Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical VM
2021年01月27日
この発売を待ちわびていた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。フォクトレンダー史上最高性能の標準レンズを謳い、ソニー Eマウントで先に発売された『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2』が遂にライカMマウント『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2Aspherical VM』となって発売されました。フォクトレンダーのレンズの中でも高性能な製品に与えられる称号APO-LANTHAR (アポランター) 。ソニー Eマウントでは他の焦点距離も発売されていますがライカMマウントの現行モデルとしてはこのレンズが最初の1本です。
APO-LANTHAR(アポランター)の歴史の始まりは実は1950年代から。ドイツ時代から続く赤・緑・青の特徴的な線の意匠は現代のAPO-LANTHARにもしっかりと引き継がれています。
夕暮れのカットに好きなものが多すぎて悩んだ結果、最初の1枚目に挿れてしまおう!という答えが出ました。自分で自分の写真を褒めるなんて滑稽ではあるのですが、これは紛れもなくレンズの力。何度でも讃えましょう。海から家路につくサーファーも高精度のレンジファインダー連動機構のおかげで見事に捉えることが出来ました。50mmのF2という昔から存在する一般的な標準レンズですがアポクロマート仕様による輪郭部のこの素晴らしい立体感。彼方に沈む夕日や遠景の絵柄にマッチしたボケ感。「撮る」という行為に純粋に夢中になった1日。ぜひご覧ください。
水面に浮かび上がっていたサイドミラーにピントを合わせてみたのですが、ある意味フィルターを通して撮ったようなものなのに、想像以上のピントのキレが出て驚きました。手前のボケに全く嫌な感じがしないのもさすが。フォクトレンダーの見ていて飽きがこないニュートラルな発色はとても魅力的です。
この日はまさに快晴そのもの。前日に雨が降った影響か波も高く、大勢のサーファーが波を楽しんでいましたが、筆者自身もこのレンズの立体感をモニターで確認しながらニヤニヤする1日となりました。開放値がF2であるということがこの絶妙なボケ量を演出してくれています。F2でこんなに立体感が出るの?という答えはやはり収差を抑えてくれるアポクロマートのおかげでしょう。また本レンズの良さをさらに引き出しているのはこのピントリングの操作感です。微妙なピント調整が必要な時の感覚をすぐに掴むことが出来ました。
ソニー EマウントをベースにフルサイズMマウントセンサーに最適化した今レンズは同じ名前でありながらスペックには違いがあります。最短撮影距離は0.7m。(画角も46.5°と46.2°で僅かですが変更)全長を短くすることでレンジファインダーのケラレも軽減され重量は約80gほど軽量化されています。さらにソニー Eマウント用レンズでは12枚の絞り羽根の一部を丸めることによって、F2.8でも円形絞りになるという特性がありましたが今回はF5.6時も円形になる特殊形状になっているとのこと。同じ仕様で造り上げたのかは分かりませんが設計者達のチャレンジ精神と熱意にただただ感服いたします。
ちなみにこのカットも開放絞り。洗濯バサミがつらつらと並んでいるのですが、ボケが綺麗に溶けていっています。開放絞りでは周辺減光や隅のほうにレモンボケが現れるのですが気になる場合絞ることで解決出来ます。個人的にはこの周辺減光は没入感があって好みです。
実はこのカット、このレンズのファーストショットです。最初からこんなふうに撮れてしまったら期待に胸膨らませるしかありません。
夕日が射してきた時間帯、ガラス越しにこの光を見たら綺麗だろうなと思いシャッターを切りました。ガラスの反射や背景の車や人のボケ感がとても魅力的です。このシチュエーションで滲まないピント面は見事としか言えません。ちなみに写真は撮って出しの状態です。本当によく写ります。
信号待ちの間、スクーターに乗ったサーファーが遠目に見えたので大体このくらい、というところにピントを合わせておいてタイミングを待ちました。こういう撮り方はレンジファインダー機に限っての話でもないのですが、ガラス越しのファインダーで瞬間を覗きながら撮るというのはやっぱり楽しいものです。
まるで何か物語が始まるかのような情感たっぷりな写り。もともと今回のカットは良いと思うものが沢山ありましたが、このカットは筆者の撮影レベルが完全にレンズに置いてけぼりにされました。アポクロマート設計による傑出した結像性能と描写の美しさ。多くの写真家の心を魅了してきたAPO-LANTHARがまた1人の一般男性を虜にしてしまった瞬間の1枚です。
心を掴んで離さない標準レンズ
いかがでしたでしょうか。筆者は夕方頃には取り憑かれたように夢中でシャッターを切っておりましたが、その夢中になった理由を少しでもお伝えできていれば幸いです。そしてこうして1日が終わって振り返ってみてこれだけの晴天下の撮影でゴーストの類を全く見なかったことに改めて凄みを感じました。
ところでアポクロマート設計、非球面レンズ、フローティング機構、50mm F2。となればやはりライカのアポズミクロンが頭に浮かびます。やはりMマウントユーザーとしては「いつかはアポズミクロン」という想いがありますが、この『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical VM』の手応えに悩ましい選択肢が増えてしまいました。まぁ50mmの単焦点は何本増やしても何故かまた増える、というのがこの世界の一般常識ですから、それはそれ、これはこれ、という気持ちでどちらにも向き合えばいいのではないでしょうか。
フォクトレンダーが史上最高性能の標準レンズと謳ったこのレンズ、筆者はその言葉に疑いなしと確証を得ることが出来ました。ちなみにマウントアダプターを介して他社のカメラに繋ぐことは出来るのですが、本来の光学性能は発揮出来ないということなのでこのレンズのフルのポテンシャルを楽しめるのはMマウントユーザーの方だけの特権。そう考えたら悩む必要なんてないのかもしれません。現標準レンズの最高峰の一つ。ぜひお楽しみください。
Photo by MAP CAMERA Staff