そんな中判カメラを知り尽くしたフジフイルムが満を持して登場させたのが今回ご紹介する『GFX 50S』。フォーカルプレーン式シャッターを搭載する世界初のミラーレス中判デジタルカメラになります。
その魅力は何と言っても、大型センサーで味わうフジノンレンズの描写とフジフイルム独自の色表現でしょう。35mm判の約1.7倍の面積を持つ5140万画素のCMOSセンサーはローパスレスに加え、フジフイルムが独自のチューニングを施した特別仕様。レンズは今までの中判レンズとXFレンズで培ってきたノウハウを惜しげも無く投入した新規格のフジノンGFレンズ。そこに、長年のフィルム技術と写真美を追求したフィルムシミュレーションが反映され、唯一無二の写真を生み出してくれます。
そんな『GFX 50S』で撮影したファーストカット。凄みのある解像力を、渋い発色と陰影が特徴であるクラシッククロームで仕上げました。今までのXシリーズの画とは似て非なる迫力を感じる一枚です。
『GFX 50S』が軽量な中判デジタルカメラということで、風景写真をメインで撮られている方の注目度も高いことでしょう。水に濡れる艶やかな葉の表情、岩に茂る苔の質感と細かな描写性など、「さすが中判」と思わせる画を出してくれるカメラです。
寺の庭を望む回廊にあった小さな椅子。刺繍で描かれた花の模様が美しかったので思わずシャッターを切りました。一枚の写真として見るとしっとりとした印象なのですが、ピント面を拡大するとこんなにも写るものなのかと、その解像力に驚いたカットです。
ようやく暖かい日差しを感じられるようになりましたね。少し珍しい種類の椿を『GF32-64mm F4 R LM WR』を使用し、開放のF4撮影です。このレンズも描写力が高いレンズですね。花びらのふっくらとした柔らかさが伝わってきます。
今回の撮影では『GFX 50S』をいつも使用している中型カメラバッグ『BLACK TAG (ブラックタグ) TYPE371』へ入れて持って行ったのですが、バッグへ入れた瞬間に「あれ?」と思う事がありました。ボディにGF63mmを装着したまま入れたのに、まだレンズ1本分くらいの隙間がある。これはフルサイズ機に大口径単焦点レンズを装着した時とほとんど同じサイズなのです。発表会の際にカメラを手に取った時は小型の中判デジタル機と言えど、少し違ったフォルム(背面液晶部が出ているなど)で大きさが感じられ、「さすが中判、違うなぁ」などと思っていたのですが、実際のサイズはほとんど変わりません。
そして、撮影に使っていると本当に中判デジタル機なのか?と疑うほどの軽快さ。それは大きさや重さだけでなく、手に伝わってくる感触が違う事に気づきました。私の持っている中判カメラ、知っている中判カメラはシャッターを切った瞬間、ガッシャン!とかシュボ!とか、それなりの迫力のある音と衝撃が手に伝わってくるものばかりで、“中判カメラで撮ってる感”がすごかったのですが(その点だと、二眼レフは静かですね)、『GFX 50S』はミラーレス機ということで、ミラーショックが無い分、手持ちで低速シャッターが切れるほど衝撃が少ないのが特徴です。
操作感に関しては、ほぼ『X-T2』と同じで、Xシリーズを使用している方ならファンクションボタンの説明がなくてもそのまま直感的に分かるはず。レンズこそ中判デジタル用ということで大きさを感じますが、姿形だけでなく、使用感も“X-T2をそのまま大きくしたようなカメラ ”といった感じです。そしてEVFファインダーが素晴らしい完成度ですね。約369万ドット・0.85倍という高精細なファインダーは、まるでプリズムファインダーを覗いているような自然で美しい見易さです。
古民家の茅葺屋根をどれほど写るものかと撮影した一枚。この段階で茅の一本一本まではっきりと分かる素晴らしい解像感と立体感にすぐお気づきになると思いますが、拡大するとさらにスゴイですよ。
薄紫の花びらが美しい花々。明度の差と高い解像感で花だけが浮かび上がってくるような印象を受けますね。
海に向かってそびえ立つ絶壁を撮影した一枚。岩肌だけでなく草木の葉の表情まで、ここまで写るものなのかと思うほどの描写力です。
