タムロンの高性能レンズ群「SPシリーズ」の定義を改める新モデルとして35mmとともに発表された「SP 45mmF1.8Di VC USD」。外観デザインを大きく変更し、高品位・高性能・高付加価値という新たな方向へメーカーとして舵を切った、そう感じさせる製品です。
ついつい同時発表の35mmと並べて比較してしますが、扱い方を想像してみると比較相手の間違いだと気付きます。
おそらくこの「SP 45mm F1.8 Di VC USD」は昔ながらの50mm単焦点レンズのクローズアップ撮影に弱い部分や、絞り込みによる描写特性の大幅な変化など、少し扱いにくい部分を埋め合わせる新しい時代の標準単焦点レンズになってくれることでしょう。期待を込めて試写へ駆り出します。
描写についてまず目を引くのは、そのコントラストの高さ。色調の濃厚さやコントラストにより、ぐっと引き締まった描写を見せてくれます。
大口径レンズを付けたとき特有の明るさに加えて手振れ補正の効いた安定したファインダー像は、じっくりと波の押し寄せるタイミングに備える際にも役立ちました。
フルサイズ対応50mm単焦点レンズの多くが、最短撮影距離45cm程度。その点この「SP 45mm F1.8 Di VC USD」の接写能力の高さは特筆するものがあり、29cmまで距離を詰められます。この16cmの違いはあまりに大きく、表現の幅を拡げるとともに今までレンズ交換を余儀なくされた被写体にも1本で臨むことができます。
海辺の雰囲気を残すため程よく絞り込んだ写真が続きましたが、非常に優秀な印象です。
彼岸花の赤色を浮き立たせるようなコントラストが冴えわたります。
画面の端に直線を入れてアオリ気味に撮影をしておりますが、ビシッと決まった屋根の縁にご注目ください。広角レンズならずとも意外に苦戦するレンズが多い中、非常に安心して構図を考えることができます。もちろん壁面につたう蔦についても精緻に描き分けがなされており、昨今の高画素タイプのデジタルカメラにうってつけの性能と言えます。
日陰の茂みの隙間から太陽が覗いているという、とても劣悪なフレーミングを試みました。正直なところファインダーは白んでおり、こりゃだめだと思いつつシャッターを切りましたが、残った画像は鮮明。反射防止性能が飛躍したeBANDコーティングの恩恵か、いかなる環境でもクリアでヌケの良い描写が得られます。
もったいぶってすみません、最新設計の大口径単焦点レンズとしては見逃せない解放絞りでのカットも。寄れるレンズであるということは、背景のボケ量を稼ぐという意味でもメリットがとても大きいです。
また、切れのある描写を存分にお見せしてきた本レンズの試写でしたがご安心ください。タムロンらしい柔らかいボケ味も健在です。浮き立つようなピント部分と、最奥のボケの消失感は贅沢なレンズの味わいです。
カメラの高画素化に伴いレンズも高性能化が進むにつれて、レンズ専業メーカーの製品には否応なしにも独自性が求められてきます。垢抜けたデザインだけではなく、使い勝手や画質自体の追い込みも申し分なし。
フィルム時代から現代に至るまで多くの比較対象が存在するいわゆる標準画角に、マイノリティである45mmというハイパフォーマンスレンズを投じてきたところに今後の期待は膨らみます。
レンズの描写特性に振り回されず、想像力に合わせて表現の幅を拡げることが可能なこの「SP 45mm F1.8 Di VC USD」は、まさにあなたの“標準レンズ”になり得る製品です。
Photo by MAP CAMERA Staff