今やミラーレスカメラ界で確固たる地位を築き上げたXシリーズ。その礎ともなった初期のラインアップに銘玉と称される『フジノン XF35mm F1.4 R』があったことも躍進の大きな要因の一つだったのではないでしょうか。発売開始から約10年が経つものの、今だにその魅力が色褪せないのは真の銘玉である所以。しかし今回、その35mmとほぼ同じ焦点距離、同じF値を持った単焦点レンズがフジフイルムより登場しました。
その名は『フジノン XF33mm F1.4 R LM WR』。
35mm換算時により50mmの画角へ近づいたものの、あえて銘玉とバッティングする標準画角と明るさのレンズを出してきたフジフイルムの意図は何なのか。その答えは撮影してすぐに分かった気がします。Xシリーズの新たな標準単焦点レンズの写り、ぜひお楽しみください。
海辺にて白と黒の服を着た2人が背中あわせに座っている姿をスナップした1枚。この日は風が強く、海にさざなみが立っていました。
『フジノン XF35mm F1.4 R』が“優しさ”を感じる描写なら、この『フジノン XF33mm F1.4 R LM WR』から感じるのは“凛々しさ”。細い線で描くその世界は、絞り開放から透明感のあるキレの良い描写を見せてくれます。
森の中に茂るシダ植物の葉。決して光量が豊かではない状況ですが、独特の艶と立体感を写し出す描写は「これは良いレンズだな」と撮る者を納得させる説得力があります。なんというか、微妙な光のニュアンスまでちゃんと写真にしてくれるレンズと言えばいいでしょうか。この様な写りは全てのレンズが出来る事ではありません。
“写実絵画”と呼ばれるリアリティを追求した絵画がありますが、『フジノン XF33mm F1.4 R LM WR』を使用しているとその言葉が頭に浮かんでしまいます。妙な例えなのですが、実物よりもリアリティを感じる描写。葉先から枯れていき、色も変わった植物の儚くも美しい姿を捉えてくれました。
全国に16基しかないという登れる灯台へ。この日は風が強かったものの汗ばむほどの晴天で、海を航行する船や対岸の景色を楽しめました。そんな灯台を電子シャッターを使用し、1/20000秒という高速シャッターで切れば日中でもF1.4で白い被写体を撮影することができます。
空をバックに鮮やかなコスモスと蜂のカット。本レンズの最短距離である30cmで撮影しました。この様な撮影をすると「危なくないの?」とよく同僚から聞かれるのですが、花に夢中になっているミツバチ(これはツチバチの仲間)は意地悪さえしなければ近づいても大丈夫。実はこの後ハチを指に乗せて別の花に移し、別カットの撮影も手伝ってもらいました。
解像性能で言えば、『フジノン XF35mm F1.4 R』とは別次元のレンズという感じです。木々の葉一枚一枚から、うねる枝まで細密に写し出してくれます。
強い東風の影響で海沿いのボードウォークにも波が上がっていました。普通なら避けて通る場所ではありますが、その濡れた艶感に惹かれシャッターを切った一枚です。
本当に艶やかな表現が素晴らしいレンズです。この様な写りは解像力が高いだけではなく、色や階調の深みがあってこそ実現できるもの。フォーカスを当てた所が浮かび上がるような立体感が『フジノン XF33mm F1.4 R LM WR』一番の魅力なのではないでしょうか。
現実を超える“リアリティ”
開放で使いたくなるレンズは多々ありますが『フジノン XF33mm F1.4 R LM WR』もそう思わせてくれる一本でした。それはボケ味を強調するために開放で撮るのだけではなく、肉眼で見る以上に立体感のある描写が得られるからです。
メーカーも「これからの十年、第二章の中核」と謳っている様に、今後のXシリーズを見据えて作られたであろう本レンズは『フジノン XF35mm F1.4 R』を超える事を必然として生まれてきたレンズと言ってもいいかもしれません。実際に使用していると描写や作り込みなど、メーカーの本気度をひしひしと感じるレンズでした。
Xシリーズの新しいマスターピースとも言える本レンズ。「35mmは持っているから」と思っている皆さんにぜひ一度使っていただきたいと思った一本です。ぜひお試しください。
Photo by MAP CAMERA Staff