5140万画素の大型センサーに加え、GFレンズの解像性能により、写し出される写真は高精細で緻密、そして驚くほどの解像感が得られるカメラです。しかし『GFX 50S』の真の魅力は、一枚の写真として見たときの迫力、立体感、写真としての質感の高さにあるのではないでしょうか。
凄まじい解像力はあくまでも写真を作る要素の一つであって、『GFX 50S』はそれが目的で作られたカメラではないと思います。その事は本機だけに言えることではなく、フジフイルムのカメラ全体に言えることかもしれません。JPEGで表現する色や質感への徹底したこだわりは、“カメラで撮る画はデータではなく、写真である”という写真に対するアイデンティティのようなものを強く感じます。
上に掲載した縦構図のモノクローム写真。これもJPEG撮って出しの画になります。とんでもなく解像している写真なのですが、緻密に写し出された建物の傷や柱の年輪などが建物の過ごしてきた時間の流れをも写し出しているようで、より被写体のリアリティを感じることができます。欲を言えば、畳くらいの大きさにプリントして眺めてみたいですね。きっと画面では伝わらない凄みがあるはずです。
美しく装飾された門を撮影した一枚。これも凄いですね。彫金で作れた細工を高解像で写し出しているだけでなく、そこから立体感と金属の質感も伝わってくる描写力です。
フォーカルプレーンシャッター採用により、1/4000秒まで切ることが可能です。『GFX 50S』は打ち寄せる波しぶきの動きを止め、その一瞬の表情を捉えました。1/2000秒でも波は止まりますが、1/4000秒で撮る水の粒状感というのは独特な写り方をします。これはシャッターの最高速が限られるレンズシャッター式のカメラでは出来ない写真表現だと思います。
天井に描かれた雲龍図を高感度撮影。ISO感度6400でこの描写です。筆のタッチの再現はもちろん、黒く塗られた部分にノイズを感じない描写です。
中判デジタル機を薄暗い本堂で手持ち撮影。この使いやすさと描写力、そして高感度耐性の強さに改めて『GFX 50S』の実力を感じた一枚です。
何気なくモノクロでスナップしたカットなのですが、カメラとレンズから生まれてくる“写真力”のようなものを感じる一枚です。
数年前にソニーのα7が登場した際、フルサイズセンサーを搭載しながらあの大きさ、そしてミラーレス機という可能性に「カメラという道具が大きく変わる瞬間」のような衝撃を感じました。そして今回のフジフイルム『GFX 50S』を触ってみて、同じように「中判デジタル機が変わる瞬間」を感じたような気がします。
今までの中判デジタルカメラ及び、中判デジタルバックというものはフィルム機との互換性を一番の重点に置いて考えられたシステムでした。それは中判フィルムカメラのシステムをそのまま使用できるようにと配慮されたもので、ターゲットであるプロやハイアマチュアがデジタル機へすぐ移行できるようにと考えた製品だったからです。しかし、フィルム機のフランジバックやボディシステムの“縛り”がある分、デジタル化することによって、より大きく、重くなるというデメリットがありました。フィルムを送り出す機構よりもセンサーや処理エンジン、液晶モニターを収めるサイズの方が大きくなってしまうからです。
その点から言うと、この『GFX 50S』はゼロから生み出された中判デジタル機と言えます。レフレックスミラーが無い分、中判一眼レフとは比べものにならないほどボディの厚みは薄く、ショートフランジバックによりレンズ設計の自由度も増します。説明で「X-T2を大きくしたようなカメラ」と言いましたが、それを中判デジタル機で実現させた事は革新であり快挙と言っていいでしょう。『GFX 50S』はこれからの可能性を秘めた、新しい時代の中判デジタルカメラです。
『GFX 50S』は絶対的な画質を求める方、大型センサーだからこそ生み出される空気感を自分の作品に生かしたい方にぜひ使っていただきたいカメラですね。本機の持つ圧倒的な解像力は写真の力となり、あなたの作品をより魅力的なものに変えてくれるはずです。
Photo by MAP CAMERA Staff
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