながら、そこには一貫した美学が通っており、その描写に魅了される方は多いはず。万人受けするレンズではないかもしれませんが、それゆえに“自分だけの一本”として深く愛される存在になるのだと思います。「このレンズでしか撮れない」と感じたならば、それはもう、他では代えのきかない一本です。ぜひその魅力を体験してみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff