今回ご紹介するレンズは『Leica ズミルックス M35mm F1.4 11301』です。『ズマロン M28mm F5.6』『タンバール M90mm F2.2』『ノクティルックス M50mm F1.2 ASPH.』に続く4本目のクラシックレンズシリーズとしてリメイクされました。オリジナルの初代ズミルックスM35mmは1961年に世界で最も明るい広角レンズとして発表され、その絞り開放時の独特なボケ味と周辺の減光によって「true king of bokeh(ボケ味の王者)」の異名を持つ銘玉です。今回のレンズ描写は初代の写りを知る方にとっては懐かしくもより洗練された写り。また、現行ズミルックスをお持ちの方にとっては衝撃的な写りかもしれません。受け継がれたまどろむようなボケ味と個性的なハイライトの滲み、そして復刻だからこその写りの違いを感じていただければ幸いです。それではぜひご覧ください。
一段絞ったF2のカットですが、チェアの色味とシャドウ部が一段濃くなり、描写に重厚感が生まれました。開放絞りにはない色気もあり、バランスのよい美味しい絞り値ではないでしょうか。背景ボケも非常に滑らかです。少しアンダー目な露出に振ることで本レンズの個性が引き立つ気がします。
F1.4開放絞りとF2で撮ったカットを見比べた結果、後者のカットを採用しました。F2でこれほどのピントのキレを見せてくれるとは驚きです。そして中央から少しずつ緩んでいくこの感じもたまりません。開放絞りの優しい写りも個人的には好みですが、それはまた別のカットでご紹介いたします。
まさに初代の写りを彷彿とさせる幻想的な写り。そして窓のハイライトに注目してみてください。被写体の奥にあるハイライトの滲みが手前の被写体に食い込んでいるように見えます。実はこの特徴は初代Summilux M35mm F1.4特有の滲み方ということでその個性までもが見事に再現されています。おそらく当時の技術では予期せずにそのような特徴になってしまったと思われますが、それをも意図的に再現してしまうライカの光学技術と心意気に感動してしまいました。
雲間からわずかに覗かせた光を頼りに逆光で撮影したところ、初代と同じように綺麗な虹のゴーストがうっすらと確認できました。頭上のハイライトの滲みもとても美しく、叶うならばまた晴れの日にこのレンズの世界を覗いてみたいです。
夜の街を開放絞りで撮ると、目の当たりにしている光が形を変えてまるで別世界のよう。他のレンズでは味わえない「Leica ズミルックス M35mm F1.4 11301」といる間だけの特別で贅沢な時間です。
オリジナルのデザインを継承しつつも、各部をブラッシュアップ。鏡筒素材はスチールから真鍮素材に。前枠の口径が一回り大きくなりE46(フィルター径46mm)になったことで汎用フィルターの使用が可能になりました。また、オールドレンズ黄金期に付けられていたフォーカスノブの無限遠ロック機構も再現。形状はオリジナルと少し異なりますが「カチッ」と音を立ててロックさせるボタンは本レンズの所有欲を満たしてくれます。
フードはねじ込み式スリットフードと、オリジナルを再現したはめ込み式フードの2種類が付属しています。このはめ込み式フード、オリジナルのように人工ルビーは埋め込まれていませんが、金属製のしっかりとした逸品です。また取り付け機構もオリジナルに忠実に作られているため、若干外れやすくなっている事に注意が必要です。実用であればねじ込み式スリットフードを、はめ込み式フードを使用する場合はマスキングテープなどで固定すると安心です。
右がオリジナルの初代ズミルックスM35mm。左が今回撮影で使用した復刻版『Leica ズミルックス M35mm F1.4 11301』です。初代の風格を保ちつつもフォントなどは現代のレンズデザインが用いられており、まさにネオクラシックと呼べる1本に仕上がっています。
60年の時を経て現代に甦った銘玉。
F1.4開放絞りの甘美な世界はまさにこのレンズだけのもので、夢を見ているかのような世界を楽しめました。手にした時は開放絞りにこだわろうと思って臨んだ今回の撮影でしたが、実際に使用してみると少し絞ったときの解像感と柔らかさの融合がとても気持ちよく、そのどちらもを楽しみたいと思えるレンズだと感じました。「ライカのレンズには物語が宿る」ということを聞いたことがありますが、まさにそれを体現しているかのようなレンズでしょう。ひとたびシャッターを切ればそれだけの言葉がこのレンズの中にはあると実感できるはずです。ぜひこの60年の時を経て甦った銘玉でこれからの日々を写してください。
Photo by MAP CAMERA Staff