

史上初の開放F1.8通しズームレンズとして登場した「SIGMA Art 18-35mm F1.8 DC HSM」。そのインパクトは当時非常に衝撃的で、すでに発売から10数年の月日が経っているということに改めて驚きました。今回は、その後継モデルとも言える『SIGMA Art 17-40mm F1.8 DC』をご紹介します。開放F1.8通しの魅力はそのままに、焦点距離は広角側に拡張され17-40mmへと進化。そしてフジXマウント用で約530gという、30%以上の軽量化も実現しています。さらに、HLA(High-response Linear Actuator)による高速かつ静粛なオートフォーカス駆動に加え、インナーズーム構造やフォーカスブリージングを抑制する設計も採用。静止画はもちろん特に映像制作において、かつてから高い評価を得ていたレンズが、よりニーズに応える一本へと進化しました。今回は「X-H2」に装着し、実際に撮影を行いました。進化したArtラインの描写力を、ぜひご覧ください。
柔らかな光が差し込む早朝のひととき。逆光に浮かび上がる花々の輪郭は繊細に描写され、前後のボケが滑らかに溶け合うことで、画面全体に優しい空気感が広がります。特に光のにじみ方が印象的で、白い花びらの一枚一枚が淡く光をまとっているような美しい表現が心に残りました。フィルムシミュレーションをいくつか試した中でも、「ETERNA / シネマ」の落ち着いたトーンもよく馴染み、この場の静けさや透明感を引き立ててくれました。「ETERNA / シネマ」の色彩を抑えた表現をうまく引き立ててくれた一枚になったと思います。ちなみに、1枚目のカットは「PROVIA」で撮影。自然な発色が魅力で、同じ被写体でも異なる表情を引き出してくれます。

最短撮影距離は全焦点域で28cmと短く、テーブルフォトや被写体にグッと寄った撮影にも柔軟に対応できます。開放絞りでは周辺部にわずかな収差が見られるものの、少し絞り込むことで改善され、全体の描写も安定します。最短撮影距離付近での開放絞りは、ピント面が非常に浅くなるため、軽く絞るだけでも、より立体感と安定感のある表現が得られると感じました。ボケを活かしつつも被写体の輪郭をしっかり捉えたい場面では、少し絞る設定が心地よいバランスを生み出してくれます。

続いて「Velvia」で撮影をしてみましたが、まさに目が覚めるような鮮やかな色調です。彩度の高いフィルムシミュレーションならではの発色で、光が当たっている部分はかなりハイキーな仕上がりですが、開放絞りの光の柔らかさで嫌な感じもありません。



絞ることで周辺部まで安定した画質を得ることができます。柔らかなシャドウと引き締まったシャドウの描き分けがしっかりと表現されており、このレンズが持つ繊細な描写性能の高さを実感できます。

巨大な地球儀を開放絞りで撮影した一枚。被写界深度は浅いものの、ピント面における解像力は非常に高く、インクの濃淡や文字のかすれ具合まで、実に繊細に描写されています。紙の質感や微細な陰影も豊かに再現されており、ヴィンテージ地球儀の趣を上品に引き立ててくれる一枚となりました。


古い電圧計を開放絞りで切り取った一枚。ピントを合わせた文字盤部分、針や目盛りの微細なディテールまで精緻に描写されており、前ボケ後ボケどちらも滑らかです。

ショーウィンドウ越しのマネキンたち。サングラスやスカーフといった小物の質感が丁寧に描写され、布地の織り目や光の反射による柔らかな立体感もしっかり出ています。二体のマネキンの間の距離感や、ガラス面に映り込んだ街の風景が違和感なく溶け込み、空間全体の雰囲気が静かに伝わってくる一枚に仕上がりました。フィルムシミュレーション「クラシッククローム」のトーンもよく合っています。

スーパーマルチレイヤーコーティングによる高い逆光耐性のおかげで、このような難しい光条件下でもクリアな描写が得られました。基本的にはフレアやゴーストが非常に抑えられており、むしろゴーストが現れるまで意図的に角度を探りました。個人的には、この美しく円を描くゴーストの出方がとても気に入っていて、表現の一つとして重宝しそうです。


こうした質感を撮影すると、シグマならではの描写力を強く感じます。わずかに絞っただけでも全体にわたって高いシャープネスが得られ、細部までしっかりと描写してくれます。


さらなる進化を遂げた開放F1.8通しズーム
開放F1.8通しズームがさらにズーム域を伸ばし、小型軽量化するという衝撃的な進化。『SIGMA Art 17-40mm F1.8 DC』はまたしても大口径ズームレンズの歴史に名を刻むことになるでしょう。写真・映像どちらでも優れたパフォーマンスを発揮する『SIGMA Art 17-40mm F1.8 DC』。ぜひ使ってみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff