前回「Voigtlander ULTRON 75mm F1.9 SC VM」に続き今回は『Voigtlander ULTRON 75mm F1.9 MC VM』をご紹介させていただきます。レンズ構成やスペックはSCと同等で、違いはコーティング仕様と外装の仕上げになります。SC(シングルコート)のクラシカルテイストのブラックペイント仕上げに対し、MC(マルチコート)はモダンな印象のブラックペイント仕上げになっています。シングルコーティングでは逆光時に出てくるフレアやゴーストが特徴的で、その要素を写真に取り込んでいく使い方が面白かったのですが、マルチコーティングならどんな画を見せてくれるのでしょうか。限りなく標準域の感覚で使える中望遠レンズ、ぜひご覧ください。
椅子の生地のザラザラした質感が伝わる描写、ピント面からの立体感もしっかり出ています。シングルコーティングがしっとりとした線を出すのに比べて、かなり整っている印象をうけました。
いっぽんの遊歩道。直射日光は木々のおかげで防げてはいるが、暑い日中の陽ざしをうけても、なおこのシャープさ。奥のほうにピントを合わせたのですが、想像以上のキリッとした写りです。ちなみに撮影時はレンズフードを装着しています。
切り株に新しい芽が生えてきていました。距離があったので少しだけ絞って撮影しましたが、しっかりと立体感のある描写です。
あまり暴れるイメージのないレンズですが、こうして前ボケをつくってみると「なるほど」と思う収差、個性が出てきます。ただ、逆光時のフレア・ゴーストはシングルコーティングと比べてみると明らかに収まりが良かったです。奥の細い枝にはフリンジがやや見受けられますが、まあこれくらいは出てきて当然というところ。F4くらいまで絞ればフリンジも解消されます。
ほぼ最短撮影距離での撮影。タチアオイのピンク色が深い緑色に被らないように意識して撮影しましたがピント面の輪郭もしっかり出ますし、ボケも綺麗に溶けているのではないでしょうか。今回はなるべく輪郭が浮き上がるような配置をしてみましたが、たとえばもっと背景との境目を曖昧にするとピント面の輪郭さえ滲んで、より柔らかい印象の画に仕上がります。
ハイライトはシングルコーティングに比べると「眩しさ」を感じる描写です。それでも現代のレンズに比べれば柔らかく、上品な光を受け取ってくれます。ボケの柔らかさが一層そう感じさせるのかもしれません。「ULTRON 75mm F1.9 MC」らしさを感じたカットとなりました。
ガラス一枚隔てた先にあるグラスを撮影。ガラス一枚隔てても、コップのフチの線が太らずに写ってくれました。50mmと使い勝手はそう変わりませんが、同じ立ち位置から撮ると前ボケが大きく出やすいので「覗き見る」感覚が強まるのが75mmの特徴かなと思います。
絞って線の細かい画を見てみます。ガラス越しであるにも関わらず電線やクレーンの細い線、遠くのビル看板の文字も読み取れるほどの高い解像力を見せてくれました。周辺部まで光量が落ち込むこともなく写ります。
人の多い交差点で「誰の顔もはっきりとは写らないタイミング」を狙って撮影しました。こういう場所でも情報量を絞って撮影できるのも中望遠の強みかなと思います。通りすぎる人で他の人が隠れた「今!」というタイミングを狙って撮影しました。
使い分けが楽しい中望遠
たとえばシングルコーティングの時の「この光だとフレアが出るかも」ということを考慮する必要がないので、画を組み立てようとするまでの工程がスムーズです。「SC」はシーンによっては振り回されることがあるので、その変化を楽しみたいときに持ち出したいレンズで、「MC」は今日は素直に、余計なことは考えないで撮りたいというときに使いたいレンズでした。溢れる光を捉えたいときは「SC」。今日は光をストレートに捉えたいというときは「MC」という使い分けが楽しそうです。柔らかさとシャープさは絞りを変えてお好みで。ここまで描写が変わるのなら、どちらも持っておくに越したことはありません。コロンとカメラバッグに忍ばせておけるサイズ感もグッド。どちらもぜひ使ってみていただきたいレンズです。
Photo by MAP CAMERA Staff