Voigtlander HELIAR classic 50mm F1.5 VM
2021年09月11日
オールドレンズの世界に足を踏み入れたことのある方ならば、本レンズの登場は驚きと期待に満ちた衝撃だったのではないでしょうか。1900年にハンス・ハルティングが設計したフォクトレンダー伝統のレンズ『HELIAR』。トリプレット型をベースに1群と3群目に貼り合わせレンズを使用した3群5枚の贅沢な構成は、あのテッサーより史実上2年先に設計された銘レンズです。
近年で言えば『HELIAR 50mm F3.5 Vintage Line VM』やミラーレス専用の『HELIAR 40mm F2.8 VM』などが記憶に新しいですが、ヘリアーの歴史上F1.5の明るさを持つレンズは今まで存在していません。しかも今回は2群目も貼り合わせレンズを採用し、その構成は3群6枚。近しい構成を持つ50mmレンズといえば『ヘクトール 50mm F2.4』くらいなもので、この構成でF1.5の明るさは誰も見たことがない描写と言っても過言ではないでしょう。
現代に登場した“最新のオールドレンズ”『Voigtlander HELIAR classic 50mm F1.5 VM』。ぜひその描写をお楽しみいただけたらと思います。
トリプレット型で出やすいとされている“バブルボケ”を意識して撮影したファーストカット。それに対して3枚目はF5.6まで絞って撮影しました。とても同じレンズで撮影したとは思えないシャープな描写です。昔は「枚数が少ない方が抜けが良くて写りが良い」などと言われてきたカメラレンズですが、『Voigtlander HELIAR classic 50mm F1.5 VM』を使用するとその言葉に納得させられる説得力を感じます。重厚な教会の外観と、フォクトレンダーらしい群青の空の色。絞りを使いこなして写真のイメージをコントロールする面白さが本レンズにはあります。
ライカを手にするとアンティーク家具や歴史的な建物など撮りたくなってしまいます。レンズコーティングはシングルコートのみの仕様ですが、発色は良く、シャドウ部の階調が若干なだらかな印象です。F1.5の明るさもあって薄暗い室内撮りも大丈夫。光量の少ない条件の方が開放付近でもピントピークもわかりやすく、画全体がしっとりと仕上がります。
まだ色付く前のコキアを最短距離である0.5mmに合わせて撮影しました。滑らかとは言えないものの、独特の魅力を感じるボケ味です。本レンズの最大の特徴は、最新の高性能レンズとは全くベクトルが違うレンズだということ。メーカー自身も「APO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalの対極にある製品コンセプト」と謳っているように、数値化できない美の感性や、ヘリアー型でF1.5というロマンが本レンズにはあるのです。
9月に入ってからは雨続き。水滴付いたガラス越しに見える光が美しかったのでカメラを向けました。晴れた日の写真も良いですが、雨の降る夜に撮るスナップは、普段見ている世界と少し違うように撮れるので好きです。
古き良き、美しさ。
ヘリアー型をベースにした3群6枚でF1.5という明るさを実現した『Voigtlander HELIAR classic 50mm F1.5 VM』。強い個性は持ち合わせているものの、描写をコントロールする楽しみがあるレンズでした。オールドレンズの面白さと現代レンズの扱いやすさを両立させた素晴らしい1本だと思います。レンズデザインに関してもオールドレンズ好きが思わず唸るほどの美しさ。ピントリングに真鍮素材を採用したブラックニッケル仕上げに加え、ローレットには戦前レンズを思わせるようなダイヤパターンの加工が施されています。新品で購入できる今まで見たことのないオールドレンズという例えが『Voigtlander HELIAR classic 50mm F1.5 VM』に適切かもしれません。写真に新しい表現を感じる1本でした。
Photo by MAP CAMERA Staff