フジフイルムXマウントのカメラを購入した際の最初の一本に、この35mmを選択した方は割と多いのではないかと思う。
その使いやすい標準的な画角、十分な明るさ、軽量小型な佇まい。様々な要因から選ぶに足るレンズとして多くのフジフイルムユーザーが愛用しているのではないだろうか。
今回は、発売当初と比較してレンズのラインナップが賑やかになったこともあり、多様化するレンズ選びの参考になればとの思いから、標準単焦点の良さを認識すべく試写に訪れた。
やや、ハイキー気味に光を意識した一枚。被写体が持つ立体感をありのままに感じさせてくれる描写力が素晴らしい。
この日は風が強く、噴水から流れ落ちる水が空を舞っていた。
非日常的な光景に目を奪われて思わずカメラを向けたが、いつ風が止むとも知らず、このレンズはそんな一瞬をもしっかりと記録してくれる。
標準レンズとして日頃使い続ける上では、このレンズが持つf1.4という明るさは非常に重宝する。
また、あたかも中判フォーマットで撮影したかの如くボケてくれる一方で、非常にクセがなく落ち着いた写りを見せてくれる。これはフジノンレンズ全般に言えることでもあるが、狙った被写体を純粋に際立たせてくれる素直さはさすがの一言だ。
無機質な被写体にもこのレンズは無類の強さを発揮する。
様々な素材ごとの異なる質感を、使い手の意のままに切り取ってくれるので、撮影していても気分が高揚し非常に心地よい。
あたかも自らが作り上げたい世界観を、機材がすべて認識してくれているかのようだ。
このレンズの性能と相まって強い味方となるのが、ボディに搭載された「フィルムシミュレーションモード」の存在だ。
かつて被写体や環境に合わせて、使うフィルムを交換していたように、意図する物語を自らの意思で作り上げることが出来る。
また、カスタムモードでの幾多の項目から階調の微調整を行えば、フィルム現像を自分でこなすように細かく作品の幅を広げていける。
こうしたボディ側の機能が有効活用できるのも、信頼のおけるレンズ性能があるからではないだろうか。
今回試写に出たことで、このレンズの高い性能を再認識することが出来た。
高級感を感じさせる金属の造りと、小型でスマートな外観。適度な質量が持つ者に喜びを与えてくれる。もちろん写りの良さは折り紙付きである。
当初やや気になったAFの精度も、ファームウェアのバージョンアップで改善され、現在では合格点を与えられるところまで高まっていると言っていいだろう。
冒頭私は「ボディを手に入れた際の最初の1本に」と述べたが、実際には「この35mmを使うために」Xシリーズのボディを買う。それだけの価値が見出せるレンズとも言えるかもしれない。
皆様もこのXF 35mm/f1.4で、自分の世界に一つの物語を紡いでみてはいかがだろうか。
ありとあらゆる自己表現に最適なポテンシャルが、このレンズには備わっている。
Photo by MAP CAMERA Staff