597:『Voigtlander NOKTON 60mm F0.95』
2020年07月28日
マイクロフォーサーズ専用では5本目となるF0.95シリーズ『Voigtlander NOKTON 60mm F0.95』今回は60mm(35mm判換算120mm)という中望遠レンズとして登場しました。120mmという焦点距離に対し最短撮影距離は約34cm。F0.95という別格の明るさ。今までのシリーズ同様、クリック音を発生させず絞りリングを無段階で開閉させることが可能になっており、動画においても人気のあるシリーズとして変わらない使い勝手。一見のスペックでは「用途が限られたレンズ」のように思えるのですが、使ってみると使い勝手の良さを実感しました。マイクロフォーサーズとは思えないボケ量を誇るこのレンズの旨味が伝われば幸いです。
拡大表示などすれば開放絞りらしい滲みこそありますが、クッションのシワの解像感や革の質感描写などとても質の良い写り。晴天ではもはやNDフィルターが必要になるくらい明るいレンズなので、曇天の鈍い光が条件的に良かったりするシチュエーションもあります。曇天に持ち出したいレンズと言ったら言いすぎでしょうか。
このレンズで一番気になるポイントは開放絞りでの撮影。フルサイズにも見劣りしないボケ量。ガラスの反射を抑える為にポールにうまく被写体を被せて撮ってみました。シャープさが欲しい場合はほんの少し絞っても良いのですが、開放独特のフワッっとした柔らかさはやはり魅力的。解像か画の好みを取るか、撮影者の意図通りの働きをしてくれます。
こちらも開放絞り。実はこの被写体の前には金網が張ってあります。開放絞りならどれだけボカしてくれるのだろう、と試しに撮ってみたところ、期待以上にボケてくれました。金網のせいでざわついているように見えるだけでボケ味もとても綺麗です。
濃厚なボケ味。120mmという中望遠と接写できる強みを活かすことで「切り取り」の要素と没入感がさらに強まります。都内のある公園で撮ったものですが、そんな情報がなくなるくらい綺麗に溶けるボケを見ることが出来ました。F0.95シリーズのどのシリーズよりもボケが美しいと感じます。
モノクロームとガラス。開放では全体的に階調が柔らかくなります。光の拡散具合によっては滲みやすく、ガラス越しともなればその具合も顕著です。カラーでは少し、くどくなってしまう場面もモノクロであれば豊かなグレートーンで見せてくれます。この場合は「魅せてくれる」でしょうか。このレンズとモノクロの組み合わせは個人的にとても好物です。
エスカレーターを昇っている時に見えてくるピンクの蛍光と組み合わせるのにちょうど良い画角かもしれない、と思い撮ってみました。120mmという画角のハマりどころ、見つけにくい印象があるかもしれませんが、スナップ撮影の「気付き」にも使えます。F0.95で撮影をメインにピント面には十分配慮しましたが、自分の中の「F0.95」の解像のイメージより数段良く写っていました。
開放の引力
ピントトルクは重厚感があり、じっくりとピントを詰めることが出来ます。最短撮影距離が短いので、いざ接写撮影をしたいと思った場合はファインダーを覗く前からリングを回しておいたほうが良いです。絞ることで得られる解像感。拡大してもすっきりと画が出てくるのはやはり撮っていて気持ちがいいものです。ただ、開放絞りでしか味わえないレンズの旨みというものがあります。せっかくのF0.95を楽しまずにどうするのか、と絞りリングを握った指が引力に引っ張られるように開放側に向かってしまうのです。勿論作例として絞った写真を見たときに、絞ってよかったと考えを改めるのですがそれも数枚のうち・・また気づけば開放絞りで撮影をしている自分がいます。事実、筆者も開放で撮りたいけれど解像はやはり緩くなってしまうだろうな、と思っていたのですが画を見たときにその考えも改めさせられました。F0.95という開放値に引かれつつ、その引力に引っ張られないように遠目で見ていた皆様。この機会にこちらの磁場に足を踏み込んでみてはいかがでしょうか。
Photo by MAP CAMERA Staff