2008年に発売された『Nikon PC-E Micro NIKKOR 85mm F2.8D』。大判カメラでは不可能に近い手持ちでのアオリ撮影を可能とする特殊なPC-Eレンズシリーズの一本です。ティルト±8.5°、シフト±11.5mmまでアオリ操作を可能とし、ピント面を操ることで建物や商品、人物撮影などで力を発揮します。また、名前にマイクロとあるように、最大撮影倍率0.5倍の接写も可能で被写体を拡大して撮影することもできる便利なレンズです。今回は手持ちでアオリ撮影ができるということで、フィールドに持ち出して撮影してみました。
まずは何も操作していない状態の一枚。PC-Eレンズはマニュアルフォーカスでの撮影となります。使用したボディは『Nikon D850』。クリアで被写体が見やすい光学ファインダーのお陰でしっかりとピントを合わせることができます。
レボルビング機構を搭載し、左右90°の範囲で鏡筒が回転する『Nikon PC-E Micro NIKKOR 85mm F2.8D』。左右にレンズをスイングさせた撮影が可能です。被写体に対してレンズ前玉が斜めになるように操作するとピントの合う位置が狭くなり、印象的なイメージになります。花の中心にのみピント面があり、周囲は大胆にボカすことでより柔らかいイメージになりました。
斜めからの撮影でも、被写体に対して平行に傾ければピントの合う幅が広がります。木製のタンスを撮影したのですが、一般的なレンズであれば絞り込んでもピントが合うか怪しい場面。アオリ撮影することで照らされた部分にピント面がくるようになりました。
畳を見ると心が落ち着きます。年季の入った渋さに温かみを感じながら撮影した一枚です。ティルトさせ、画面全面にピントを合わせました。
接写とアオリとマニュアルフォーカスの三点が揃うとじっくり撮影したくなります。被写体をどのように切り取ろうか考えるのが非常に楽しいです。しかし、ティルトを操作していれば全てが面白くなるわけではありません。素直にピントを合わせることも重要です。
丸い車のヘッドライトが可愛らしく感じたので、ガラスの部分にフォーカスしました。ボンネットの輝きも綺麗な一枚です。
ショウウィンドウの中に佇む二人。明暗の対比が綺麗に分かれていたのでカメラを向けてみました。冒頭の花の写真と同様にスイングさせることで手前の一人にのみピントを合わせて印象的な雰囲気になっています。
近代的な街にある新しい歌舞伎座を道路の反対側から撮影しました。レンズをシフトさせて画面一杯に納めました。85mmの焦点距離だと建物全体を撮るのは難しいですが、うまく切り取るのも楽しいです。
ガラスに反射した電光掲示板の光が水面のようでした。構図を定め、ティルトの角度を調整して一番ピントが合うところでシャッターを切る。想像通りの一枚が撮れた時の感動はフィルムカメラでの撮影を彷彿とさせます。
最後に物撮りを行いました。スイーツの秋をイメージして撮影したマカロン。イタリア発祥の洋菓子で、フランス各地でアレンジされ世界に広まったとされています。サクッとした触感の後にやってくるしっとりした甘さ。寒くなり始めるこの季節は、温かいコーヒーや紅茶と一緒にいただきたくなります。
ギネスブックに「世界で一番難しい木管楽器」として登録されているオーボエ。リードと呼ばれる発音部分は天然の素材で作られており、その日の湿度などで音程が変わってしまいます。そのため調整が難しく、オーケストラではチューニングを合わせる基準にするんだとか。最短撮影距離で接写し、キィという指で押さえる部分にピントを合わせました。使い込まれている様子が伝わってきます。一般的なレンズではさらに絞り込む必要がありますが、ティルトさせることで被写界深度を調整しました。
ピント面の魔術師
表現の幅が広がる『Nikon PC-E Micro NIKKOR 85mm F2.8D』。大判カメラのように三脚でしっかり固定した撮影ではなく、手持ちで気軽に撮影ができるのも作品の幅が広がるポイントになります。物撮りでは深度合成を行うことで被写体全体にピントを合わせる方法もありますが、自在にピント面を操ることはできません。また、故意に被写界深度を浅くすることで被写体は引き立ったより印象的な写真を撮影することができるのもこのPC-Eレンズシリーズの強みなのではないでしょうか。一味違った写真をじっくりと楽しめる『Nikon PC-E Micro NIKKOR 85mm F2.8D』。特殊でありながら実用性の高い、写真がより楽しくなる1本です。
Photo by MAP CAMERA Staff