撮影スタイルに合わせライカ M10には多種多様なバリエーションが存在する。スタンダードモデルの『ライカ M10』、スナップ撮影に特化した『ライカ M10-P』、背面液晶を廃したストイックモデル『ライカ M10-D』、そしてモノクローム専用機『ライカ M10 MONOCHROM』。これでLeica M10のシステムは完成したかに思われたが、今回そこに新しいラインアップが加わったのだ。
その名は『ライカ M10-R』
察しのいい方はすでにお気づきかと思うが、Resolutionの“R”が付けられたM型初の高画素モデルである。ライカの高画素機といえば『ライカ SL2』『ライカ Q2』に搭載されている4700万画素センサーを思い浮かべるが、この『ライカ M10-R』に採用されたセンサーは一味違う。『ライカ M10 MONOCHROM』に搭載されていた新開発の4000万画素センサーをカラーセンサーにチューンナップした専用センサーなのだ。
その描写は繊細かつ高画質。今までのM型が示してきた画質の基準を新しいステージへ押し上げてくれる一台だと言える。今回はその性能を確かめるべく、暗所など厳しい条件の揃う環境で撮影を行った。低輝度でも潰れないディティールや、開放からでも際立つシャープさなどを感じていただけたら幸いである。
1枚目、2枚目ともに美しい装飾とステンドグラスが印象的な教会でのカット。『ライカ M10-R』を使用して感じたのがフォーカス部のエッジの立ち方の違いだ。Mレンズ史上最高の50mmと謳われる『アポズミクロン M50mm F2.0 ASPH.』を使用したのだが、なめらかなボケ味の中に現れるキリッとしたピント面は、2400万画素の『ライカ M10』とは違った画作りの印象を受ける。新開発の4000万画素カラーセンサーは今まで感じることのできなかったレンズの解像力を引き出してくれているのがお分りいただけるはずだ。
続いては大戦時の記憶を今に伝える無人島でのカット。写真に映る牢の扉のような所は、かつて日本軍が弾薬庫として使用していた壕だ。この日は奇跡的に太陽が顔を出し、木漏れ日の中に浮かび上がった歴史の爪痕にピントを合わせシャッターを切った。時の流れを感じるレンガの壁には苔や蔦が這い、扉に張った蜘蛛の巣が陽を浴びてキラリと光る。実にライカらしいクリアで立体感を感じる描写である。
この島での撮影はシビアな露出を求められるシチュエーションがとても多かったのだが、その分『ライカ M10-R』はハイライト・シャドウ共に階調表現がとても豊かだと感じることができた。他を見ればさらに高画素のカメラは数多く存在するが、ライカが目指す高精細と画作りのバランスを両立させたのが、この4000万画素センサーなのだろう。
『ライカ M10 MONOCHROM』とセンサーベースを共有することもあってか、モノクロームでの表現も非常に好印象だ。写実的な描写を好む方にはこの『ライカ M10-R』を是非オススメしたい。
時折強い風が吹き、木々の枝を大きくしならせる。高画素機がもたらす写真の密度は、何気ない情景を印象的なものに変える“力”になってくれる。一般的に「高画素機は風景写真に向いている」と言われるが、スナップ派にとっても恩恵が大きいと使用して感じた。
どこか海外の雰囲気を感じるBARの前でのスナップ。今回は高画素機ゆえ手ぶれに気をつけながら撮影をしたのだが、『ライカ M10-R』に使用されているシャッターは『ライカ M10-P』のように静かで優しい音がする。真相は定かではないが、同じシャッターユニットを使用しているのではないだろうか。これは手ぶれを起こしづらくしてくれると共に、さりげなく静かにシャッターを切ることができる優秀なスナップシューターだ。
もう一つの完成形
M型ライカの中でも銘機となるであろう『ライカ M10』は、使いやすさと画質を両立させた優等生というべき存在だが、その中で画質に特化しつつも他の性能を犠牲にしないもう一つの完成形が、この『ライカ M10-R』と言えるだろう。ライカユーザーの中には「果たしてM型に高画素は必要なのか」と思う方も居るかもしれないが、高解像力揃いの現行レンズラインアップを考えれば『ライカ M10-R』の登場は必然とも思える。より高画素なセンサーを採用する機種も多い中で、M型ライカの写真思想に合わせて専用設計された特別な4000万画素センサーからは、描写力の違いと画作りに対するこだわりを確かに感じることができた。高画質の持つ“力”に魅力を感じる方にはぜひ使用していただきたい。今までのM型には無かった、圧倒的な画質表現を手にすることができるだろう。
Photo by MAP CAMERA Staff