数あるライカレンズの中でも銘玉として知られるスーパーアンギュロン。クセノンと同様にシュナイダー・クロイツナッハで設計され、戦後のオールドレンズ黄金期を彩った広角レンズです。そこから約20年の歳月が経ち、1980年代に登場したニュージェネレーションレンズの1本としてF2.8の明るさを持つ21mmにはエルマリートの名が付けられたのですが、初期の最短0.4m指標のレンズのみ他とは違う大きな特徴があるのをご存知でしょうか。それはスーパーアンギュロンと同様にシュナイダーで設計されたレンズだということ。つまり名前はエルマリートではありますが、スーパーアンギュロン直系の後継レンズになるのです。今回はその『エルマリート M21mm F2.8 前期』をご紹介いたします。
開放値でも十分な解像力を誇る当レンズ。写真では1段分絞ったF4に、そうスーパーアンギュロンの開放F値を意識して撮影してみました。ほんの少し絞ると甘さが消えてシャキっとした画になり、周辺の減光もほぼ気にならなくなります。しかし21mmF2.8という当時としてはとても明るい超広角レンズですので、これ以降はほぼ開放絞りでご紹介させていただきます。ぜひご覧ください。
ポケットに手を入れながら歩くスーツ姿がまるでムービースターのようで歩きながら撮影してしまいました。シャッタースピードを変える間もなかったのでややハイキーな世界観になったのですが、フードも付いていない状態でもフレアゴーストの耐性が強く、描写力にとても驚かされました。
この時期は高いビルが立ち並ぶ繁華街では光が斜めに射し込むことが多く、街のあちこちで光がドラマを生みます。今回は細い光の道を歩行者が出入りするそのタイミングでシャッターを切りました。21mmというとても広い画角では、自分の予想していた世界よりも少し要素が多くなることが多いですが、その予想外の要素が意外に面白い偶然を生み出すこともあり、スナップで使うのも楽しい画角です。
橋を片側に寄りながら撮影しました。面で捉えれば単調に見えてしまうものも少し角度や奥行きを意識するだけでその被写体の見せ方をガラッと変えることができるのも21mmの醍醐味です。
この地域では小さなものから大きなものまで神社やお寺が点在しています。時折聞こえてくるバイクのエンジン音、あとは学校帰りの子供たちのはしゃぐ声や生活音だけが聞こえてくる穏やかな町。誠意を込めて祈る人の姿には一つの美さえ感じます。今まであまり出てこなかったフレアがこのタイミングで出てくる演出は少しズルい、と感じた1枚です。
海外のモノクロ写真を見ると度々この光の中を歩いてく人々を捉えた写真を見かけます。どうしたらあんな世界を捉えることが出来るのだろう、といつも不思議に思っていた答えが目の前に現れて興奮したのを覚えています。おそらくほんの1分ほどの間の出来事でしたが、このレンズはこの日のこの瞬間を逃すことなく捉えてくれました。
いつもこの辺りを歩く時にふらっと立ち寄る場所があったのですが、この時勢の影響か、エリアごと閉ざされてしまっていました。いつも行けると思っていても急にその機会は失われてしまうのだと改めて感じた出来事です。帰り道、ふと思い立ったようにモノクロームで撮影してみたところとても綺麗なグラデーションの空が見えました。開放絞りでありながら超高層ビルの一本一本の線まで描写していることに改めてこのレンズの解像力の高さに驚きます。
スーパーアンギュロンの後継者
貴重なレンズとはいえ21mmの超広角レンズをフードなしで撮影するのは少し無理があるのではないかと思っていたのですが、見事にその予想は裏切られる形になりました。フレアゴーストはそれなりに出ますがコントラストははっきりしており、むしろこの年代のレンズとしては飛び抜けた性能だったのではないかと思います。歪みを抑えて四隅までしっかりと解像する描写に、流石スーパーアンギュロンの後継だという印象を受けました。そして、スッキリと抜けの良い画作りとどことなく青と黄に寄った色の雰囲気に、シュナイダーレンズの面影を感じたのは私だけでしょうか。オールドレンズとも現代のレンズとも言えない、変わりゆく時代の過渡期に生まれた『エルマリート M21mm F2.8 前期』。綺麗に写るという言葉だけでは言い表せられない魅力ある1本です。
Photo by MAP CAMERA Staff