世界で初めて非球面レンズを採用した民生用レンズとして、今なお語り継がれる『Leica Noctilux M50mm F1.2 ASPH.』という存在。卓越した描写性能と当時では他の追随を許さなかった明るさ、そして現代までその残存数が分からないという希少性も合わせて「伝説の銘玉」と呼ぶにふさわしい存在でしょう。そんな一本が、復刻版として登場するというニュースに、多くのファンが色めき立ったことは言うまでもありません。当時の光学設計をリスペクトし、現代の硝材で可能な限り再現したという本レンズ。開放で見せる幻想的な描写は一度味わってしまえば虜になること間違いなしです。
今回はそんな憧れのレンズで撮影できる機会を得ることが出来ましたので、見た目の調和も良い「SIGMA fp」との組み合わせで撮影を行ってきました。ミニマルなボディとの組み合わせで見かけ上は非常にコンパクト。しかし、実際に手にしてみると重厚なガラスの存在をひんやりとした金属鏡筒越しに感じることが出来ます。MFでじっくりと撮影を愉しんできましたので、写真を是非ご覧ください。
「白を白として描く」という難しさ。美しく花弁の白、それを支える陶磁の白、光を受けて影のグラデーションが生まれている壁面の白。その微妙に違うニュアンスを、しっかりと描き分けてくれています。
晩秋の強い日差しを、カーテンが柔らかく受け止めています。窓枠にピントを合わせ、外に広がる緑豊かな庭園を美しいボケ味で包みます。まるで夢の中の一幕のような画作りが、このレンズの本領なのでしょう。
『Leica Noctilux M50mm F1.2 ASPH.』を使っていると、ガラスを被写体に選びたくなります。本来透明なものですから、写真に写しても見えるのはその向こうにある景色です。しかし、わずかな反射やディティールを汲み取りそこに存在する美しさをしっかり描写してくれるのです。ピント合わせは、慎重に。
夕日を撮りたいと思い、海を訪れました。雲も少なく、まもなく沈んでしまうであろう太陽の雄大な姿に圧倒されます。橋の上から数カット撮影してふと視線を落とすと、波間がキラキラと光を放っているのが心に飛び込んできました。これもまさに太陽の光。揺らめく波に反射しているさまを一枚。これもまた、夕日の表情の一つと言えるでしょう。
レンズが纏っているオーラに気圧されて、若干の緊張感と共に始まった今回の撮影。しかし、なめらかなフォーカスリングのトルクに心癒されながら過ごすうちに凝り固まった頭がほぐれていくように感じました。こうやって撮影者の手にスタイルに馴染み、長く愛されていくことで「銘玉」という称号を得ることになったのでしょう。「開放からよく解像し、整った描写でどんなシーンでも撮影できる」という現代レンズの魅力とは対極に位置するレンズではありますが、他に替えの効かない唯一無二の魅力がそこには詰まっています。最新機能がふんだんに盛り込まれている『SIGMA fp』と組み合わせることで、お互いの利点を引き出しあいながら臨むことが出来たのも語らねばならないポイントです。まさに夢を見させてくれた憧れのノクティルックス。マウントアダプターが紡いだ今までにない撮影体験を、この先も忘れることはないでしょう。
Photo by MAP CAMERA Staff