LEICA趣味人 -谷根千編- | Kasyapa for Leica 
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ライカのレンズに恋している。銀塩のライカを手にして30有余年。数え切れないほどのライカのレンズと恋に落ちてきた。それでも銀塩ライカの時代は20年ほど高い授業料を払い続けた後に、ようやく一生の伴侶ともいうべき相手が見つかり、落ち着いてライカ生活を送っていた。ところが、デジタルライカのM型が出現し、平穏な日々が一変した。瞬く間にまた、銀塩時代以上にライカレンズ熱が再燃してしまった。ライカは銀塩一筋で操を守ると誓っていたのに、つい魔が差してデジタルライカを手にしてしまった。するとこれが実に面白い。レンズの個性が存分に現れるのだ。特にオールドライカのレンズはフィルムではあまり良さがはっきりと分からなかったのだが、デジタルで撮影すると、えっ、これがあのレンズ!と唸ってしまうほど。たちまちまたライカウイルスが活性化し、今ではまたすっかりレンズ沼にどっぷりと溺れてしまっている。

ライカのこだわりはデジタルになっても徹底している。レンジファインダー部分はもちろん、銀塩ライカと全く同じ。スカッとした見やすいファインダーは一眼レフや液晶画面とは比べものにならない。そしてなんとコダックのCCDを搭載し、しかもローパスレス。レンズの特性をフルに引き出してくれる。特に古いレンズほど個性が如実に露わになり、それを知り活かして撮ると現行の優れた!?レンズなどは遠く及ばない味わい深い描写をする。
そこでこれから愛機ライカM9Pにオールドから現行、そして純正からサードパーティーまで、さまざまなレンズを装着し、レンズの味わいを楽しんで行こうという趣向である。独断と偏見と思われる面も多々あるはずだが、そこはご容赦いただいて、魅力的なレンズとの恋を存分に、そして積極的に楽しんで行きたいと思う。さればいざ出陣!


LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

第一弾のレンズは『ヘクト−ル2.8cm f6.3』を選んだ。コンタックス用にすでに発売されていた『ツアイス テッサ−28mm f8』の対抗馬として1935年に発売された。ヘクト−ルとはギリシャ神話のトロイの勇士の名前。エルマー5cm f3.5の設計者、マックス・ベレクは愛犬にヘクト−ルと名付けていた。ベレクはトリプレットを基本にしたレンズ構成に特別の思いがあったのかもしれない。


LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

今回ヘクト−ルを連れ出したのは、東京の下町「谷根千」、谷中、根津、千駄木界隈のことを指す。高級住宅街のような静寂ではなく、繁華街のような喧噪でもない。なぜか懐かしさとホッとした気分になる。かつて見たことがある風景。そして人々の優しさを感じる。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

ヘクト−ルはその場の空気をも写し撮る奥深さがある。まるでパンケーキか、レンズキャップほどの薄さのレンズにこれほどまでのポテンシャルがあるのかという驚きとスナップの軽快さと楽しさを再認識させてくれる。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

色の深みと光のグラデーションが実に魅力的なレンズだ。谷根千の昼下がりの散歩にはこれほど打って付けのレンズはない。赤の描写が特に好み。今度は町の中の「赤」だけを探して撮ってみたいと思う。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

根津神社の境内の鳥居越しに後光が差している。逆光では現行のレンズでは決して味わえない実に魅力的な描写をする。フレアーやゴーストはレンズ設計者にとっては天敵だが、撮る者にとっては、むしろ大歓迎!オールドレンズを使うと、自分にとってのレンズ観が磨かれる。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

時代を経た建物を時代を経たヘクト−ルで撮影する。これぞオールドレンズの醍醐味。ヘクト−ルもどんな気分なのだろうか?かつて写真家の木村伊兵衛がチャートでレンズの性能を比べようとした学者に向かって「アタシが撮るのはデッコマ、ヒッコマした被写体であって、平面の紙切れではない」と啖呵を切ったという逸話がある。いまならMTFにも噛み付いたに違いない。ヘクト−ルはデッコマ、ヒッコマが良く写る。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

オールドレンズは色が浅いといわれるが、ヘクト−ルはさにあらず。空の青と雲の白が綺麗に写し込まれている。枝のディテールの描写の繊細さも驚くばかり。これが本当に戦前に設計されたのかと驚くばかり。デジタルを意識していたことなどあり得ないのに、デジタルとの相性がなぜかいい。不思議なレンズだ!

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

昔は看板もペイントではなく、文字を造形物にして壁に取り付けていた。この存在感と立体感がたまらない。ヘクト−ルもローレットの作り込みやピントノブなどは造形物としても魅力的。ぬめっとしたグリスのトルク感もライカのレンズを使う大きな要因だ。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

戦後すぐに建てられた、いわゆる文化住宅。2階建ての横長の建物に5世帯ほどのそれぞれ玄関がある。ヘクト−ルの周辺の光量の落ち方が、この建物の歴史と生活を感じさせる。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3



谷根千には、個人商店がまだまだ頑張って営業している。路地の角にあるのは昔ながらの雑貨屋さん。衣類と食料以外の生活必需品がほとんど手に入る。商品点数は天文学的な数字のはず。きっと「数えたこともないし、数える気もない」に違いない。ヘクト−ルは輝度差も何のその。雑貨の一つひとつを鮮明に描写している。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

谷根千の象徴である路地にモルタルのアパートに干し蒲団。そしてさらに公衆電話も加えて役満(笑)。かつてこんな路地で缶蹴りやベーゴマをやった思い出が蘇る。やはり被写体はデッコマ、ヒッコマなのである。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

三叉路の三角のコーナーにそびえる大木に寄り添うように営業しているパン屋。少し待っているとおあつらえ向きに犬を連れた男性が! 絞りは8、ピントは10フィートに合わせて待機していたカメラをさっと構えてシャッターを切る。オートフォーカスよりも早業。レンジファインダーとパンケーキレンズの組み合わせはこれだからやめられない。

LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

木製の建具は今では珍しい。しかもペンキを何度も塗っては剥がれた跡が風雪を耐えた時間を感じさせる。木とガラス、瓦、ペンキの質感が良く写り込んでいる。この小さくて薄いレンズでここまで写るとは!現行レンズの巨大さに疑問を感じてしまう。


LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

谷根千で昔から愛され続けている台湾のデザート「愛玉子(オーギョーチィー)」。黄色の看板がランドマークになっている。新しいものが次から次へと消費されて行く世の中で、気に入った空間やモノ、そしてもちろん人を守り守られているのが谷根千という場所。ライカやオールドレンズに相通ずるものがある。


LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3
LEICA M9-P + Hektor 2.8cm / f6.3

ヘクト−ルの圧倒的な描写力ここにあり!シャドー部も空の雲のグラデーションも見事に写し込んでいる。ヘクト−ルは開放値が6.3と暗いのだが、昼間から夕方にかけての谷根千のスナップには抜群の威力を発揮した。ライカM9Pとの相性は抜群。レンズキャップと見まがう薄さは驚異的だ!日没までもう少し撮影して、日が沈んだらヘクト−ルとライカは潔く鞄に仕舞い、昼間目星を付けていた小料理屋にいざ行かん!日が沈んだら撮影をやめる。これぞヘクト−ルとの正しい付き合い方。そしてヘクト−ルを肴に熱燗をちびりちびり。これだからやめられません!次回は沈胴ズミクロン50mm!乞うご期待!


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